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出会い

文章を書くのが苦手なので、ちょっとずつやっていけたらと思っています。

 赤い封筒の手紙に、彼は小さくため息を吐く。

 差出人は魔法協会。宛名は何度みても変わらず、彼の名前であるイグニスと書かれている。


 一人前の魔法使いとなって恐れていたこと――。

 魔法協会の職員でもなければ、いつかはやらなければならない役割だ。


 弟子の育成。

 一人前になった魔法使いの、一番大きな仕事である。一緒に暮らし、魔法技術を教えて一人前の魔法使いに育てる。はるか昔から続く魔法使いの伝統だ。


 ただ、彼の場合――主にイグニスのせいだが――少々いびつな師弟関係だったこともあり、気が進まなかった。

 それでも、魔法使いとしているからにはやるしかない。その道を選んだのは自分(イグニス)だ。


 ため息をついてイグニスは手紙の封を開ける。

 書かれていたのは、弟子の受け取り場所になる魔法協会の住所とその受け取り日時だけの簡素なものだった。


「中央協会に明後日か。随分と急だな」


 本来はそろそろ弟子を任せますよという通達が事前に来るはずなので随分と急であるが、都合がいいとイグニスは思った。

 心の準備なんていつまで待とうとできる気がしないからだ。


「さてと、まずは家の掃除だな。買い物は明日でいいだろ」


 イグニスは部屋をざっと見渡す。

 整理はできているが最近は掃除をさぼりがちで、所々うっすらと埃が積もっている。さすがに放置するのもどうか思う。


 手紙はリビングの机上、目につくところに置いてイグニスは箒を片手に掃除を始めた。


 翌朝、必要なものを買い足したイグニスは、買ってきたばかりの子供用の魔道書を読みながら時間を潰したが内容は頭に入らず、ろくに読みもせずにページだけをめくっただけだった。今から緊張してたら身が持たないのだが。


 手紙が届いてから3日。

 イグニスが弟子を受け取る日がやってきて、心の準備はできないまま魔法協会へ向かう。


 魔法協会の中は相変わらずで、職員たちが慌ただしく動いていて、見慣れた光景に少しだけ心が軽くなる。


 イグニスは気合いを入れるように深呼吸を一つして受付に行き、声をかける。


「あの――」

「お、イグニスだ。どうしたの?」


 後ろから聞いたことのある声がして振り返ると、そこにいたのは一人の男で、薄いグレーの短い髪に赤い瞳、着崩した上着を羽織っている。

 この人はここにいるのが不思議なくらい忙しい人だったはずなのだが。


「セルジュさん」

「協会嫌いが来るなんて」


 冷やかすように笑いながらいってイグニスの手に持った手紙に気づき、一人納得するように頷いた。


「そっか。今日だったんだ」

「あー、まぁ」

「案内するよ。3階だっけ?」


 そう言ってセルジュは受付にいる女性に確かめるために声をかけ、女性は手元のスケジュールを確認して返事を返す。


「はい。3階の2号室です」

「ありがとね」


 セルジュは女性に礼を言うとイグニスを連れて三階に向かった。


「絶賛緊張中って感じ?」


 歩きながらセルジュが尋ね、イグニスは慌てたように声をだす。


「そんなこと――」


 イグニスの言葉を遮ってクスクスとセルジュは笑う。


「安心していいよ、イグニス」

「いや、俺は」


 慌てるイグニスに対してセルジュはクスクスと笑って、心配しなくてもいいとイグニスの肩を叩いた。


「大丈夫。初日から師匠に勝負をふっかける以上の問題児、僕は知らない」

「………」


 イグニスはそっと目を逸らす。


「さぁ、ご対面!」


 扉をノックするとセルジュは扉を開く。

 部屋の中にいたのは一人の男の子で、イグニスを見ると黄金色の瞳をパチパチと数回瞬きをしていた。


 セルジュは男の子と同じ目線になるように屈むと声をかける。


「スコット。この人が、この前お話しした師匠になるイグニスだよ」


 コクコクと頷くスコットを見て、セルジュはイグニスにも声をかける。

 ただし、どこか楽しげな笑みを浮かべて――。


「で、イグニス。この子が弟子になるスコット。()()()()()()素直ないい子だよ」


 これがイグニスとスコットの出会いだった。


 二人の将来が楽しみだとセルジュは小さく微笑んだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

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