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はると君 はじめてのおつかい

作者: まちゃ

 はると君は幼稚園のぞう組(年長)に通う5歳の男の子です。

家族ははると君とお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お姉ちゃん、お兄ちゃんの7人。

みんなとってもなかよしです。


ある土曜日のことです。新聞の折り込みチラシにこんなものがありました


「ワンマンスアイスクリーム、本日オープン!

チラシをご持参のお客様 25%OFF」


近所に新しくアイスクリームのお店ができたようです。

家族みんな、このお店のアイスクリームが大好き。

これまでは車で大体24分ほどの場所にあるショッピングセンターまで行かないと食べられませんでした。

でも、これからは違います。歩いていける距離にお店があるんですから。

食べたいときにいつでも買いに行けます。こんなうれしいことはありません。

うれしいのははると君だけではありません。家族全員がそうでした。


「アイス、食べたいねー」

お兄ちゃんが言います。

「私もー」

お姉ちゃんも声を弾ませます。

「それじゃあ、今日のおやつはここのアイスにしようか」

と、お父さん。

「チラシ持参で25%引きだし…」

チラシを見ながらお母さん。

「割引はデカいのぉ…」

「そうですねぇ…」

おじいちゃんもおばあちゃんも目を輝かせています。

その時です。はると君がびしっと手をあげました。


「僕、買いに行くよ!」


一斉に家族の目線がはると君に向きます。

「はると、大丈夫なのか?」

お兄ちゃんが心配そうに見つめました。

「無理しなくていいんだよ?」

お姉ちゃんも同じです。

お父さんとお母さんはお互い顔を見つめあっています。

「確かにせいじ(お兄ちゃんの名前)もみか(お姉ちゃんの名前)もその時期に行かせていたけどな…」

「そろそろかな、と思っていたんだけど…」

おじいちゃんとおばあちゃんはといえば、事の成り行きを見守りながら黙っているだけ。

そんな空気を打破するように、はると君は言いました。

「おつかいできるもん!」

その表情はとても晴れやかです。

それにすっかり折れたお父さんとお母さんははると君を「はじめてのおつかい」に行かせることにしました。

この日、やってくるおばさん(お父さんのお姉さん)とその子供達が来たときにおやつに食べるので、2時ごろの出発です…。


そうして、時計を見ながら待ち望みいよいよ出発10分前になりました。

おばあちゃんは抹茶の、おじいちゃんはあずきの、お父さんはナッツが入ったの、お母さんはいちごの、おばさんはマンゴーチーズケーキ、子供1号はチョコチップいりの、2号はクッキーアンドクリーム、

