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ざまぁへの誘い

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「…………♪」

「あー……吐きそう。……おぇ……」

 

 一抱えもある抱き心地最高のぬいぐるみを抱きしめて、僅かに口角を上げながらご満悦な様子のアイリス。

 その隣では、攻撃魔術の盾にされたり、振り回されたりして完全に目を回し、精神的疲労も相まって今にも胃の中のモノをぶちまけそうな顔をしたローラン。

 見事目的のものを手に入れた二人だったが、達成感はともかくとして気分は正反対だ。無論、ローランの気分は体調共に最悪である。

 

「これでモフ成分が補充できた……ありがと、ローラン」

「……いい。気にすんな……ぐへぇぇえ……」

「ふふ……。はい、水」

「……あんがと……」


 椅子の背もたれに体重をかけながら、涎を垂らして上を向いていたローランは、差し出されたコップの中身を少しずつ呷る。冷たい水の感触で、吐き気が少しだけ収まったような気がした。


「何か、色々大変だったみたいだけど……そろそろ話しを進めても良いかな?」

「……おうふ」


 返事になっていない言葉とともに、向かいの席に座るジークに向かって首肯する。

 イベントが終わって宿に戻った後の夕食の席……ローランは食欲が無かったが……で、ジークはまずこう切り出した。


「エアコンは最初の内は、ウチから直接客に売った方が良いね。他の店とかに卸さず」

「理由は?」

「客に対して他店を仲介して売ると、エアコンを開発・製造したシャルバーツ道具店のインパクトが薄れると言うのが理由の一つ。普通なら宣伝をしながら売ってもらうんだけど、中にはそれをしないのも居るし」

「目に見える約束事じゃないから、契約不履行ってやつか」 

 

 あるいは、まったく目立たない形でさり気なく製造元の宣伝をして、さも珍しい商品や画期的な商品を卸した自分たちだけが偉いといった風に宣伝する、しまいには降ろした商品を自分たちで開発したと偽る、いわゆる悪徳商人の一歩手前の事をする者はごまんといる上に、契約前では見分けがつかないというのがジークの言だ。


「それに、複数の店に卸し始めたらどんどん数を要求されかねない。エアコン作るのってローランだけでしょ? 生産が絶対に間に合わないから、売る数は自分たちで管理した方が良いんだよ」


 要求された数の生産が間に合わないのは、取引相手からの信頼的にも痛手だ。

 確かに、《星龍の鍋》とて万能ではない。使用できるのがローランだけということもあり、個人販売ならともなく幅広く売り捌くには人手が必要だ。他店に卸すのは、技術者の数を揃えてからでも遅くはない。


「幸い、販売許可書もあれば品評会で最優秀賞を飾ったっていう実績もある。新進気鋭の店でもこのノルドで売り始める分には十分だと思うんだ。妨害に来るかと思ってたゴルドー商会も、会長が怪我してそれどころじゃないみたいだし」

「……ミタイダナ」

「…………」


 ローランとアイリスは全力で目をそらした。


「それでどうかな?」

「私は賛成だけど……どうする?」

「俺もそれでいい」


 やはり営業担当を雇い入れたのは正解だったとローランは改めて確信する。製造にかかりっきりになる自分ではそこまで頭が回らない。


「それに、ようは自分たちで客を選んで販売って事だよな?」

「それはまぁ……売る相手を選ぶことは出来るだろうけど、どうしたの?」


 復讐の時、来たれり。ローランは邪悪な笑みを浮かべた。




 後日、トリグラフ死火山に訪れたジークは、目の前に広がる光景を呆然と眺めていた。 

 

「こ、これは……まさに壮観だね」


 神秘的ともいえる箱庭内部。しかしその本質は、中央に聳え立つ《創星樹》と《星龍の鍋》であり、今回の主役はそれらによって作られたエアコン百台と、それとは別に五大商家に売る分の五十七台である。


「とりあえず、一回目売る分はこれで良いとしてどうやって運ぶの? 手段は考えてるんだよね?」

「とりあえず、この間そこに開けた出入り用兼搬入搬送の為の大穴」

 

 以前、削岩魔道具で開けられた大穴を親指で指し示す。


「……は、使いません」

「使わないの!? あんなこれ見よがしに開けておいて!?」

「いや、俺も最初はそのつもりで開けてたんだよ。こう、タンクリザードみたいな人工魔物生み出して。でも出来上がった魔物がアレでな」


 引き攣った顔を浮かべるローラン。その視線の先には、極大の鎖を引くアイリスと、その鎖に繋がれた巨大な影。


「こっちこっち」

「ゴルルルルルルルルゥゥゥ……!」

「ん。いい子」


 ズシンと、一歩進む度に地鳴りがする。剣のような爪牙と鋼の鱗、そして巨大な二対の翼が生えたその巨体は、紛れもなく生物の頂点、ドラゴンであった。


「……あれ、ドラゴンだよね?」

「うん」

「ドラゴンの人工魔物なんて、どこの国でも成功してないよね?」

「らしいな」

「星龍の鍋には、足りない知識を補完する機能でもあるのかな?」

「ないな。魔道具の構造記すのはあくまで俺の役目だし」


 トリグラフ死火山は色んな意味でおかしいとは思ったが、そこの主であるローランも中々におかしい。これは深く追求すれば負けだなと思い至ったジークは、話題の方向修正を図った。


「つまり、あのドラゴンに荷物ぶら下げて空を飛んで行くってこと?」

「そう。荷台代わりのゴンドラもあの通り」


 一見すると帆柱のない船に、人型ゴーレムたちがエアコンを積んではロープなどで固定している。あの船こそがドラゴンからぶら下げるゴンドラであり、船体から魔力でできた糸をドラゴンに体に括り付けるのではなく、接着させることで飛行の邪魔をしない魔道具でもある。


