本当の理由は?
あの後、夕食の時間には部屋から出て、何事もなかったかのようにしれっと食事に参加するイグニスの姿あった。
あまりに自然な動きは常習犯を感じさせた。
呆れたように笑うセンは何も言わず、イグニスの分も用意をしていた。
出来た料理を運ぶお手伝いをしていたスコットは、そんな師匠のイグニスになにか言いたげに見ていたりしたけど――。
夕食はどちらかというと子供よりの、スコットに合わせた料理だった。
イグニスが作ったものと比べると、数倍は美味しいとのこと(スコット談)
「出来そうですか師匠?」
頬張りながらイグニスに尋ねるスコット。
パンをちぎりながらイグニスが答える。
いつもより食べるスピードが速い気がするのは気のせいだろう。
「時間があればな」
「必要な資料があれば、さっきの部屋にあるからね」
「なくてもできるっての」
「そっか」
三人での初めての団欒が終わる。
出した料理は全てなくなっていた。
「おやすみなさい」
スコットがあくびをして、あてがわれた部屋にといく。
「おう」
「おやすみ」
スコットが部屋に行って、居間に残った二人の間にしばらくの間、静かな時間が流れる。
居心地が悪いわけでもない。ただ昔からこんな感じだった。
先に口を開いたのはセンだった。
「それで、本当の理由は?あれだけだったら、イグニスはこないよね」
「そ、れは……」
言葉につまるイグニス。
「これでも頼れる師であるつもりだよ」
その声はどこか自信に満ちていて、根拠もないのにひどく安心するものだった。昔からそうだ。
言いにくそうに、けれど淡々とイグニスは語り始める。
「黒龍の噂をセルリアから聞いた。センだったら、協会から何か聞いてんじゃねぇかと思って……」
センは納得したように一人頷く。
「スターリンクの家じゃ情報が早いわけだ。うん、協会でも噂は入ってるよ。今、警備団が調べてる」
「あくまで噂か」
「そうだね。それと、僕らの辺りは一応目を光らせてくれてるみたい。急に近づいて来る人には気をつけてね」
「わかってる。そもそも、俺らに気安く声かけて来る時点で、あやしいだろ」
声を出さずにセンは笑う。
「そうだね。一人はインチキ魔法使いで、もう一人は乱暴魔法使い。よくも二代続きで悪名があるものだよね」
流れてくるウワサだけを信じれば、二人とも人が近づいてくるような存在ではない。
近づいてくるとすれば大抵、半信半疑でその強さを利用しようとする人間か、もしくは面白半分の人間くらいだ。
不安が拭えない、そんな顔のままのイグニスにセンは優しく声音で語りかける。
「イグニス、もしも不安が募るなら、それは――大切なものが大きいからだよ。どれだけ強くなっても払うことはできないし、できなかったよ」
「不安か……」
イグニスが呟く。
「うん。家族としてなら一緒に分かち合えばいい。けど、教え導く者としてなら不安は微塵も出さずにいなきゃならない。難しいことだけどね」
「無理でも隠し通せってことか」
天井を見上げてイグニスは息を吐いた。
一瞬脳裏に浮かんだ友人の顔に、笑いがこみ上げる。
「あいつには無理そうだな」
「あの子には強い二人がついているし、今はもう――ためらわずに戦える。イグニスもあの子も」
「そう、だよな。二度目なら少しは対応できるよな……」
変わらない師匠との会話は、不安を吹き飛ばしてくれる。
今日はしっかりと眠れそうだとイグニスは思った。
ありがとうございました。




