帰る前にやっておくこと
誤字脱字、教えていただきありがとうございます。
ありがたいです。
イグニスはセンの部屋を訪ねるとわずか言いにくそうにセンに言う。
「明後日くらいに帰ろうと思う」
やってもやっても終わらない仕事をセンが片付けていると、イグニスがそんなことを言ってきた。
手を止めて顔を上げたセンはいつも通りに優しく微笑む。
「わかった。無事に出来たなら良かった」
「まあ、なんとかな」
わずかにセンから目をそらしてイグニスは言う。
その様子にセンは表情に出さずにクスリと笑う。
「それにしても、事前に言ってくれるとは成長したね。イグニス」
「うるせぇな。ただ、この前そうとう買い込んでたみたいだし、さすがにな」
「師匠ぶりが板についてきたみたいだね。こっちとしては助かるよ」
センがおかしそうにクスクスと声を上げて笑って、イグニスはムッとしたように返す。
「少しは苦労もわかったからな」
「わかってくれた?それなら、腕によりをかけて作りますか」
センの部屋を出たイグニスは、スコットにそのことを伝えにいく。
話を聞いたスコットはガッカリとうなだれる。
「もう帰るんですか⁈」
まるで落ち込んだ犬のようで、あるわけのないしっぽが見える。
「……セン師匠のご飯美味しいのに」
スコットのつぶやきにダメージをくらいながらイグニスが呆れたように言う。
「また来ればいいだろ」
その言葉にスコットは勢いよく顔を上げて、イグニスの服を掴みイグニスの顔を見上げる。
「本当に本当に本当ですか?またセン師匠に会えますか」
「時間があるときならな」
「本当に?」
念を押して確かめるスコット。
「ああ。なんでそんなに確認すんだよ」
イグニスが尋ねれば、スコットは当たり前という風に返す。
「だって師匠、あんまり会いたくなさそうだったから、またセン師匠に会えるのかわからないから」
「……個人的にはまだ気軽に会いに行こうとは思わないけどな。まぁ、俺じゃ教えられないこともあるだろうし」
またセンに会えるとわかったスコットは上機嫌にニコニコと笑う。
その姿に思わず吹き出しそうになる。気づかれると面倒そうで、イグニスはさっさとスコットのいる部屋から出て行く。
帰る準備をしながら、イグニスは家の中を見て回る。
一度大きく息を吐くと、散らかった数枚の紙を拾い上げる。
「片付けるか」
片付けたのは数日前のはずだというのに、散らかり始めている家の中をイグニスは片付け始める。
「それにしても、いつ休んでんだか」
思い返してみても、センが休んでいるイメージがない。
弟子の育成はもちろんのこと、家の家事に魔法使いとしての仕事、そこに魔法協会からの頼まれごと。
久しぶりに戻ってきても、忙しさは変わってないようにみえる。
むしろ、自分がいない分忙しさが増したようにすらみえた。
床に置かれた本を拾い上げて本棚に戻せば、やってることは自分も大して変わらないとイグニスは思う。
魔法をセンに向けなくなったことくらいが、今までと違うだけだ。
すぐに元通りに散らかるだろうけど、つぶやきながらイグニスは家の中を片付けていった。
イグニスたちが帰る日――。
見送るセンはいつも通りの柔らかな笑顔をしていた。
「困ったことがあったらいつでもおいで、イグニスもスコット君も。もちろん、何もなくても来ていいんだからね」
「気が向いたらな」
「はい!絶対絶対に遊びに来ます!」
イグニスはちょっぴり目を背けて、スコットはあるはずのないしっぽをブンブンと振りながら、返事を返す。
二人の姿が見えなくなったから、センが声を上げる。
「あっ」
わずかに悩んだ後、一人センは頷く。
「まあいいか。嬉しいサプライズってことで」
イダズラをするようにセンは笑った。
ありがとうございました。




