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20/23

前菜なるざまぁ・蟲攻め(閲覧注意)

文字だけですが、光景を想像するとゾッとしました。

それでもよろしければ、評価や感想、登録のほどをよろしくお願いします。


 そんな屈辱的なことが出来るわけがない!

 アレンたちは目の前に転がる人数分の鼻フックと、どこからか聞こえるローランの声に虚空を睨みつけた。


「ふざけるなぁああっ!! 勇者である俺を豚呼ばわりするつもりか!?」

「しかもこんなものまで用意して……! 私たちは聖女なのよ!? そんなこと、出来るわけが……!」


 烈火のごとく怒り狂うその表情は、本当に燃えているのではないかというほどに赤く染まっている。

 愉快な性格でもしてない限り、普通の人間でも羞恥と屈辱で躊躇うだろう。特にアレンたちは自らの容姿に自信を持ち、周囲から女神の使いとして尊重されながら年月を過ごしてきた。

 そんな彼らが卑しい豚のようなもの真似、たとえ危機に瀕したとしてもするはずがない。それら全て承知の上で、ローランは冷淡に告げる。


『なら仕方がない。まずは手始めに、ゴキちゃん百匹を纏わりつかせてみるか』


 ブゥ~ンと、響くような無数の羽音を鳴らしながら、ローランの宣言通り百匹のゴキブリ……に見せかけたリアルミストの塊が、アレンたちに向かって飛んで行く。


「いやああああああああああああっ!?」

「来るな! 来るなぁあああああああっ!?」


 しかしそれを知らない者たちからすれば本物のゴキブリの群れ同然。

 その場に尻餅をつき、両腕で身を守るように振り回す勇者たち。実際に偽ゴキブリは勇者たちの周辺を飛んでいるだけなのだが、彼らがそれに気づく気配はない。

 その姿はとても人類の希望である勇気ある者たちの姿には見えず、ローランには面白いくらい滑稽に映った。


『ぷはははははははは! どうしたんだい? 相手はたかが虫けらだよ!? 神器お得意の無詠唱魔術で反撃して見なよ!』

「くっ……! この……!」


 妨害魔道具の影響下にあるトンネル内部では、神器を含めた魔道具は使用できない。そしてアレンたち全員、神器無しでは魔術を使うことも出来ないのだ。

 その事を知っていての煽りなのだが、彼らはローランに反論する余裕すらない。その上このまま目的を達成し、ローランに目に物言わせることも出来ずにゴキブリ塗れになるなど、肥大しきったプライドが堪えられそうにない。


「……るわよ」

『んん? 何だってぇ?』


 わざわざ、嫌らしく、煽るような口調で聞き返すローラン。


「やればいいんでしょ、やれば! ここを突破すれば殺すだけじゃ済まさないんだから!」


 真っ先に鼻フックに手を伸ばしたのはアリーシャだ。それを皮切りに、ゴキブリに塗れるくらいならと他の四人も鼻フックを装着するが――――

 

『なんだその付け方は? そんなの鼻の穴に引っ掛けただけじゃないか。もっと鼻の穴を限界まで広げ、豚っ鼻を披露するようにキツく装着するんだ』

「い、嫌ですそんなの!」

「付けたなら文句ないはずよ!」

『やれやれ、鼻フックの付け方ひとつ理解できないとは……仕方ない。ここは俺が手伝ってやろう』


 わざと鼻フックを緩く装着し、醜態を少しでもマシなものにしようとする姑息な勇者たち。

 しかしそれではいけないと、ローランは指を鳴らす。すると左右の壁が開き、中から人数分のゴーレムが現れた。


『鼻フックー』

『鼻フック―』

「な、何だこいつらは!?」

「や、止めろ! 鼻を伸ばすなぁいたたたたたたッ!?」


 神器の加護を失ったアレンたちはゴーレムの前に為す術も無い。二股のフックが引っ掛けられた鼻を限界まで引っ張られて見事な豚面を披露。その状態で鼻フックのベルトを南京錠で固定されてしまう。


