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三年後と日常

 スコットがイグニスの弟子となって三年。


 イグニスの毎朝の日課は、朝食を作り、なかなか起きないスコットを起こすことから始まる。


 焼きあがったばかりのパンを皿にのせて、机に置く。相変わらず出来はいまいちではあったけど、スコットは文句を言わず食べるので上達はしていない。美味しいとも言われないが――。

 スコット曰く、師匠らしいガサツな料理とのことだ。


 リビングに一番近い、スコットの部屋の扉を乱暴にノックすると、返事がないのは分かっているのでそのまま部屋に入る。


「朝だぞ。起きろ」


 床に散らばったおもちゃたちを踏まないように窓の前までイグニスは移動する。

 そして、魚の絵が描かれたしっかりと外からの光を遮断するカーテンを開ける。

 目をこすりながらスコットが上体を起こす。


「ししょー、おはようございます」


 残っていた作業がひと段落ついた頃、スコットがリビングに現れる。

 まだ少し眠そうな顔をしているが目は覚めたようだ。

 向かい合って椅子に座る。


 イグニスは忙しくても一緒に食べることにしている。弟子時代からの習慣のようなものらしいがスコットは気に入っているようだ。


「いただきます」

「いただきまーす」


 パンを頬張りながらスコットが尋ねる。


「師匠、今日はなにするんですか」

「決めてねぇな」


 そろそろ魔法の練習を始めてもいい頃だとイグニスは思っているが、練習法に悩んでいる。


 魔法を使い始めた頃は、とにかく魔法の暴走や暴発が多い。


 師匠を倒すことだけを重視して、考えなしに魔法を使っては痛い目にあってきたイグニスは、それがどれだけ危険かを人より理解しているつもりだ。

 だからこそ、基礎になる部分はしっかり訓練できるようにしたいのだ。


「じゃあ、今日は休みに――」

「するわけねぇだろ」

「ぶー」


 むくれるスコットは頬を膨らませる。

 イグニスは心の中でため息をついて、残っていたパンを口の中に放り込んだ。

 空になった皿を見てイグニスはひらめく。

 その皿は丸く、中央に赤い円があった。


「今日やることが決まったぞ」

「今度は一体なにを?」

「的作りだ!」


 スコットは呆れた風に首をかしげる。

 時折、完全な思いつきで行動する師匠(イグニス)だ。今回もそうなのだろう。


「魔法訓練の準備。完成次第やるぞ」

「ついに、ついに本格的な魔法を……」


 スコットは歓喜の声を上げる。

 簡単な補助の魔法はイグニスの手伝いで使うことはあったといえ、一人で使うことはなかった。


 秘密で使おうにも、魔力を感知されてしまえば、すぐにばれてしまう。

 ばれてしまえばこっ酷く怒られるのは目に見えているのでやっていない。


「早くやりましょう!」

「すげーやる気……」


 午前中は設計図らしきものを書き、午後からは的を作る作業に取り掛かる。

 庭にずっと転がっていた長い丸太を材料にして、魔法を使って切っていく。中心に色をつけるのはスコットの仕事だ。


「くー、今から楽しみだー」

「雨が降ったらやらないからな」

「え?」

「やっぱりか」


 スコットは驚いた顔でイグニスを見る。

 どうやら彼の中では雨天決行だったらしく、イグニスは頭を抱えたくなった。


 丸太に塗ったインクが乾くと、庭の木の枝にぶら下げたり、後ろに支えをつけ地面や台の上に置いた。


「なんとか終わったな」

「師匠、まだ終わってません!」

「何を――」

「てるてる坊主です!晴れなきゃできないなら作らないとです!!」

「おーそうか。頑張れ」


 やる気に満ちたスコットと対照的なイグニスは棒読みの応援をする。


 そのあと、つかわない紙や布を大量にリビングに持ち込んだスコットによるてるてる坊主作りが寝るまでずっと続けられていた。


 スコットが自室で寝たあと、イグニスはリビングで一人困った顔してため息をつく。


「どうするんだよ、これ」

 

 窓に飾りきれなかったてるてる坊主が山になって机上に置かれていた。


読んで頂き、ありがとうございました。

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