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ざまぁの為の防犯トンネルの終着点

皆さんお久しぶりです。

お気にいただければ評価や感想、登録のほどよろしくお願いします。


 二日後、白いタイルが床から壁、天井まで敷き詰められた真っ白で広大な空間……防犯トンネルの終着地点にローランと勇者パーティはいた。


「ぷははははははははっ!! どうしたんだい、そのデカいプリケツはよぉっ!?」


 尻を突き出す形でうつぶせになる勇者たちを前に、ローランは我慢できないと言わんばかりに笑い転げる。

 偽神器を装備したゴーレムから電撃ハリセンを受け続けた彼らの尻は通常の一・五倍ほどにまで腫れ上がり、地面に付ければ激痛で悶えること間違いなしの状態だった。


「ねぇねぇ、どんな気分? 散々見下した相手が作った魔道具に甚振られまくって、今どんな気分?」

「……ぁ……あ……」

「……ぅ……ぉ……」


 ここぞとばかりにおちょくるローラン。しかし不眠不休で走り続けたアレンたちにはそれに答えるだけの体力はなく、辛うじて意識を保っているだけの状態だ。


「……無反応なのは色々困るな。医療ゴーレム、前へ」

『治療費ヨコセー』


 パチンッ、と指を鳴らした直後、床の一部が左右に割れて、下から医療ゴーレムがせり上がってくる。


「口が利ける程度まで体力を回復させろ。ただし、身動きは取れない程度の限界を見極めてな」

『面倒臭ェナー』



 ローランはその医療ゴーレムにチップだと言わんばかりに金貨一枚を投げ渡す。


『分カッテンジャネェカ、コノ野郎ー』

「……自立思考型のゴーレムって言うのも、考え物だな」


 いくら何でも創造主に似すぎた。あとで改良しようと心に決めると、医療ゴーレムはアレンたちに体力回復の魔術を施した。

 ただし、尻は一切回復させない。あくまで体力だけで、ここに来るまでに転んだりしてできた傷もそのままだ。そもそもローランとしてはアレンたちに回復魔術を使ってやる義理はない。

 あくまで聞きたいことがあるから口を開かせるだけだ。


「さぁて、喋れるようになったな」

「うぐぐ……お、俺たちをどうする気だ……!?」


 まだ微妙に反抗の気力が心の奥底で燻っている様子のアレンだが、他の聖女たちは総じて怯えたような表情を浮かべている。

 精神的な強さというのは、男女で種類の違いが現れる。純粋な精神的摩耗には女の方が強いが、肉体的な苦痛から来る精神の摩耗は男の方が強いのだ。

 気の強いアリーシャやキーア、王女として気位の高いエルザが、次は何をされるのかと戦々恐々と言った様子の中、ただ一人だけ僅かながらに口答えが出来るのは流石勇者というべきか。


「あー、俺もその姿を見てそれなりにスッキリしてる。店員にも諫められたしな。だからこれ以上何かするってことは……多分あるかもだけど、とりあえず黙ってろ。もう一度尻叩かれながら延々と走り回されたくなければな」

『オ尻ヲ叩イテ走リ出セー♪』

「ひ、ひぃいいいいっ!?」


 ローランが背後に向けてクイッと親指を向ける。そこには偽神器を装備したゴーレムが凄まじい風切り音と共に電撃ハリセンを素振りしていた。

 どうやらアレンたちは完全にトラウマになったらしい。尻の痛みもこの時ばかりは忘れ、転がりながら後退してしまうほどには。


「俺が話があるのはアリーシャ、それからファナ。お前ら二人だ」

「……っ!?」

「に、兄さ……」

 

 指名された二人はビクリと、体を大きく振るわせてから恐る恐るローランの首元に視線を向けた。

 伊達に表情をまっすぐ見れるような仕打ちはされていない。ましてや、彼女たちの自信の源であった神器は一斉に機能が停止し、そこに居るのは間抜けな体勢で怯える弱者だけなのだ。


「正直よ、何で俺からアレンに乗り換えたのかとか、振るにしてもなんで通すべき筋を通さなかったのかとか、そんなこと今更聞くつもりはねぇ。大方、勇者っていうネームバリューとか、見た目とかを俺と見比べた結果なんだろうし。それに関しては実に腹立たしいけど、それは俺がアレンより劣っていたって事なんだからまだ納得が出来る。……まあ、それでも筋だけは通すべきだったが」


 でもな、とローランは眉間に深い皺を刻んで幼馴染と義妹を睨みつける。


「何で親父とお袋の葬式にまで顔を出さなかった? 俺は散々手紙送ったはずだよな? 小母さんや小父さんだって帰って顔を出せって何度も手紙を送ってくれた」

「……ぇ?」

「それでも帰ってこなかったのは何でだ? 魔族と戦うのに忙しかったからか? それでも家族の葬儀に顔を出すなっていうほどじゃなかったはずだ。アステリア王国だって、そんな狭量じゃないはずだろ」

「へ? ぁ……え? な、何を……?」

「俺のことはもうこの際横に置いといても良いんだよ。でもお前ら、親父やお袋に今まで育ててくれた恩くらいはあったはずだろ。今まで良くしてくれた義理があったはずだ。それにすら忘れてお前ら葬式の当日に婚約披露宴のパレードなんて開いちゃってたらしいが、そこんところどう思ってんだ?」


 キーアやエルザが信じられないといった表情をアリーシャとファナに向けるが、二人はそれどころではないとばかりにローランから目を離せずにいた。

 くだらない理由だったらタダじゃおかない。ローランは操作盤である石板に人差し指を這わせながら言及するが、当の彼女たちの表情は悲しみのようなものが滲みだした困惑だった。