『装着完了ー』

『コレデ満足シタカヨ、卑シイ豚共メー』


 人仕事を終えたゴーレムたちは、そんな機械音声を残して壁の向こうへ戻っていき、開かれた壁は再び閉ざされる。

 その場に残されたのは無数のゴキブリたちと、端正な顔を豚のように歪めたアレンたち。こうなってしまえば容姿端麗と名高い勇者パーティも台無しである。


『ひゃーははははははははは! よく似合っているぞ! 正にお前たちに相応しい表情だ!』

「ローランン……! お前ぇえええええええええええっ!!」


 ありったけの怒気を込めて叫ぶアレン。しかしそんなものは鼻フックが装着された状態では台無しであり、箱庭からアレンたちの様子を眺めているローランに届きはしない。


『さぁ、そろそろ本番といこうか。最高かつ迫真の豚の泣き真似をするんだ』

「くっ……貴さ――――」

『ん? きさ……なんだって? 言っておくけど、言葉には気を付けた方が良いんじゃないかなぁ?』


 無数のゴキブリに飛び掛かれたくなければ……そんな意図が言葉として聞こえた気がする。

 もはや選択の余地のない状況に下唇を紙ながら、勇者パーティは道具屋に屈したかのように豚真似を始めた。


「ぶ……ぶー、ぶー……」

『声が小さい! もっと大きな声で!』

「ぶひー……ぶひー……」

『全然ダメだ! もっと叫ぶように、媚びるような気持ちを込めて!!』

「ぶひぃー! ぶひぃー!」

『まだまだ気持ちが籠っていない! 小便撒き散らし、泣きながら命乞いをするオークを思い浮かべるんだ!』

「ぶひぃいいいい! ぶひひぃいいいいい!!」

『いいぞいいぞ! どんどん良くなってきた! 後は笑顔とダブルピースも忘れずに!! もっと自分たちは醜く薄汚い豚以下であるという気持ちを泣き声に乗せて!!』

「ぶひひぃいいいいいん! ぶひひひぃいいいいいいいいん!」

『また笑顔が堅いな! 本物の豚ならもっと媚び媚びの表情を浮かべるはず! さぁ、俺に向かって渾身の命乞いの鳴き声を!』


 怒り、屈辱。そういった負の激情を込めながら、勇者たちは笑顔で叫んだ。


「「「「「ぶっひひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」」」」」

『ひゃーっははははははぁー! やっちゃったよこいつら! やっちゃったよぉおおおおお!?』


 ローラン、大満足の哄笑である。


『ありがとう、その姿を()りたかった。特に意味はないが、ただ俺の心が少し潤った』

「おのれ……!」

「後で殺してやる……!」

「い、良いから早く鼻フックを外しなさいよ!」

『そうだな。そこまでしたご褒美に――――』


 鼻フックを外し、ゴキブリを下がらせる。そう……アレンたちは思ったのだろうが、そうは問屋は降ろさないのがシャルバーツ道具店防衛システム。


『全ゴキブリ、突撃ぃいいいいいいいいっ!!』

「はぁあああああああああっ!?」

「や、約束を破る気かこの外道ぉおおおおおおおおっ!!」

「いやああああああああ!! 来たぁああああああああああああっ!?」


 ローランにとって、アレンたちをゴキブリ地獄で攻めることは決定事項だ。口約束など防衛トンネル内部では霞のように薄っぺらく、勇者たちを相手に守る気などサラサラない。

 どっちかというと、希望を与えるだけ与えて屈辱を味わわせた後、それを奪う。その時の表情を拝むためにやらしたことなのだ。


「うぎゃああああああああああああっ!? ゴキブリ! ゴキブリがぁあああああ!?」


 津波の如く襲い掛かったゴキブリの群れは一斉に勇者たちに襲い掛かる。その精神的被害が、服の上を這うだけで終わるわけがない。


「あああああああああああああ!! 顔に、顔にぃいいいい!! いやあああああああああああっ!!」


 顔を覆いつくすように十数体のゴキブリがカサカサと這い回り。