「しかもあのドラゴンは東洋のドラゴンよろしく、ある程度天候を操作する力がある。これで雨の日も台風の日も楽々運送可能という寸法よ」

「確かに、今までは台風の日じゃ運送はストップせざるを得なかったからね。空を飛びながらだから、盗賊は勿論魔物に襲われる危険性も少ない」

「……俺としては、ドラゴンを撃ち落とすようなのが現れないことを祈るばかりだ」


 流石にアイリスのようなのがそうそういるとは思えないが、そう願わざるを得ないローラン。


「そう言えば、あのドラゴンには名前があるの?」

「え? 名前? いや、どうだろ? そこのところはアイリスに任せっきりだったから」

「あるよ」


 アイリスはにゅっと会話に参加してくる。


「名前はポチ」

「……んん? 何だって?」

「だから、ポチ」


 人口とはいえ、仮にもドラゴンに飼い犬のような名前を付けているらしい。これには創造主のローランも沈黙せざるを得ない。ドラゴン相手にあんまりなネーミングセンスである。


「ポチ、おいで」

「グルルルルル……」


 しかも当の本人……本竜?……は、その名前自体に遺憾はないようだ。ポチと呼ばれて素直にアイリスの後を付いて行っている。生まれた境遇が境遇なだけに、プライドのようなものは特にないようだ。


「まぁ、ポチでいいならそれでもいいか」


 ローランは極力気にせず、ゴンドラに乗せられた荷物のチェックに移った。




 ドラゴンの翼が生み出す推進力は、トリグラフ死火山から障害物の無い天空を通って、ノルドまで僅か二時間ほどで辿り着いた。

 事前に人工魔物で飛んでくることを自治体に知らせていたこともあり、際立った騒ぎにならずに(ドラゴンがゴンドラをぶら下げてきたこと自体には騒然となったが直ぐに鎮まった)、ゴンドラを空き地に着陸させてその場でエアコンを売り始めたローランたち。


「こっち! 一台くれ!」

「まとめ買いは出来るか!? うちのギルド用に四台欲しいんだが!」

「お客様、順番に! 一列に並んでお待ちください!」

「当商品は早い者勝ち! また明日も売りに来ますので、慌てずにお願いします!!」


 結果的から言えば、ノルドでのエアコン販売は大成功といえた。

 ノルド伝統の品評会、その最優秀賞という評判は地元民にも知れ渡っており、今ゴンドラの前に並んでいる客数から見ても、エアコン百台が完売するのは明らかである。

 

「本日エアコンは完売いたしました! また明日、同じ場所で売りに来ますので!」


 完売による店仕舞いを知らせる立札を客に見せつけるように置くと、不満を口々にしながら散っていく。


「ま、まさか本当に一瞬で完売するとは……」

「ん。品評会の評判、恐るべしだね。……ところでローラン」


 その後ろ背中を眺めながら深いため息を吐いていると、アイリスがローランの手を指さした。


「その指輪どうしたの? オシャレ?」

「いや、これは俺がエアコンづくりの片手間に造っておいた、人種判別の魔道具でな。アステリア王国人に指輪を向けると魔核(コア)が青に、魔族に近づけると黒に変色するんだよ。ちなみにノルド人は緑」

「? なんでそんなの作ったの?」

「あぁ、それはだな」

「失礼」

  

 話の流れを切るように、一人の中年男性が話しかけてきた。仕立ての良い服や、指にはめられた装飾品の数から貴族やそれに近い資産家であるということが容易に想像がつく。


「君の作ったエアーコンダクターは、取り置きが可能だろうか? それなら明日、吾輩の為に十台取り置きして欲しいのだが」


 ローランはさり気なく指輪を男性に向ける。魔核(コア)の色は、緑から青へと変色した。


「失礼ですが、突然ですがお客様はアステリア王国人とお見受けしますが」

「確かにそうだが、よく分かったな。しかし、それがどうかしたのかね?」

「誠に申し訳ありませんが、現在我がシャルバーツ道具店は、アステリア王国人の方々には一切商品を売らないこととなっております」

「何だと!? それはどういう事だ!? こちらは金を払う客だぞ!?」

「実は現在私はアステリアでは非常に商売がし難い立場にありまして……お客様は、ローラン・シャルバーツという名を子存知ですか?」

「ローラン? それは確か、勇者様の恋人を奪おうとした卑劣な……って、まさか……?」


 男は瞠目するのを見て、ローランは愛想笑いを浮かべる。


「私はその当の本人なんですが、勇者様方がばら撒いた嘘のせいで、祖国を出て他国で商売することとなったんですよ。アステリアでは悪評が流れ過ぎて、とても商売になりませんから」

「嘘……? それはどういう――――」

「ところでお客様、大変立派なご衣装ですね。さる資産家か、貴族様であるとお見受けしましたが?」

「あ、あぁ。国王陛下より、伯爵の称号を与えられているが」

「伯爵閣下! 国王陛下や勇者様との謁見の資格を与えられた!」


 釣り針に魚が掛かった。そんな酷薄で残虐な喜びを心の中で浮かべたローランは、畳みかけるように告げる。


「それならば丁度いい! もしエアコンをご所望であるならば、国王陛下や勇者様にお伝えいただけませんか?」

「伝える? 何をだね?」


 困惑しっぱなしの伯爵に、ローランは満面の綺麗な笑みを浮かべた。


「エアコンを始めとした、シャルバーツ道具店の商品をアステリアに売ってほしければ、勇者パーティを派遣して直接トリグラフ死火山を拠点とする我が社まで商品を奪って見せろ、と」


他のざまぁシリーズもよろしければどうぞ。

次回から、遂にお楽しみタイムです。

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