メインディッシュざまぁに続くデザート
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「な、何よこの巨大な便器は……!?」
「ま、まさか……じょ、冗談だよな……!」
勇者パーティの表情が恐怖で引き攣る。しかし制御盤を操作するローランの指には一切の躊躇いが無かった。
「これからお前たちは想像している通りの……いや、それ以上に悲惨な目に遭う。ただし、これから俺が言う事を復唱すれば、命だけは助けてやろう」
「な、何を言えばいいんだ……?」
もはや彼らには傲慢に振舞う余裕などない。アリーシャやファナに至っては、ローランの両親の死を突然突きつけられて、未だ呆然自失としている。
「なーに、簡単なことだ。今この場で俺がアレンから恋人寝取ろうとしたとか足手纏いだったとかいう嘘の悪評を撤回してくれればいい。全ては自分たちが憚れることなく良い思いをする為だけに流した濡れ衣だったって」
「……い、言えば本当に命を助けるんだよな? 勿論、五体満足で返してくれるんだよな!?」
「ああ。何だったら王都まで送ってやっても良いし。この場で言うだけだ。他の誰も聞いちゃいない。安心しろ」
何一つ信頼に足ることのないセリフの羅列。しかし、最早アレンたちにはその言葉以外に縋るものは無いと思い知らされる。
「もし言わないってんなら、こっちも容赦の必要がない。この山はどこの国にも属さない治外法権だ。たとえ勇者だろうが聖女だろうが王女だろうが、殺しても文句言われる筋合いはないんでな」
「ひぃい!?」
「ア、アレン……!」
「わ、分かった! 言う! 言うから命だけは!」
「よし、なら俺の言葉を後から続けて言うんだ」
ローランは剣呑な目つきを潜めてニッコリとほほ笑むと、優しい口調で言葉を紡ぎだす。
「私たち勇者一行は、無実のローランさんに役立たずだの寝取り男だのと言う嘘の悪評を広めて、自分がローランさんの恋人を寝取っても責められることの無いように、陛下や臣民の皆様に嘘の報告をいたしました」
「わ、私たち勇者一行は……無実のローランさんに役立たずだの寝取り男だのと言う嘘の悪評を広めて、自分がローランさんの恋人を寝取っても責められることの無いように、陛下や臣民の皆様にう、嘘の報告をいたしました」
「全ては勇者である自分が不誠実な色狂いで、大嘘吐きであることが招いた結果です。そんな私たちはゴキブリ塗れになって便所に流されるのがお似合いです」
「す……全ては勇者である自分が不誠実な色狂いで、大嘘吐きであることが招いた結果です。そ、そんな私たちはゴキブリ塗れになって便所に流されるのがお似合いです」
「国王陛下に臣民の皆様。そして何より最大の被害者であったローラン様には深く、深く謝罪申し上げます」
「国王陛下に臣民の皆様。そして何より最大の被害者であったローラン様には深く、深く謝罪申し上げます」
「その誠意の姿勢を表して、私たち一同はこれから便所に流されることで、ローラン様に過去の過ちを水に流させていただこうかと思います」
「その誠意の姿勢を表して、私たち一同はこれから便所に流されることで、ローラン様に過去の過ちを水に流させていただこうかと思います……って、え!?」
「安心しろ、さっき言ったように死ぬことだけはないから。それでは、素敵な便所の旅に行ってらっしゃい!」
タンッと、ローランが石板を叩くと、勇者たちを持ち上げていた飛行ゴーレムたちがその手を一斉に放した。
「うわぁあああああああっ!?」
「きゃああああああああああああっ!?」
ドボォオオンッ! と、豪快な水しぶきを上げながら便器の中に落とされたアレンたち。しかも中に満たされていた水は、ただの水ではなかった。
「あ、熱いっ!? あちゃああああああああああああああっ!?」
「どうだい? 摂氏六十五度以上に及ぶ熱湯間近のお湯の湯加減は?」
巨大な便座の上で仁王立ちし、中でもがき苦しむ勇者たちを愉悦の表情で見降ろすローランは更に制御盤を操作する。
「そしてそこはあくまで便器……排泄された汚物は流される定めにある」
熱いお湯が便器の縁から流れ、中心部で大渦を巻き始める。
「あちゃちゃちゃごぼぼぼぼぼぼ!?」
「ふあははははははは! 更にここで死なない程度の電流を追加!」
「ぎゃああああああああああああああああっ!?」
バチバチバチィ!! という激しい音と強烈な発光と共に電流が迸り、アレンたちの毛という毛が一気に縮れ、見るも無残な状態へと変えていく。
「さぁ、トイレットペーパーのように潔く流されていくがいい!」