「服、服の下に来たぁあああああああああああ!! うわああああああああああああ!!」


 服の袖や裾といった隙間から入り込み、服の下にして素肌の上をカサカサと数十……下手をすれば百を超えるゴキブリが這い回り。


「あががあぁあああっ!? ぺっぺっぺっ!! ゴ、ゴキ、ゴキが口の中にぃいい!! おえぇええええええっ!!」


 一度に数匹のゴキブリが悲鳴を上げる口の中に入り込み、それを吐き出してはまた入り込んでくるという地獄のサイクルが彼らを襲う。


「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!! ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 そんなゴキブリ塗れの勇者パーティの中で、未だに豚の鳴き真似をしているのは義妹であるファナだ。

 何と過去のゴキブリ地獄から逃げ出すために、壁を叩きながら必死に豚真似をして義兄に命乞いをするその姿、ローランからすれば正に絶景。感動的な意味ではなく、笑える的な意味で。


『素晴らしい! 美しいよ、その絶望に歪んだ顔! それでこそ、俺も頑張って建造した甲斐があるってもんだ!!』

  

 自らの絶叫でローランが何を言っているのかも分からない、そんな彼らに対してローランは監視魔道具の向こう側で石板に似た外見の、防犯システム制御盤を操作する。


『まだだ! 俺の防犯システムが与える恐怖はまだこんなもんじゃない! ムカデ投入! ゲジゲジ投入! フナムシ投入! 毛虫投入! ウデムシ投入! アステリアレインボータランチュラ投入ぅうううううう!!』 


 そしてリアルミストを更に生産、生理的に受け付けないであろう外見をした虫を大量に生み出し、勇者パーティの姿が見えなくなるまで覆いつくした。

 その後、勇者たちの悲鳴と義妹の豚のような声が一時間響き渡る。遂には悲鳴が聞こえなくなった時を見計らって魔道具を解除、リアルミストを元の霧状に分解すると、そこには白目を剥いて涙、鼻水、涎を流しながら茫然自失とする五人が横たわっていた。


「……あ……あへ……へ……」

「…………ムシ……あぁ……」

「ぶ……ぶひひっ……ぶひ」


 しかも容姿端麗な五人……それも恨みが積もり積もった勇者パーティが豚っ鼻を晒して呻き声を漏らしながら自分が作った魔道具の前に屈服している。ローランにとって、これほど気分爽快なことはない。


『無様な姿だ。そんなので勇者だなんて、笑わせるよ!!』


 しかしこちらの煽りにも反応が無い。どうやら精神が崩壊したらしい。


『だがそれでは面白くない。ようやく盛り上がってきたところなのに。仕方ない、医療ゴーレムを突入させるか』


 再び壁が開き、中からゴーレムが現れる。肉体面から精神面迄、ありとあらゆる〝治す〟魔術が付加(エンチャント)された魔核(コア)が埋め込まれた、自立型の医療魔道具だ。これなら精神が崩壊した勇者たちも元に戻り、再び防犯システム体験をさせることが出来る。

 

『治療費払エー』

『治療費払エー』


 もっとも、侵入者に対しては有り金全てを奪ってから治療するようになっているが。


『マネーサーチ発動ー』

『銀貨二枚発見ー』

『貧乏人ガー』


 アレンたちは勇者だからという理由で、タダで無銭飲食や買い物を楽しんでいる。有り金が少ないのも頷けるだろう。


『精神崩壊くらいで簡単に逃げられると思うなよ? 俺の第一回仕返し作戦はまだ終わってないんだからなぁ……!』 


ローランさん、二年越しのざまぁが叶ってテンションがおかしいことになってます。キャラ崩壊とは少し違うので。

他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ

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