風邪っぴき
「師匠〜」
心細さにイグニスを呼ぶスコットは自室ではなく、居間のソファに横になっている。
普段はそうでもないのに、どうしてだか体調を崩すと心までやられて不安になってしまう。
「いるから、寝てろ」
全くと呆れるイグニスはスコットのおでこに置いた濡れタオルを冷やしなおすと、再びスコットの上に置いて、桶の水を変えにいく。
スコットは風邪をひいて熱を出していた。
最近、寒いが続いていたし、魔法を失敗して頭から水を被っていたのにスコットはそのまま練習を続けていたせいだろう。
桶の水を変えたイグニスはそろそろ昼食の準備でもするかと棚を開けて小さくため息を吐いた。
近々買い物に出る予定だったので、ほとんど食材がないのである。
買い物に出かけようにもスコットはあんな状態だし、すぐに帰って来るにしても時間はそれなりにかかる。
なりより今のスコットには恨まれそうだ。
ひとまず、今ある食材でスコット用に消化のいいものをつくって食べさせる。
常備してある薬を嫌がるスコットに無理やり飲ませ、部屋に返すがやはり居間に戻ってくる。
体調を崩して精神が不安になってしまう気持ちはイグニスも分からなくもないので強く言うこともできない。
自分は意地を張って部屋から出ることはなかったことを思えば、やはりスコットは素直なのだろう。
「しょうがない。手紙だけ送ってみるか」
どうしたものかと悩んだ末、イグニスはよくセンがやっていた方法を選ぶことにした。
ちょっとイグニスには気が引けるところがあるのだが、この状況なので仕方がない。
セルジュのサボりに手を貸すような形になってしまうとはいえ、うん、まぁある意味合法だ。
センに言わせれば、魔法使いの困り事の解決も魔法協会の役目なのだから仕事のうち、らしいが。
それからイグニスは部屋の換気や、残っている食材でのご飯の仕込みなどをテキパキと片付けていく。
時折スコットがイグニスが近くにいるか確認するように呼んでくるので、呆れつつも返事は返すのだがやはり買い物は難しそうだ。
「師匠〜」
「今度はなんだ?」
「お水が飲みたくて」
「目の前にあるだろ」
やっと静かになったと思えばスコットは眠っていて、部屋に戻したところでまた起きたら戻ってくると諦めたイグニスは、ソファで眠るスコットに落ちかけている毛布をかけてやる。
それから濡れタオルを替えると起きて探されても困ると、スコットからすぐに見える場所に座ってイグニスは読書を始めた。




