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スープなランニングざまぁ

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「……ローラン」

「……はい」


 箱庭の工房にローランとアイリス、、二人の静かな声が響く。


「ローランにも色々あったし、止めるつもりもない。仕返ししたかったら、度が過ぎない程度でやれば良いと思う」

「はい」

「だから、今は冷静になった方が良い」

「仰る通りです」


 少し所用でローランの元を離れていたアイリスは、戻ってきたときに監視魔道具越しで勇者たちを眺め、発狂したように嗤いながら追い打ちをかけまくる彼の頭をハリセンで引っ叩いた。

 紙で出来た筈の武器なのに、頭の先から足の裏まで突き抜ける衝撃はどういうことなのだろうか? 頭にはたんこぶが浮かび上がり、ローランは正座させれて説教を受けている。

 まるでどちらが上司で、どちらが部下なのか分からなくなる光景だが、今回ばかりはローランが悪い。


「そうだな……俺もテンションが可笑しいことになってた。ありがとう、アイリス。なんか取り返しの付かないことしそうになってたよ」

「ん。分かってくれたなら良い」

「あぁ。今からは毅然とした態度と心でざまぁしなきゃな」


 どうやらそこは譲れないらしい。そんなローランをアイリスは何とも言えない表情を浮かべる。


「でもこのくらいやらないとざまぁにならないような気がするんだよなぁ。これ見てみろよ」


 ローランは空中投影された映像を親指で指す。そこには天井に向かって吠えまくるアレンたちの姿が映しだされている。


『出てきやがれローランンンンッ!! 絶対にぶち殺してやるからなぁああああああっ!!』

『よくも私たちにあんな仕打ちを……! 挽肉にするだけじゃ生ぬるい!!』

『豚の……いいえ、ゴキブリの餌にしてあげますから!!』


 先ほどまで心神喪失していたとは思えない元気な姿だ、幾ら精神を魔道具で修正したとはいえ、ゴキブリ津波に呑まれた恐怖を忘れた訳ではないはずなのに。

 まさに驚くべき精神的タフネスだ。その方向性は見習いたくないが。


「魔道具も使えずに何を吠えているのやら。まぁいい、とりあえずゴールを目指すように通路を開け、途中で気力を使い果たす感じで障害物(ざまぁ)用魔道具を発動させていこう」

「? わざわざローランが会うの?」

「あぁ。とはいっても箱庭までは通さないけどな。今から防犯システムの終着点に行くつもり」


 それに……と、ローランは続けて呟く。


「アリーシャや妹には、ちょいと聞きたいこともあるしな」




 怒り狂い、地団太を踏みながら怒りを露にする勇者パーティ。その表情は一様に真っ赤に染まっていた。


「勇者のいう事が聞けねぇのかぁあああ!! 出てこぉおおおおおおい!」

「ただじゃおかない! 絶対に殺してやるぅううううううっ!!」


 魔道具の機能が停止していなければ、彼らは今頃自分たちが生き埋めになる事すら考慮せずに魔術を乱射していた事だろう。

 しかしそれが叶わない彼らは床や壁を蹴ったり殴ったりするしかできないのだが、煉瓦に罅一つ入れることすら出来ず、むしろ殴り、蹴りつけた手足が怪我をする始末だ。


『やぁやぁ皆さん、ごきげんよう』


 そんな彼らにローランは監視魔道具越しに音声を送る。


「ローラン……! 何がごきげんよう、よ!!」

「どの口がそんな事を……!」

『まぁそう怒るなよ。結構笑わせ……もとい、楽しませ……んー……あー』


 言い方に困ったように唸るローランだったが、やがて開き直ったように告げる。


『面白過ぎて笑い転げてたけど、そろそろ先に進めようと思ってな』

「てめぇっ! 喧嘩売ってんのか!?」

『それでは勇者御一行、今すぐ体を伏せた方が身のためだ』


 当然のように怒り狂う彼らを無視して、ローランは手元の制御盤を操作した。

 するとアレンたちが騒いでいたトンネルの床が緩やかな傾斜を描くように傾き、彼らの行く手を遮っていた壁が天井へと持ち上げられる。

 まるで終着の見えない坂道のように変化したトンネルに対処できず、ゴロゴロと転がるアレンたち。そんな彼らを無視してローランは更に告げた。


『そこは防犯システムだ。勝手に入ってきた奴を、自動で対処するのが目的だ。主にとっ捕まえて動機とか目的とかを聞く場所に無力化してから連行する意味で』


 ガシャガシャガシャと、重鎧を装備した戦士が突き進むような音がアレンたちの背後から迫る。


「な、何なの!?」

「兄さん! 今度は何をする気ですか!? いい加減にしないとどうなるのか――――」

『何も分かってないのはテメェらだ。俺もそれなりに忙しい身なんでな、後から記録した映像を楽しむ分はともかく、いつまでもお前らばかりにかまけてる暇はない』


 薄暗いトンネルに姿を現したのは、勇者の神器である聖鎧を標準装備した一体のゴーレムだ。その手には一様に、激しく帯電する金属製のハリセンが握られている。


「に、偽の神器を装備したゴーレム……!?」

「ま、まさか……!?」


 神経が図太く、いかにローランを見下していた彼らも、かつて自分たちを徹底的に叩きのめしたゴーレムを前にしてようやく察することが出来た。

 自分たちが今敵に回しているのが、あの時のゴーレムと何らかの関係がある男であるということを。


『俺に反抗する気力と体力がなくなるまでインディアンランニングだ。ゴールはその通路を進んだ先にちゃんとあるから安心しな。……ちなみにそいつに追いつかれた時点で、電撃ハリセンで尻をぶっ叩かれるのでそのつもりで』 


