町へ行こう
イグニスとセンが勝負をした翌日の朝。
「何をしてもらうか決まったよ」
センがお茶を飲みながら言った。
イグニスはおかしなことじゃないようにと祈りながら、覚悟を決めてセンの続きの言葉を待つ。
「身構えなくてもいいのに、はい」
声をあげて笑ったセンは三枚の紙を机に置く。
「なんだ?」
机に置かれたそれをイグニスは手にとって見る。横からスコットも覗き見をする。
紙にはそれぞれ一枚ずつ三人の名前が書いてある。
名前の上に大きめの文字で書かれた文字をスコットがゆっくりと読み上げる。
「つうこうきょかしょう?」
「うん。そうだよ」
センがにこりとして頷く。
「森の外に行こうと思って」
頭を抱えたイグニスがおそるおそるセンに尋ねる。
「これ、いつ用意したんだよ。それに講習会はどうすんだよ」
魔法使いの暮らす森の外に行くには、センの用意した通行許可証と、魔法を使わないなどの普通の人たちが暮らす常識を講習会で習う必要がある。
そもそも通行許可証を手に入れるのには早くても一週間はかかるはずなのだが――。
「昨日お願いしたらすぐに用意してくれたよ。講習会はひとまず僕とイグニスがいれば大丈夫だろうって」
「相変わらず甘すぎんだろ魔法協会」
センはアハハとだけ笑って、そわそわしているスコットの方へ向く。
「スコット君。森に行く前に約束があります」
「は、はい」
背筋をピンと伸ばすスコット。
「魔法は絶対に使わないことと、イグニスや僕から離れないこと。それと気になるものがあったら言うこと」
指を立てて説明するセンの言葉にコクリと首を縦に振るスコット。
「それじゃあ、準備をして行こうか」
馬車に揺られること一時間、降りてから10分ほど歩くと目的の町に着く。
「うわぁ」
感嘆の声を上げるスコット。
魔法協会に引き取られてからは一度も森の外に出たことはなかったし、町の景色なんておぼろげに覚えているだけだ。
「人がいっぱい」
「そうだな」
魔法使いの暮らす森と比べれば随分と人は多い。
歩き始めるイグニスとセン。
スコットは追いかけようとして、足がすくむ。伸ばした手は空をきって、声を出そうと息を吸い込んだ。
その時、センが振り向いてふわりと微笑んでスコットに手を差し伸べる。
「怖くないよ。大丈夫」
記憶がどれだけおぼろげでも、魔法使いだと分かったときの周囲の反応は、よく覚えてるものだ。
スコットもそうなのだろう。
優しい声音と繋いだ手の体温に、スコットは安心をして歩き出す。
飲食店を見つけて休憩がてら入って休むと、そこからゆっくりと町を歩いて行く。
歩いていると小さな雑貨屋の店先に並んだぬいぐるみにスコットの目が惹かれる。
センとイグニスは目配せして、中に入る。
中にはわずかな文具やぬいぐるみ、オルゴールや時計などが置かれている。
「師匠、これ可愛いですね」
「……そう、だな」
スコットが手にとって可愛いと言ったのは、おそらく動物なのだろう目がギョロリとしたぬいぐるみで、お腹には時計を抱えている。
否定もできずイグニスは曖昧に賛同する。
文具をみていたセンは、いくつかのペンとノートを手にしていて、スコットの持っているぬいぐるみをヒョイと取ると、そのまま会計をする。
プレゼント用のリボンをつけられたぬいぐるみをスコットに手渡す。
それから3人はまたゆっくりと町をみて回る
日が降りるころ、帰路に着く。
帰りの馬車でぬいぐるみを抱いて眠ってしまったスコットをイグニスはおぶって歩く。
「イグニスも楽しめた?」
「ああ」
「それなら良かった」
二人はスコットを起こさないようにしながら、他愛ない会話をしながら家へと帰った。
ありがとうございました。




