トネリコ
健康診断も無事に終わったので、返事も待たずに去っていったトネリコのもとへ向かう。
場所は魔法協会二階のトネリコの仕事部屋だ。
わりと職員の通りが多い場所に位置するその部屋は、その手前二つの部屋と同じようにひっきりなしに人が出入りしていた。
「相変わらず忙しそうだな」
イグニスの後ろをついて歩くスコットは、普段入ることのない魔法協会職員がうろつく廊下をキョロキョロと見ていた。
なかでもスコットが不思議に思ったのは、関係者以外立ち入り禁止の札を無視するように中に入ったイグニスたちに協会職員は注意をすることもなく、通り過ぎて行くことだ。
視線はどこかからかいのオモチャを見ているようだ。
ブルリと身震いをしたスコットは部屋の扉にかかっている札を見ながら歩く。
トネリコの部屋の手前、セルジュと書かれた札があった。
イグニスがトネリコの部屋をノックすれば、中からどうぞと声が聞こえる。
中に入れば、トネリコともう1人魔法協会の職員の女性がいた。
部屋は仕事机と二つのソファに挟まれるようにローテーブルがある。
通り道以外はものに覆われている。道があるだけ、センよりはマシかもしれない。
「さて、2人がきたから休憩をもらうとして、そこの台車のやつは持って行って」
トネリコは出入り口付近に置かれた台車を指差す。台車の上にはスコットの身長ほどの大量の書類が置かれている。
女性は驚いたあと、呆れたように言った。
「これ……片付いてたんですね」
「うん。よろしく」
「終わっていたなら言ってくださいよ」
「自由時間も確保したいから」
女性が部屋を出て行くのを見送って、トネリコはイグニスとスコットを座るよう促す。
イグニスが資料と書類に埋もれたソファを発掘してスコットと腰掛けると、トネリコは瓶に入ったジュースを2人に用意をする。
「2人とも元気そうで安心した。スコット君は随分と大きくなって驚いた」
「え?」
スコットが首を傾げるとトネリコが教えてくれる。
「君を迎えに行ったメンバーだったからね」
「そうなんですか」
「覚えてる方が少ない」
自分も2人の向かいに腰掛けたトネリコは、風の魔法を使って散らかった書類や本を先ほどまでいた仕事用の机に載せる。
トネリコは広くなった机にお菓子を風の魔法で運び、イグニスを見る。
「セルジュから話は聞いていたけど、本当にちゃんと出来てるとはね。驚いた」
感心したようにトネリコが言う。
「それ、全員に言われる」
ふてくされたようにイグニスがつぶやけば、トネリコはクスクスと笑った。
「仕方ないと思うけど、あの時は賭けの対象になりかけ――」
しまったと一瞬言葉を止めるが、そのままトネリコは続ける。
「――た、わけだし」
イグニスは複雑そうな顔をする。
本当に弟子を引き取るのかとすごく確かめるように言われていたが、その後、弟子を育てられるか賭けの対象になっているのは初耳だった。
それから雑談をしていると、ノックの音が聞こえる。
「仕事はないはずだけど……。どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて入っていたのは、センだった。
「おかえり、セン。報告はお茶しながら聞こうか」
トネリコはセンにもジュース入りの瓶を渡す。
「え、でも――」
客人がいるのにと声に出そうとして、客人が誰かわかるとセンは目を丸くする。
「イグニス、スコット君」
「セン師匠だ」
トネリコはそういうわけだからと、笑って自分の隣をセンにすすめる。
「どうだった?」
「問題はなさそうかな。浮いた予算はこっちに回してくれるって、皇帝が正式な書類を作ってくれた」
「助かる」
書類をトネリコに渡す。目を通したトネリコは、仕事机の引き出しに書類をしまう。
ひとしきり話したあと、協会に泊まっていこうとしていたセンに、トネリコはせっかくだしイグニスたちの家に泊まったらどうかと提案する。
イグニスはちょっぴり嫌そうにしていたけど、スコットが呼びたそうにしているのでセンを家に招くことになった。
ありがとうございました。




