かつての日常 その2
センの一言に、当然のようにのるイグニス。
それは二人の間にあったかつての日常。
たった一度でも魔法をセンに当てられたなら魔法使いをやめてもいい。
本来できるはずもない約束をセンはイグニスと約束していた。
結果はご覧の通りで、イグニスは魔法使いとして後継を育てている。
「追加ルールを設けようと思うんだけど」
センがイグニスに問いかける。
「例えば?」
「スコット君に被害がないようにすることと、魔法が当たったかの判定はスコット君にしてもらうこと」
「分かった。スコットが寝るまでだな」
二人の会話を理解できないスコット。
けれど、これから起こることに巻き込まれるくらいはなんとなく察したスコットは、自然に逃げる準備をしていた。
「スコット、審判役頼む」
不安が勝りながらもスコットはイグニスに尋ねる。
「ボクは何をすれば……」
「俺がセンに魔法を当てられるか見て欲しい」
魔法使い同士の戦いは、見てみたいとスコットは思う。ただし、もっと安全な場所からが前提であるが。
「わかりました」
怖いながらも審判役をスコットは了承。
「開始だね」
言ったセンは持って帰ってきたらしい書類を机に並べて、何かを書き始める。
移動すらしない二人にスコットは首をかしげ、イグニスに聞いてみる。
「外に行かないんですか?」
魔法は家の中で使うなと教えられているスコットからすると不思議で、戦うそぶりさえないセンの行動もおかしすぎる。
「問題ない」
それだけ言うとイグニスは、直径15センチほどの火の球を作り出してセンに向かって放つ。
「―――えっ⁈」
それは恐ろしいほどのスピードで飛んでいく不意打ちに近い一撃。
書類に何かを書いていたセンは、羽根ペンを小さく一振りする。それだけでイグニスの放った魔法はどこにも無くなっていた。
「やっぱりな」
「消えた……」
一瞬にして消えた魔法にイグニスは驚く様子はなく、当たり前だといった顔をしていた。
「な、なにが……起こったんですか」
驚きを隠せないスコットは、センとイグニスを交互を見るが、二人とも変わった様子はない。
二人にとっていつものことでたいしたことはない。
けれど、大抵の魔法使いからみれば驚くものである。
「魔法を消されたんだよ」
淡々とイグニスが教えてくれる。
「消した?相殺じゃなくて?」
「ああ、使えるやつ自体少ないからな」
「そうなんですね」
センが書類を書きながら口をはさむ。
「正確には分解なんだけどね。実践レベルだと、使える人は数えるくらいしかいないと思うよ」
「協会職員に勧誘される。いや、その未来しかないくらいだな」
「すごいことなんですね」
スコットは感心したように息を吐く。めずらしいものを見た感覚である。
それから、何度も魔法をイグニスは放つが、その全てをセンは何もないように消していく。
中には過剰なほどの強い魔法もあったが、効果はなく、隙をみて放つ魔法もクスクスと笑ってセンは容赦なく消していった。
「ふぁぁ」
いつもより夜更かし中のスコットの眠気も限界に近く、スコットが大きなあくびをする。
ウトウトしすぎて審判役に支障をきたしはじめている。
「タイムアップか……」
息を吐いてイグニスはその場に倒れこむ。
センは腕を伸ばして伸びをする。
「今回も僕の勝ちだね。何してもらおうかな」
「むちゃぶりはするなよ」
「わかってるよ」
何をやらされるか怖いという顔をイグニスはして、スコットを部屋まで連れて行く。
歩くのもおぼつかない感じなので抱き上げて連れていった。
一人残ったセンが呟く。
「強くなったね、イグニス」
まだまだ超えられる気はないけれど――心の中で付け足して、センはそっと広げていた本を閉じた。
ありがとうございました。
センとイグニスの話の方が面白くなる気がします。




