強制依頼
スコットが眠い目を擦りながら部屋を出ると、話し声が聞こえてくる。
「そうそう、今回は…………命令……からね。……やって………」
くぐもった声なので、どうやら通信装置でイグニスが誰かと話しているようだ。
なので、 スコットは挨拶をせずに顔を洗いに行くことにするが、後ろを通ろうとしてイグニスが気づく。
「スコット?もうそんな時間か」
イグニスが時計を確認する。
くぐもった声はコホンと咳払いをすると、淡々と静かな声で言った。
「期限は明日から七日間。では、よろしくお願いしますね」
「まだやるとは言ってな―――」
イグニスの返事も待たず、 一方的に通信を切られ会話は終了。
盛大にため息をつきつつ、イグニスは朝食の準備に取り掛かる。
リビングに戻ってきたスコットと朝食をとりながら、イグニスは今日の予定変更を話し始める。
「今日は訓練は中止。出かけるぞ」
「どこにですか?」
「ちょっと近くの洞窟まで」
「アイテム作りじゃないんですね」
家から20分ほどの距離にある小さな洞窟。
魔物の巣窟ではあるが、洞窟のそとに魔物が出ることはないため、中に入らなけば危険はない場所だ。
「ああ。仕事はそれだけじゃないからな」
「さっきの通信って仕事だったんですね」
魔法使いの仕事は基本的に、魔法協会にある仕事を自分で選んでやるようになっている。
冒険者のクエストのようなものだ。
違いがあるとすれば、一定期間なにも受けずにいると強制的に仕事が来ることだろうか。
「最近はなにもしてなかったからな。内容は強制の素材集めと簡単な加工」
「洞窟と素材集め……」
「必要なのは竜族のウロコと、蝶の羽だな。あとは適当にと、スコットは絶対に手を出すなよ」
「はい!!」
初めてのフィールドワークに、スコットは目を輝かせる。
あまりにもイグニスがこともなげに言うので、この時スコットはそれがとても簡単な仕事だと思っていた。
あの洞窟は魔法協会に危険区域に指定されている少々危険な場所だとも知らずに……。
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