事前準備はバレないように
99話目。
「それでボクに頼みとは?」
セルリアは出されたお茶に砂糖とミルクを入れて、スプーンを使わずに魔法で中身をかき混ぜながらイグニスの返答を待った。
スコットはフィアに呼ばれカタリナの家に遊びに行っていておらず、リオンはセルリアの実家でそこそこ自由に過ごしているのでここにはいない。
弟子たちがいない方が都合がいいと言うイグニスの頼みなど、セルリアには検討もつかなかった。
しかし、出来ることであれば手伝う気ではいる。
「再来週、スコットが誕生日でな。知り合いも増えてきたことだし、ちょっと盛大に祝ってやりたいと思って」
魔法使いの誕生日は産まれてきた日のことではなく、魔法使いの弟子となった日のことだ。
理由はいくつかあるが、過去を捨てるという意味や、幼すぎてそもそも誕生日を思えていないなど、そんな背景から弟子になった日を記念日ではなく誕生日と呼んでいる。
「そういうことでしたか。宴会芸ならお任せあれ、人前には立ちませんが手品も家族から鍛えられてますから出来ますよ」
場を盛り上げるために力を貸して欲しいのかと思いセルリアはそう言ったのが、イグニスの頼みは違ったようで首を横にふる。
「手伝ってもらいたいのはそのための準備だ」
「なるほど」
人を呼ぶにしても、人数が多いとなるとその目安がイグニスには分からない。例えば食事1つとっても量やメニューなどイグニス1人だと考えても延々と悩むだけになってしまう。
そのため、慣れているであろうセルリアに声をかけたのだ。
協会の連中でもいいが、それは妙な恥ずかしいさもあるし余計なことは基本言わないセルリアがこの場ではベストだ。
「それで招待客は何人くらいですか。前後するとして大体で」
「……10人くらいか。協会の方は仕事が分からないから」
もっともセルジュあたりは仕事があってもサボってくる可能性が高いが。
「わかりました。会場はどうするつもりですか」
「人数的には外でやるしかないよな。飾り付けとかもしてやりたいとは思ってるけど」
「まぁ、ちょっと狭くなるかもしれませんね」
そう言って、セルリアは今いる部屋を軽く見回す。
魔法協会が使っていた家なのでそこそこ広いといっても、部屋数こそ多いがリビングなどはそこまで広いわけではない。
「どこか借りた方がいいか。せっかくなら飾り付けもしたいからな」
「それなら、うちを貸しますよ。使ってないあの無駄に広いスペースがありますから」
「頼めるか」
使っていない部屋の有効活用ですとセルリアは頷いた。
セルリアの家もイグニスたちの家と同じでマジックアイテムになるのだが、セルリアの父と祖父が注文したという家の間取りは少々変わっている。
実家にいなくても手品の練習などが出来るようにと作られた広い部屋がある。確かにそこなら人数が多くても問題ないだろう。
「あとは少しずつ詰めていくとして、一度帰りますね」
「そうだな」
セルリアは夜に公演があり裏方の仕事があるため、大まかに今決めてしまいたいのだがそうもいかない。
「うちのフクロウを一羽派遣するのでその子に持たせてください。その時はお金ではなくナッツを一緒に」
「分かった」
リーフェに乗ったセルリアが帰るのを見送ったイグニスは、スコットがいないうちにと招待状を書き始めた。
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