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ジークとの取引。そしてその時の勇者たちは……。

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「品評会?」

「まず前提として、ノルドはディレード商業連邦の傘下にある街だ。そして確かにゴルドー商会は大手だけれど、ディレードからすれば幾らでもある大型店の一つでしかない。それも、ここ数年売り上げが右肩下がりが続いている」

「あぁ……だから駆け出しばっかりのノルドに進出してきたんだ」


 合点がいったとばかりにアイリスは頷く。人で賑わうこのノルドで、駆け出しとはいえ商人や職人を全員傘下につければ、確かに金になるだろう。ローランもアイリスも、そしてジークもそれを責める気はない。売り上げが下がり続ける大手の苦肉の策という奴だ。


「ノルド品評会というのは、ディレードでも頂点に位置する五大商家がノルドまでやって来て、その時期の最も優秀な商品を決定するこの街きっての一大イベントなんだ」


 五大商家の名前はローランでも知っている。ディレードどころか、ウォルテシア大陸でも五本の指を占める、優秀な生産者を数多く傘下に加えた五つの商家の事だ。

 

「参加資格はノルドでの販売許可書を持ってさえいれば、身分や出自、実力を問わず、どんな職人やそれと提携している商人がエントリーできて、最優秀賞は莫大な賞金と名声、そしてディレードでの営業が許される。優秀賞なんていうのも複数あって、それを一つでも取れば職人商人としての未来は安泰とも言われているね」

「おお! そんな近道的なイベントがあるとは!」


 普通、ノルドで長期間知名度を上げていくことで、ようやく開かれる一等地に店を構える為の……言い換えれば成り上がりへの道だ。それを大幅に短縮できるというのなら、これに乗らない手はないだろう。


「……ん? でもちょっと待てよ? ゴルドー商会が駆け出しどころか、区長と手を組んでこの街の商人職人全部を傘下に加えちまってるっていうのなら……その品評会、誰が優勝してもゴルドー商会の手柄なんじゃ……?」

「うん。そうなるね」

「ん……結構ずる賢いね」


 そもそも参加条件が、ノルドでの販売許可書を所持しているという事なのだ。それをゴルドー商会に抑えられていて、なおかつ権力の無い商人職人が物理的にも経済的にも脅されていたら、五大商家にもバレずに事が運べる可能性が十分にあるある。

 幾らやり口が姑息とはいえ、別にノルドの駆け出しを傘下に加えること自体は禁止されていないのだから、問題の悪事である販売許可書の発行の私的な禁止と、商人や職人たちへの脅迫さえバレなければ問題ないということのようだ。


「で、デモルトは僕が持っている最後の販売許可書が目障りというわけ。書類内容の変更はディレードを通さなきゃいけないから、新しい内容の許可書を発行したから前までの許可書は無効みたいな裏技も出来ないし」

「……つまり無事にノルドを経由して大きな商売をするには、品評会で最優秀賞に選ばれて、ディレードの庇護下に入らないといけない」

「それでいて、品評会まで無事に過ごせるかどうかがもんだという訳か」


 五大商家に顔と名前を覚えられた商人や職人に手荒な真似は出来ないのだろう。幾らゴルドー商会が大手とはいえ、五大商家からすれば吹けば飛ぶ小さな店でしかないのだから。


「つまり、わたしたちは職人として、ジークは商人として提携して、一緒にディレードで商売できるようにしようってこと?」

「その通り!」

「いや、でも俺は実家の道具屋継ぐって決めてるから、よその店に職人として加わるっていうのはなぁ」

「なら一時的な取引ならどうかな? 君たちが無事最優秀賞を取れたら、品評会が終わってしばらくの間までは僕が君の道具屋をディレードの大型店にプロデュースする営業担当として勤めるって形で。それなら僕にも箔が付くし」


 営業にはあまり向いていないと自覚していたローランは非常に旨い話に喜色を浮かべるが、すぐに都合が良過ぎると警戒を始める。 

 

「それは助かるけども何か……話が上手すぎる気がするんだけど?」

「……そうだね。信頼が第一の商人として、これだけは先に言わせてもらおうかな。……僕は君たち以外にも、ゴルドー商会の傘下に加わる前の幾人もの駆け出し職人を中心に同じ話を持ち出している」

「それは、ゴルドー商会と同じで、誰が優勝しても問題ないようにする戦略?」

「うん」


 販売許可書を持つ一人の商人と提携している職人なら、職人自体は販売許可書を持っていなくても問題ない。そして提携する職人は何人いても問題ない。最優秀賞を取れれば無事にディレードで商売して成り上がり、取れなくても協力してくれた礼として、品評会で手にした五大商家への影響力でゴルドー商会特徴の不正を詳らかにし、元の自由なノルドに戻すことを約束しているという。


