レオルド
「久しぶりだな、イグニス」
固まったままのイグニスにレオルドが声をかける。
レオルドの声で我に返ったイグニスは、なんというか、ちょっとだけ嬉しさが滲み出ていた。
「………レオルド、さん。どうしてここに?」
「異動先がここになってな」
「そうなんですか。お茶すぐに用意するんで、中入ってください」
「ああ、ありがとう」
(こんなうれしそうな師匠見たことない)
スコットは表情がわかりやすいほど表に出ている師匠を見上げて、驚くというか呆然としていた。
「センには伝えていたんだが」
「聞いてないですけど。な、スコット」
いきなり会話を振られたスコットは驚いて慌てる。
「え?えーと、たぶん、そうです」
「そうか」
レオルドが笑い出す。
「センが忘れるとは、二人に会えたことが相当嬉しかったんだな」
「え?師匠はいつもこんな感じだって――」
「隠すのが上手いからな、あいつは」
「そうなんですか?」
頷いたレオルドは、イグニスが用意したお茶を飲む。
「それにしても、上手くやれているようで安心した。ケンカばかりも大変だからな」
「あれも特殊だと思いますけど」
イグニスは頰をかく。
ほぼケンカばかりの師弟は知ってる。
センとレオルドの友人とその師匠であり、その弟子はイグニスの友人であるトアルだ。
ジジイとバカ弟子が二人がお互いを呼ぶ普段の呼び方で遊びに行くと、時折、魔法が飛んでくる非常にスリリングな家だ。
イグニスが呟く。
「元気でやってんのかな」
つぶやきを聞き取ったレオルドは、一瞬言葉に悩んで言う。
「そうだな、アレスさんならまだまだ現役だよ。警備団の指導に来て頂くことがあるが、新入りたちよりも元気だ」
「あの人は結構歳じゃ……」
アレスはレオルドたちの友人の師匠で、ジジイ呼びされている人だ。
ちょっとした事情から警備団を引退後に師匠になった特殊な人である。
レオルドからの話を聞いて、イグニスは安心した顔をしながらも寂しげを顔をする。
「きっとみんな元気ですね」
「そうだな」
二人の会話をおとなしく聞いていたスコットは、イグニスをじっと見上げる。
視線に気付いたイグニスは、スコットの言いたいことに気付いて少しだけ言いにくそうに言う。
「……友達だよ」
言葉の中にあるなにかを察したスコットはためらいがちに尋ねる。
「会わないんですか?」
「今は、な」
いつかは会いたいと思ってはいる。
けれど、怖くもあって今はまだ勇気がない。
そんなイグニスに気づかれないようにレオルドは笑う。
イグニスとトアルをよく知る師匠ズ(レオルドを含む)は二人が同じ迷いを持って動けないことを知っているから、もどかしさはある。
ただ、二人が言い出さない限りはこの件に手を貸さないと決めている。
だから、レオルドは仕方がないと笑う。
レオルドは残ったお茶を飲み干して、時計を見る。
「そろそろ帰るよ。元気そうでよかった」
席を立ったレオルドはスコットの頭を優しく撫でる。
「何か困ったことがあれば、警備団まで来るといい。 センほどの力はないが力にはなれるはずだ」
「そんなこと」
レオルドの言葉をイグニスはすぐに否定する。
すると、レオルドは笑い出す。
「あいつは別格だからな」
時間が出来たらまた来ると言い残し、レオルドが帰ると、イグニスは机に突っ伏す。
「師匠⁈」
「あ〜、緊張した〜」
どっと疲れが出たようなイグニスは、頭が回っていないのか少しだけ昔の話をしてくれる。
それは、スコットが初めて聞くイグニスの弟子時代の話だった。
ありがとうございました。