お姉ちゃんはチョコミントの、お兄ちゃんはキャラメルリボン、そしてはると君はパチパチキャンディーが入ったアイスを選びました。

お気に入りのヒーローが書かれたポシェットにお財布と買い物メモと例のチラシを入れます。


「あ、そうだ」

お父さんは机の上に置かれたファイルをはると君に渡しました。

「これをとなりの家ににまわしてくれないか?」

回覧板です。次におばあちゃんが言いました。手に持っているのははがきです。

「このはがきを、ポストに入れてくれないかい?」

「それじゃあ、俺も!」

テッテケテーとお兄ちゃんが部屋に向かいます。

渡されたのは、本です。

「これ、返しておいてくれないか?もうすぐ返却期限だし」

自分で返しに行かないのかな、と考えるはると君をよそにお兄ちゃんは続けます。

「ついでに新しく本を借りてきてほしいんだけどさ…」

「自分で行って」という思いがどんどん大きくなりました。

ともあれ、これでお使いのルートが確定しました。

まずは回覧板を渡しに隣の家へ、続いてポストにはがきをいれる、

そして図書館へ本を返してついでに本を借りて、そして最後にアイスを買います。

ただアイスを買いに行くだけのはずが、こんなにやることが増えてしまいました。

でも、いつもテレビで見ているおつかいができるのですから、はやる気持ちが抑えられません。

改めて、順序を確認し出発です。家族みんなの見送りを背に受け歩き出しました。

まずはすぐ隣のおうちに回覧板を渡します。

これはうまくできました。よくお母さんについていっているのでやり方を知っているのです。

お隣のおばさんに褒めてもらい、飴までもらえちゃいました。お礼を言ってまた出発です。

そのまままっすぐ歩き、2ブロック先にある十字路にポストがあるので次はそこに向かいます。


 ところが、事件発生。ポストがないのです。

ピョンピョン飛びながらクルクル回ってみても、何度か目を閉じて開けてを繰り返しても、見知ったあの赤い箱が見つかりません。

その時、いつもジョギングをしている近所のおじさんが向こうからやってきました。

「ああ、はると君。ここのポストは最近なくなったんだよ」

ガーン!大ショック。計画が狂いだしました。

でも、なんとしてでもおつかいをパーフェクトにしなければいけません。

ひとまず、はると君はポストを探すことにしました。

歩きます。とにかく歩きます。ただただ歩きます。ひたすら歩きます。

しかし、ポストは見つかりません。はると君は泣きそうです。

でも、泣いている場合ではありません。見つけてはがきを投函しなければ。

と、さらに追い打ちをかけるように…近くの民家にいる犬(犬種:シェパード)が…。

ワンワンワン!…目茶苦茶吠えてきたのです。

「うわああああああああん!」

泣きながら、はるとくんは猛然とダッシュです。

ケンブリッジ飛鳥ばりの全力疾走で走った先に…ありました、真っ赤な郵便ポストが!

精一杯、背伸びをしてはがきをポストにシュートさせました。

ほっと一安心…と思いきや…。

「ここ、どこ…?」

はると君、迷子です。

間もなく、人と出会えたはると君は図書館へ向かう道を教えてもらい無事本線復帰しました。

お次は図書館へ本を返してまた本を借りるのです。本当はお兄ちゃんがやるべきことなんですけど、

まあ。おつかいを買って出た身。ああだこうだいう資格はありません。

やれやれ、とため息をつき図書館の玄関へと向かいます。

ところが、またまた事件発生。静まり返った図書館の玄関にこんな看板がかかっていたのです。

「本日臨時休館 きょうはおやすみします」

ガガーン!!本日2度目の大ショック。

まあでも。頼まれた本は借りることはできませんが、返却する本はブックポストに入れることができます。

この便利なシステムに、幼心に感心するはると君でした。

借りられなかったことは、お兄ちゃんにコンコンと説明すれば納得してもらえることでしょう。

ともあれ。おつかいもクライマックス。いよいよアイス屋さんに行きます。

そのアイス屋さんは図書館から少し戻った先にありました。

「うへぇ…」

オープン日だけあってすごい人です。チラシ持参による割引も手伝っているのでしょうか。

「買えるかなぁ…」

はると君は心配そうに列に並びました。


 店に入れたのは到着して約16分後のことでした。

試食用のアイスをもらい、それを食べながら順番を待ちます。

待ちに待ったはると君の番です。ドキドキが収まりません。

果たして、ちゃんと買うことができるのでしょうか。

「…」

カウンターの向こうのお姉さんがカップにアイスを1個ずつ入れていきます。

その光景をはると君は見つめていました。

そう、はると君は何とかオーダーに成功したようです。あ、もちろん例のチラシは見せましたよ。

その前に、直前のお客さんがオーダーに迷いまくるという壁にぶち当たりましたが…。

ひとまず、おつかい完了まであと少しです。

「ドライアイス入れますか?」

「おねがいします」

持ち帰りも前に何度か経験し、ドライアイスに関する説明を受けていたはると君。

当然それが何たるかを知っていたため、無料分(30分)のドライアイスを入れてもらうことにしました。

商品を受け取り、これで無事おつかいの全行程が終了しました。

袋をもって意気揚々とお店を出ようとしたら…。

「おーい、そこのぼくー!」

呼び止められました。ここにきてまたまたまたトラブル発生?