「どうする……?」

「ん。わたしたちの理に適ってると思う」


 その説明を受けたローランとアイリスはしばらくの間コソコソと囁き合い、一つ頷き合ってから再びジークと向き合う。


「その話、乗らせてもらう」

「……でも、わたしたちを騙したり、「言ってなかっただけ」とか詭弁を吐いたりしたら、即座に凍らせるから」


 アイリスの手に持つジョッキの中の酒が一瞬で凍結凝固する。それを見たジークは、冷や汗を流しながら、それでいて満足気に頷いた。


「オ、OKOK。神に誓って、君たちに不利益が出ないよう全力を尽くすと約束させてもらうよ。……ところで君、品評会が始まるまでの間、僕のボディーガードにならない?」

「丁度いい。怪しい動きをしていないか見張らせてもらう」




 一方その頃、アステリア王国では一つの騒ぎが起きていた。


「宿敵である魔国との国境線上にあるトリグラフ死火山に、謎の大穴が開いていると国境で偵察活動をしていた斥候から通達があった。魔族共の侵略行為かもしれんので、至急様子を見に行ってくれぬか?」


 国王バザルド一世のの命を受け、トリグラフ死火山の麓までやってきたのは、アレンたち勇者パーティーである。何が起きているのか分からない以上、最高戦力をもって確実に情報を持ち帰ろうというわけだ。


「俺こういう地味な作業嫌いなんだよなぁ。偵察なんて勇者の仕事じゃないぜ」

「仕方ないですよ。それだけ私たちが頼りにされてるって事なんですから」


 ブチブチと文句を言いながらも、神器である聖鎧がもたらす飛行能力で楽々山道を登るアレン。それに追従するように、百倍になった身体能力で跳躍するように岩だらけの道を進むアリーシャとファナ、キーアとエリザが続く。

 ここに来るまでの道中で現れた魔物を鎧袖一触に臥し、光り輝く神器を纏って超人的な動きで急な山道を登る彼らの姿は英雄に相応しいと、誰もが評価するだろう。

 馬すら上回る速さで王都からトリグラフまであっという間に到達し、アレンたちは山の上層から中腹の間にある巨大な穴を視認する。


「あれがそうなのか?」

「ええ。斥候からの報告だと、この方角に開いてる穴で間違いないみたいだし」

「……待って。あの大穴の前に、何かいない?」

 

 巨大な穴……ローランが開けた搬送搬入用の通行口の前には、警備として配置された四体のゴーレムの姿があった。その全てが偽の聖鎧を装着し、それぞれ聖杖、聖典、聖弓、聖剣を装備している。


「あれって、私たちの神器なんじゃ?」

「……いいえ、よく見てください。色合いが違います。きっと偽物ですよ」


 勇者と聖女が持つ神器は、全てオリハルコン独特の白に近い金色をしているが、四体のゴーレムが身に着けている鎧や武器は全て青銅色だ。完全に色違いなので、一目見ればどんな馬鹿でも偽物と判別がつくだろう。


「少なくとも、この先になにかがあるのは間違いないようだな」

「へっ。面白れぇ。つまりあれは門番って事か」


 たかが偽物なら何の問題も無いとばかりに、勇者たちは余裕綽々といった態度で近づく。こちらは戦と光の女神アテナが失われた儀式魔法陣で強力な付加が数多く施された神の武器。そして向こうは誰が作ったかは分からない……知り合いではあるが知る由もない事ではある……が、その模造品と思われる粗悪品。

 戦えばどちらが勝つかなど目に見えている。アレンはそんな確信をもって、偽の聖剣を持つゴーレムに向かって大きく拳を振り上げた。


「このガラクタが! すぐに粗大ゴミに変えてやるぜ!」


 そして神々しく光り輝く拳でゴーレムを粉砕しようと突きを繰り出した瞬間、ゴーレムが同じく光り輝く拳で強烈かつ見事なクロスカウンターをアレンの顔面に叩き込んだ。 


「ぶべぇえらぁあああああっ!? い、いでぇええええっ!? いでぇええよぉおおおおっ!!」


 鼻血を吹き出しながらあまりの痛さに悶絶するアレン。聖鎧の機能の一つである被ダメージの半減が全く作用していない事にも戸惑っているようだ。

 それもそのはず、ローランが作った偽の神器は強度でこそ劣るが、それ以外はオリジナルと何の遜色もない性能を持つ。聖鎧のもう一つの機能、与えるダメージの倍加が、受けるダメージの半減の効果を実質打ち消している状態なのだ。

 

「アレン!? よ、よくもアレンを!!」


 神器の性能に頼り過ぎて痛みに慣れておらず、すぐに復帰できそうにない愛しい男を守るために、剣を持つゴーレムに斬りかかるエリザ。数多くの騎士も反応できない踏み込みで間合いを詰め、神速と謳われた一閃を見舞おうとするが、ゴーレムの迎え撃つ剛剣によってそれはいとも容易く捻じ伏せられた。


「ぁあああああああっ!?」


 大上段からの一撃を剣身でとっさにガードするエリザだったが、身体能力が百倍になっているはずの自身すらも捻じ伏せるパワーによって地面に減り込む勢いで叩きつけられ、戦闘不能に追いやられてしまう。


