師匠たちの師弟関係
センという人物はとにかく穏やかな人で、いつも笑みを絶やさない。
今だってそうだ。
突然帰ってきた弟子に小言一つ言うことなく、朗らかに笑ってお茶の用意をしている。
まあ、独り立ちしてから連絡一つしてこなかったので、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。
そんな彼は、魔法使いとして致命的なほど魔力が少ない。
だから、魔力が少ないと馬鹿にする魔法使いたちも多くは存在しているが、彼の実力をよく知る者たちは化け物と評価した。
馬鹿にされて勝負を挑まれたなんて噂もあるが、彼が大きな怪我をしたという話は一度もない。
まあ、噂は噂。
誰に聞いてはぐらかされるだけで、真実なんてものわからないのだ。
「急にどうしたの?」
机上にお菓子を置きながら、センがイグニスに尋ねる。
イグニスは答えにくそうにしながら、小さな箱を机の上に置く。
「魔法付与がどうも上手くいかねぇから」
「昔から苦手なだったもんね」
言い返したいが否定できず、イグニスは黙ってしまうが、センは気にせず箱を開ける。
依頼書を読んで一つだけ手に取って確認する。
「んー、これは……。イグニスには大変かも」
クスクスと笑って手に取った髪飾りに手をかざすと一瞬だけ光を放つ。
それをイグニスに渡す。
「これでやってみて」
「は?」
戸惑いながらもイグニスは、受け取った髪飾りに魔力を込めはじめる。
手こずって時間がかかったものの、魔法付与に成功する。
「できた?」
「ああ」
ちょっぴり理解が出来ない感じのイグニスに、センは説明をする。
「これ、僅かにだけどマイナスの効果がついてるみたいだね」
「そういうことかよ」
魔力の繊細なコントロール。
センにとっては得意分野で、イグニスにとっては苦手な分野である。
「ちょっと待ってて」
立ち上がって、センは別の部屋に何かを取りに行く。戻ってきた手には一冊の本があった。
表紙が見えるようにイグニスの前に置く。
「はい」
「自分で調べろってことか」
「うん。忘れてるだろうし、授業やってもいいけどイグニスからしたら余計なお世話かなって」
思っていることをピタリと当てられてぐうの音も出ないイグニスは、センが持ってきた本を手にしてスコットを居間に残し、自分の部屋に行ってしまう。
「師匠⁉︎」
「変わらないなぁ」
イグニスの後ろ姿を眺めながら、センはしみじみと呟く。
「スコット君、お茶のおかわりは?」
「えっと、お願いします」
どうしたらいいか分からなくなっているスコットにセンが声をかける。
スコットは悩んだ末に、机上に置かれたお菓子をみて、居間にいること選んだ。
初めて見る師匠の態度にあまり近づきたくない思いもある。
「もう少ししたら部屋に案内するね。イグニスのことなら放っといて大丈夫だよ。たぶん、すぐ出てくるから」
そう言ってセンは大きく伸びをする。
不安そうなスコットにセンは笑いかけて、普段の生活を尋ねてみることにしたセンだった。
ありがとうございました。