「……おい、何とか言ってみろ。親父とお袋の葬式そっちのけでパレードなんか開いた理由を聞いてんだよ」

 

 ゲシッ、ゲシッ、とローランはアリーシャとファナの頭を軽く蹴って返答の促す。


「テ、テメェ……調子に乗って俺のハーレムメンバーを――――」

『てめぇハ黙レー』

「ごぎゃああああああああああああああああっ!?」


 となりでアレンが電撃ハリセンの餌食になっていたが、それは無視した。

 するとアリーシャとファナは相変わらずの怯えた表情に困惑を混ぜて、こう返してきた。


「に、兄さん……お父さんとお母さんの葬式って……どういう事、ですか……?」

「小父さんと小母さんが……死んだ? 嘘よね……?」

「…………はぁ?」


 まるで何も知らなかったことを告げられたかのような、蒼天の霹靂という言葉が良く似合う態度の二人を前に、ローランの頭には困惑と同時に怒りが込み上げてきた。


「お前ら……こっちからの手紙はどうした? 読んだのか?」

「そ、それは……!」

「いや、呼んでる訳ねぇよな。読んでたらその反応はないだろうし。……じゃあ質問を変えるけど、何で読まなかった? 俺の手紙は経緯が経緯だから仕方ないにしても、小父さんと小母さんの手紙くらいは読んでも良いはずだろ? おい、アリーシャ。お前に言ってんだよ」

「…………っ」


 アリーシャとファナは一斉にばつが悪そうな顔をローランから背ける。それは自分たちにとって都合の悪い時が起こった時の態度。その態度で、曲がりなりにも付き合いの長いローランはある程度の理由を察してしまった。 


「あぁ! もしかしてあれか? 『私たちは女神に選ばれた聖女! あんな貧相な田舎とこれ以上関わりを持ったら品位が下がっちゃうわ! 勇者の妻である私たちが何で今更ド田舎の事を気に掛けなくちゃいけないの? 面倒ったらないわ!』みたいなことを考えて、こっちからの手紙を読まずに放置するか捨てるかなりしてたってわけか」


 わざわざ声真似までするローラン。その様子は一見陽気だが、目が一切笑っていないので余計に恐ろしく感じられた。


「ち、違っ……!?」

「何が違うんだ? 言ってみろよ。正直、手紙を読まなかったから親父やお袋の事を知ら無かったとしか思えねえんだけど?」

「違う……違うの……!」

 

 まるで壊れた人形のように同じ言葉を繰り返す二人を冷ややかな視線で見降ろし、ローランは自分の推測が間違っていなかったことを確信する。

 手紙を読まなかった理由すらも訂正する様子が無いのが良い証拠だ。最低限その辺りの言い訳くらいはするものかと思ったのだが、それすら言えないほどに図星とは恐れ入った。


「そうかそうか……知らなかったのか―。そうかそうかー」


 ローランは制御盤を弾くように叩く。


「……言い訳としては三流以前の問題だぞ腐れ売女ども!」


 すると背中に翼の生えたゴーレムが五体も現れ、それぞれが勇者パーティを一人ずつ抱えながら天井付近まで飛翔する。


『翼ノ生エタえんじぇるー』

『ソレハ俺タチノコトダー』

「な、何!? 今度は何をするつもりなの!?」

「た、頼む! こ、これ以上は死んでしまう……!」

「殺しはしないよ、外聞も悪くなるからな。だが、今の話で決心がついた。場合によってはこのまま山の外まで放り出す程度で済ませてやろうかとも思ったが、お前らには地獄を味わってもらう」


 これが些事ならここまで怒りはしなかっただろう。しかし家族の凶事と葬式の事まで無視されては黙ってはいられない。

 手紙を無視したから知らなかったなど言い訳以前の問題だ。しかも何も知らずに呑気にパレードなど開いていたかと思うと、怒りで行動を抑制できるわけが無い。


「ところで急に話が変わるが、俺は1人の魔道具職人として、水洗トイレを開発した故オズモール・ハーヴェイ氏のことをとても尊敬している」


 二百年も前、排泄物の処理問題が起こり、国という人が大勢集まる領域内で悪臭が漂うという社会問題が発生したという。

 不浄の時代、糞尿の時代、ハエが支配する時代と、ある意味戦時よりも恐ろしい混沌の世だ。そんな絶望から人々を救ったのが、今や歴史にその名を刻んだオズモール・ハーヴェイという魔道具職人だ。 

 彼は厠の便器に排泄した糞尿を水で押し流し、肥料置き場へと運ぶ魔道具を開発。それをさらに改良し、糞尿が肥料置き場へと向かうパイプの中で分解され、土の香りがする良質な肥料へと変わるようにしたのだ。

 これによって世界中の悪臭問題は解決しただけではなく、農作業も飛躍的に効率が良くなった。今や彼は厠の聖人としても崇められ、死後二百年経った今でも魔道具職人たちの間で尊敬される偉大なる人物なのだ。


「なぜ俺が防犯トンネルの最終地点までお前たちを運んだのか、理解できるか? それはな――――」


 ローランの足元の床が大きく左右に開かれる。そのまま暗い穴へと落ちるかと思いきや、膝元まで床下に落ちてから何かに着地した。

 ウィーンという軌道音と共にせり上がってくるのは高さにして五十メートルはありそうな巨大な椅子……否、純白の光沢を放つ超巨大な座るタイプの便器だ。


「侵入者にして、改めてクズだと認識した勇者と聖女共(お前ら)汚物を、俺の工房から洗い流す為だよ。この俺の、氏へのリスペクト精神にあふれた魔道具でな」


 

他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ。

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