「アレン! エリザ!」

「ファナ! 回復を!」

「わ、分かっています! ですが……!」


 ギリリ……と、弓の弦を引く音が聞こえる。今度は偽の聖弓を持ったゴーレムが、勇者たちに向かって矢を番えているのだ。それに最初に反応したのはキーアである。


「やらせるかぁ!」


 聖弓が持つ機能の一つ、無限の矢が雨あられとゴーレムたちに向かって降り注ぐ。一射一射が鋼を穿つ威力を誇る破滅の驟雨(しゅうう)はキーアの殲滅戦の十八番だったのだが、なんとゴーレムはその二倍以上の数を発射し、その上でキーアが放った矢を全て撃ち落としてしまったのだ。


「そ、そんな……! 私の矢をあっさりと……!?」

「ぼうっとしないでください! 《聖障壁》!!」


 神器の基本性能である無詠唱による魔術の発動。展開された光の障壁は騎士たちが総出で掛かっても罅一つ入らないほど強固だが、威力では同じ性能を誇る偽聖弓の乱射には耐えきれなかったらしく、粉々に砕け散ってしまう。


「くっ! 私の結界が……!」

「でももうこれで終わりよ! 《豪炎波》!!」


 広範囲に展開される炎の波が、陽光すら打ち消す輝きを放ちながらゴーレムたちを纏めて呑み込まんとする。本来広範囲へ攻撃する分威力が分散してしまう特性がある魔術、《豪炎波》は強敵にダメージを与えるのに向いていないが、聖典によって高められたその威力はミスリルすら融解せしめる。

 それはミスリルと鋼を使った警備ゴーレムでも同じこと。アリーシャたちが勝利を確信したその矢先、偽の聖典を持ったゴーレムの両目にあたる部分が妖しく輝いた。


『《濁流壁》』


 無機質な音声と共に、炎の大波を迎え撃つ形で泥が混じった水の壁が津波のように押し寄せる。

 実はローランが戦闘用のゴーレムを作る際に一つの機能が組み込まれたのだ。それはすなわち、相手が使った魔術に反応し、その魔術の弱点属性となる魔術を即座に発動するというもの。

 炎は水と泥で鎮火される。子供でも知っている常識は、大規模な魔術によって再現され、五人は為す術もなく山道を押し流されていった。


「きゃああああああがぼがぼがぼっ!?」

「あ、主どごぼぼぼぼっ!?」


 水流の中で岩に全身を打ちつけながら、二百メートルほど下まで押し流されてようやく止まることが出来たアレンたち。口の中に入った泥を吐き出し、痛む全身に苦しみながら、自分たちをこんな目に合わせたゴーレムに恨みの声を吐く。


「ゲホゲホッ! ぶべっ! ク、クソォッ!! 何なんだよ、あのゴーレムはぁっ!?」


 ローランが作ったゴーレムは、成人男性並みの力と魔力を有している。それを二つの偽神器でブーストしているのだ。故にその出力は、単純計算でアレンたちの二倍はある事になる。言ってしまえば、このゴーレムたちは勇者パーティの上位互換だ。

 しかしそんな事を知る由もないアレンたちは、今のは何かの間違いだ、少し油断しすぎただけだと、打ちのめされた現実を直視することなく山頂を睨む。


「見てろよあのガラクタぁ!! 今度こそ粉々に――――」


 その言葉は最後まで続くことはなかった。何とか立ち上がった勇者と聖女たちの真上から、極太の光の柱が下ろされたのだ。

 聖杖に宿っていた光属性最上位魔術、《神浄》。邪な考えを抱く者ほど大きなダメージを与えるという、敵対者の精神構造にまで影響される高度にして破壊的な一撃は、問答無用でアレンたちを叩き潰した。

 人間の希望にして英雄との戦いとは思えないほど、あまりにも呆気ない決着。もはや動くことどころか、意識を保つことすら出来なくなった勇者パーティーに、騒ぎを聞きつけ集まったゴーレムたちが群がっていく。


『金ヨコセー』

『金ヨコセー』


 何も殺しに来たという訳ではない。そもそもこのゴーレムたちは山の内部に入ろうとする者の進行をブロックするだけで、明確な敵対行動をとらなければ過激な攻撃はしない比較的安全な防犯装置だ。

 いずれこの山にシャルバーツ道具店の店、もしくは関係施設を建てようと考えていたローランからすれば、いくら不法侵入者と言えども人死には縁起が悪い。罠にしろ警備ゴーレムにしろ、相手が何者であれ非殺傷の方が外聞が良いのだ。

 しかしただ叩き潰して返すだけで済ませるほど、ローランは優しい男でもない。この山はどの国にも属さないローランだけの土地。言ってしまえば、ローランこそが法律だ。


『マネーサーチ発動』


 そのローラン(法律)が厳然と告げていた。……不法侵入者には、罰金として有り金全部いただくと。


『硬貨回収ー』

『銀貨三枚。金貨ネェノカヨー』

『シケテンナァー』


 懐にしまってあった財布などから硬貨を全て奪い取り、ゴーレムたちは気絶したアレンたちを山の麓まで捨てに行く。奪った硬貨は、ローランの工房に届けられる手筈だ。


まぁ、第一章における勇者ざまぁ、第二章、第三章、それ以降への勇者ざまぁへの食前酒みたいなもんですかね。この程度のざまぁで終わりと思ったら大間違いだったって事で。

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