 ブツリと、音を立ててローランの音声が途切れる。それと同時にゴーレムの眼がブォンという音と共に赤い光を放った。


『尻ヲ出セー』

「う、うわぁあああああああああああっ!?」


 始めてトリグラフに訪れた時に味わった恐怖が蘇り、聖女たちを置いて真っ先に逃げ出したのはアレンだ。それに続くように聖女たちも勇者の後を追うように駆け出し、その後ろをゴーレムが余裕のある動作で追いかける。


「ど、どうして!? あの時のゴーレムも、ローランが作ったって言うの!?」

「そんな訳ないわ! 偽物とはいえ、私たちを圧倒した神器を複製するなんて、ローランごと気に出来るわけが……!」

「じゃあアレは何なんだ!?」


 以外にも、ゴーレムはアレンたちの全速力に合わせる速度で早歩きしている。しかしその速度は一切落とすことはない。

 対してアレンたちは神器の加護を失った、ただの人間だ。いずれ疲労は限界が訪れ、足はパンパンに重く張り、呼吸が激しく乱れる。


『尻叩キー』

「ぎゃああああああああああああああああああっ!?!?」


 必然的にアレンたちの走る速さは遅くなっていき、ゴーレムは距離を縮める。そして最後尾を走っていたファナが、電撃ハリセンで尻を思いっきり引っ叩かれた。

 尻から走る電撃の刺激と、金属のハリセンがもたらす衝撃は彼女の尻に絶大なダメージを与える。普通ならこれだけでも倒れそうなものだが、不思議なことにファナの体は彼女自身の意思を無視したかのように、足を強引に動かして最前列へと移動した。 


『尻・スマッシュー』

「あああああああああああああああああああああああっ!?」


 そして新たに最後尾に回されたキーアが電撃ハリセンで尻を叩かれ、ファナを前から二番目にする形で最前列へ。


『オ尻・ブレイカー』

「うぎゃあああああああああああああああああああっ!?」


 続いて最後尾に回されたアリーシャの尻が電撃ハリセンで強かに叩かれ、彼女は目に見えない力で動かされたかのように最前列まで走る。


『尻・デストロイヤー』

「ひゃああああああああああああああああああああっ!?」


 次に最後尾に回されたエルザの尻が電撃ハリセンの餌食に。彼女の脚が無理矢理動かされ、最前列へ。


『尻ヲ出セ、コノゴミクズ野郎ー』

「や、やめろ!? 俺を誰だと思って――――」

『尻・エクスプロージョン』

「ぎゃあああああああああああああああああああっ!?」


 そして勇者の尻も電撃ハリセンの餌食となった。聖女たちと同様に、なぜか最前列まで奪取するアレン。そうなると必然的に最後尾に回ってくるのはファナだ。


「はぁっ!? 何でもう私が一番後ろに――――」

『尻・インフェルノー』

「ぎゃああああああああああああああっ!? お尻がぁああああああああああっ!?」


 二度目の電撃ハリセンは、一度目よりも痛かった。そんな事を繰り返しながら、勇者パーティとゴーレムは延々と走り続ける。

 

『尻・シャングリラー』

「尻がああああああああああっ!? 尻が割れるぅうううううっ!?」

『オ尻・バーミリオンー』

「も、もう止め……ひぎぃいいいいいいっ!?」

『尻・カタルシスー』

「うがああああああああああああああっ!?」

『覚悟シヤガレ、クソ勇者ー。ほもガ掘リタクナルヨウナ、でかイぷりけつにシテヤンヨー』

「さっきからなんで俺に対してだけ言葉がキツいんだよ、このゴーレムは!?」

『オ尻・ラグナロクー』

「ぐぎゃばぁああああああああああああっ!?」


 バチ―ン! バチ―ン! バチィィインッ! と、トンネル内に電撃音と炸裂音、そして勇者たちの悲鳴が木霊する。その度に列の最後尾にいた者は強引に最前列へと走らされ、そのループは途切れることを知らない。

 このゴーレムが持っているハリセンは、ただ叩けば電撃が走り、激痛を尻に与える魔道具ではない。叩いた相手に電気信号を流し込み、無理矢理体を動かすことが出来る代物だ。たとえ相手の体力と気力が底を尽き、身動きが取れなくなったとしても。

 しかも幾ら叩いても皮膚が破けないから、何度叩いても相手が死ななないオマケ付きでもある。

 ……言い方を変えれば、相手を殺さずに永遠に甚振り続けることの出来る拷問道具である。しかも怪我らしい怪我はしないが、炸裂する激痛は紛れもなく本物であり、尻が赤く腫れ上がるのは免れようがないのだが。


「い、いつ終わるんだよこのトンネルは!?」

「ぜ、全然ゴールが見えな――――」 

『早ク走レ、コノ豚共ガ―』

「ぶぎぃいいいいいいいいいいっ!?」


 しかも今彼らが走っているトンネル、最初のゴキブリ攻めと違って進み続ければちゃんと終着点があり、そこまで辿り着けばもうゴーレムは攻撃してこないというのは本当だ。

 しかしフィールドはローランが自在に組み替えることが出来る位相空間。トンネルは広大なトリグラフ死火山を遠大に遠回りしながら地下中央の終着点を目指している。

 少なくとも、距離にして彼らの脚では二日くらいはかかる。それを察したローランとアイリスは、アレンたちを置いて自分たちの用事に取り掛かるのだった。


元貴族令嬢で未婚の母ですが、娘たちが可愛すぎて冒険者業も苦になりませんが、本日発売しました!

他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ

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― 新着の感想 ―
[一言] 叩く→壊す→殺す→爆発→業火→失平→銀朱→悲劇→終末 叩く技が色々と強くなってて草
2020/04/03 14:00 退会済み
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