「がぼぼぼぼぼおぉぉぉ……」
そのまま排水溝に吸い込まれたアレンたち。しかし、そこでも悲劇は待ち受けていた。
「な、何だこれはギャガっ!?」
「パ、パンチが飛び出す魔道ぶべぇえっ!?」
「どうしてこんなところにげべぇえっ!?」
普通の水洗トイレと違い、排泄物を肥料に変える魔道具ではなく、流される侵入者を上と左右から袋叩きにする魔道具がびっしり取り付けられていたのだ。
全身くまなく魔道具仕掛けの拳打を受けて青痣だらけになるアレンたち。そしてようやく熱湯も拳打も終わったかと思えば、今度は悪臭を放つ泥まみれの沼に放り込まれる始末。
「く、臭い……痛い……」
「こ、ここは出口なのですか……?」
どうやらここが終着点のようだ。ようやく地獄のような責め苦が終わったのだと安心した瞬間、五人の尻から灼熱の炎が噴射された。
「うわあああああああああああああっ!?」
炎はそのまま推進力となる。凄まじい灼熱が腫れ上がった尻を襲うが、皮膚を焼くことなくズボンやスカート、下着類に大穴を開けて大空へと押し上げた。
アレンたちが終点に辿り着いてからしばらく気絶している間、ローランが五人の神器の魔核を改造しておいたのだ。
従来の機能は全て削除し、ローランが持つ制御盤から指示を出せば、すぐさま装備者は尻から火を噴射してアステリア王国の王都へと強制送還させるという、ただの嫌がらせグッズに。
「お尻が……お尻が熱ぃいいいいいいい!!」
「もう止めてぇええええ!! 誰か助けてぇええええええええええっ!!」
蒼穹をまるで隕石のような光と煙の尾を引きながら高速で飛翔するアレンたち。熱い通り越して激痛すら感じる尻に泣き叫ぶこと二時間……彼らは王城の窓ガラスを突き破ることとなった。
「な、何事だ!?」
「あ、貴方は勇者様!? それに聖女様たちも!?」
見慣れた城の内装と、火を噴くのを止めた尻に思わず安堵した彼らは意識を失う。これでようやく地獄が終わったのだと。
しかし、そうは問屋は降ろさなかった。
ベッドを蹴りつけられた衝撃で目を覚ました勇者たちは布団を跳ね除けながら飛び退き、憤怒の形相を浮かべるバザルド一世に表情を引きつらせる。
「へ、陛下? 一体どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたもないわ! 貴様ら、この映像は真か!?」
バザルドの手のひらに乗せられた球形の魔道具。その中心に嵌め込まれた魔核からとある映像が投影され始めた。
『この私、ゴミクズ弱虫勇者アレンは仲間であるローラン様から恋人を寝取った卑劣漢であります!!』
「……はっ!?」
『私、腐れゲロムシ緩股ビッチ聖女(嗤)のアリーシャは不誠実にも幼馴染で恋人であったローラン大先生を裏切り、富と名声とイケメンに目が眩んで彼に悪評と濡れ衣を擦り付ける事を喜んで賛成した最低女です!!』
「ちょっ!? これっ!?」
それはローランが勇者パーティの音声を記録、保存し、繋ぎ合わせて編集した映像である。よく見て見れば、映っている場所は初めにゴキブリに襲われた場所のようだ。
勿論そんな事を言った覚えのないアレンたちは困惑するが、映像は止まることなくどうでもいいセリフばかり捏造された事実を垂れ流していく。
『兄が役立たずで寝取り男であるという話も私たちがでっち上げた嘘なんです! まともに買い物や野営も出来ない私たちのために頑張ってくれた兄に不当な悪評を押し付けて追いやった最低女なんです私は! しかも両親の死に目を知らせる手紙も無視して、呑気に結婚式パレードとか開いて悦に浸ってました! そんな私たちはゴキブリ塗れになって豚真似するのがお似合いです!! ぶひぃいいいいいいっ!! ぶひぃいいいいいいいっ!!』
「な、ななななな……!」
しかもこれだけは知られたくなかったスキャンダルと、ゴキブリ塗れの状態で豚の鳴き真似をするという醜態まで収められている。これには顔を血の気が引くように青くさせればいいのか、それとも羞恥で顔を赤くすればいいのか分からず、ただパクパクと口を開閉させていると、頭を抱えたバザルドがトドメの一言を発した。
「……しかもこの映像が収められた魔道具は、国中にばら撒かれていて大パニックだ。怒り心頭で勇者たちを出せという苛烈な者たちも大勢城の前まで押し寄せてきている。もはやお前たちの悪評、拭い去るのは不可能であると知れ」
他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ。
あと、活動報告も更新しましたので、気が向けばそちらも。