レジ担当のお姉さんがとことことはると君に駆け寄ってきました。

「おつり、忘れてますよ」

そうそう。肝心なことを忘れていました。お釣りを受け取らなきゃです。

「ありがとう!」

お礼を言って、お釣りをもらい今度こそ本当におつかい終了です。

あとは家まで全速力。ドライアイスが入っているとはいえ、時間に限りがあります。

急いで帰って、みんなでアイスを食べなきゃです。


 横断歩道に差し掛かった、はると君。

ところがギッチョンです。作中ではこれで3度目の「ところが」。

つまり、はると君にとってウルトラ不利な状況が襲い掛かったのです。

そう、それは信号。待てど暮らせど、青に変わらないのです。

急いでいるときほど、信号待ちの時間を長く感じるもの…であることをまだ5歳のはると君は知りません。

あ、青に変わりました。右左右。そして手をあげて横断。

幼稚園やおうちで耳がタコができるほど言われていることをしっかり行動に移します。

…ところが。はい、4回目です。おばあさんがよたよたと向こうからやってきたのです。

「お年寄りを大切にしましょう」。これもよく言われていることです。

アイスを片手に抱え、はると君はおばあさんと一緒に歩きました。

そして、渡りきったところで…青が点滅しました。もうこの回は渡れません。

お礼を言うおばあさんを見送り、再び長い長いなっがい信号待ちの時間です。

そうして、再び信号は青になり右左右からの横断をしようとしたら今度はおじいさんがやってきました…。


 一方その頃。リビングで時計を見ながら、家族の皆さんが心配していました。

「遅いわね、はると…」

「そろそろ帰ってきてもいいはずなのに…」

そう、はると君がなかなか帰ってこないので心配していたのです。

「つか、そろそろおばさんが来る頃なんだけどなー」

お兄ちゃんが嘆息します。

「それをいうなら、「おみえになる」か「いらっしゃる」でしょ?」

あ、お姉ちゃんに指摘されちゃいました…。

「まあでも、『はじめてのおつかい』にはトラブルがつきものだし…」

と、お父さんが言いかけたタイミングで…

ピンポーン。

呼び鈴です。、お母さんがパタパタと玄関へ向かいます。

「まあ、義姉さんいらっしゃい」

あ、おばさんがきたようです。リビングに入って、挨拶です。

ふ、とおばさんがきれいな箱を持っているのに気が付きました。

「あら、義姉さん。この箱って…」

「ちょっと電車まで時間あったから、駅ビルに立ち寄ったら期間限定で神戸のお店が出店していたの。

それも、私が好きなお店だったから…ついつい買っちゃって…」

はい、説明的な台詞です。

「え、なになになに?」

お姉ちゃんが興味を示しました。

「ふふふ、見る?」

そして…箱の中にあったのは…!


 結果2回青信号を見送ることになったはると君。早歩きで家にむかいます。

家に帰ってきました。

「ただいまー」

箱をもってリビングに入ると…はると君以外のみんながダイニングテーブルに座って何かを食べています。

グラスに入ったオレンジ色の何か。…マンゴープリンのようです。

「おかえり、はると。待ってたぞ」

お父さんがマンゴープリンをすくいながら言います。

一体何がどうなっているのか。アイスを買って戻ってきたら、みんなが別の何かを食べている。

はると君の頭の中はまさにジャングルグルグルです。

「えっと、お母さん…きょ、きょうのおやつって…?」

恐る恐る尋ねると、お母さんは返しました。

「マンゴープリンだけど?」

やっぱり!追い打ちをかけるようにお姉ちゃんが返しました。

「…え、アイス?もういいわよ」

ガガガーン!!!3度目の大ショックです。

奈落の底へ落ちていく感覚をはると君は覚えました。

ぼくの苦労って、いったい…。

箱の中でアイスクリームは次第に溶け始めていましたとサ。



教訓:がんばりは君を時に裏切る。

































































































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