冴島 烈花
前書きで出来るだけ面白い事を言おうと思ってます。でもね……無いんだよ(絶望)
ピーナッツバター塗りたくった食パンに、ドレッシング無しの生野菜サラダ。
朝飯見て死にたくなったのは、初めてかもしれない。
……少し考えた。 このまま食うのはなんか図々しい気がする……と言う感情は、目の前で美味そうにメシ食ってるショタじじいを見ると一瞬で消え去った。
恐る恐る、無ドレッシングの生野菜をたべた。
普通に美味いからなんかムカついた。
だがピーナッツバター食パンは俺としては地獄だった。朝から甘すぎるんだよ。首吊って死にたくなる。食い終わって、自分で食器洗って……、俺たちは無言で向かい合わせになる。
そして……無言。
「…………」
「…………」
(おいグレン)
(何だよクトゥグア? )
(こいつ、本当にあの馴れ馴れしいカメラマンか? 異様に愛想はないし、目付きはまるで捨てられた犬のようだ。正直同一人物とは思えん)
奴らが話してる。聞こえねぇねぇけど何となく分かる。
(そらそうだ。こいつは【後追い草】の中毒者だ。寂しくて死人にすがってる、甘え盛りのガキだからな)
(ならこれが素の人格と言う事が? だが【後追い草】を使い続けた人間はの末路は……)
(あーそうだ。ほっといたらこいつは体中が腐って死ぬ )
(うーむ……)
勇気出して、自分から話しかけてみた。
「俺、喋るの得意じゃねぇからさ……人化け草使っていい? あんたも昨日の【僕】の方が喋り安いんじゃねぇの? 」
数秒経って返答がくる。
「……お前全然懲りてねぇのな。 昨日、鼻血出してぶっ倒れたの覚えてねぇのかよ? 」
んなこと言われても……。
「取り敢えず生い立ちから話せ。 最後になんでこんな事したかの、【言い訳】でしめろ 」
またわさびポテチを、パリポリと音立てながら食い始めた。くそめんどくせぇ。黙ってても喋っても、俺が死ぬのは変わんねぇだろうが。
「…………」
「…………」
特に話が進まないまま……静かな時間が流れた。何となく分かってたが俺達は、お喋りが苦手らしい。俺に至っては、人化け草使ってあの人格と顔を使わねぇと、ろくに人と喋れねぇし……。
奴がやっと最後の1枚を口に入れた。袋を丸めてゴミ箱に見事スローイン。ちょっと凄いって思った。そしてまた何もせず、何も語らない時間の再開。
時間の無駄なんだよ、ショタじじい。こっちはいつかはこうなる事が分かってたんだ。有無を言わさず俺の事殺ればいいだろう。紛らわしい事すんなよ。
「はぁー……」
いやいや……俺の方がため息つきたいんですけど……。奴が口を開いた。さて、どうやって俺の事説得すんの?
「……俺の母さんは、俺を産んだと同時に死んだ。被害妄想が激しい人間達のせいでな。こっちは何もしてねぇのにさ 」
…………………………。
「…………どうして? 」
「俺が生まれた頃の時代は、魔法使い達は魔女だの、悪魔だの、サタンの手下だの言われててさ。有無を言わさず殺されてたんだよ」
……ちょっと待てよ。それじゃーあれか? お前は……。
「じゃあ、あれかよ。あんたは復讐の対処の為に戦ってんのか? 」
「……人間達が復讐の対処なんて今は思ってない 」
奴はハッキリと言った。嘘を言ってる瞳がじゃなかった。……意味がわかんねぇよ。
「そんなに……そんなに、人間の事が好きなのかよ? 」
間を置かずに答えが帰ってきた。
「この顔が人間が大好きな魔法使いの顔に見えるかよ 」
「……見えねえよ 」
「だろうな 」
聞きたいことが出来た。これだけは聞きたい。
「あんたは…… 」
ダメだ。これを聞いたら、こいつに負けてしまう気がする。俺の中の決定的な何かが、崩れ去ってしまう気がする。でも……知りたい。
「……なんで、人間の為に戦ってるんだ 」
また、奴は間を置かずに答えを返してきた。
「俺が騎士だからだ。 俺が戦うのは、俺一人の意志じゃない。
誰かの為に戦って、道半ばに倒れて行った……仲間の魔法使い。
命尽きる最期の時まで、平和を願っていた奴ら。
俺が戦う理由は、大義を胸に生きてきた奴の願いを叶えてやりたいからだよ 」
なんだよそれ。全く理解出来ない。こいつは、俺とは違う場所の人間じゃねぇかよ。
「…………」
何となくだが、奴は、この事を言いたくない事を言った気がする。……畜生が。これじゃあフェアじゃねぇよ。俺も……ちゃんと話さきゃいけない気がする。
こいつは卑怯者だ。きっと……俺がこういう気持ちになるのがわかってたんだ。 クソッタレが。
胸が詰まりそうになった。正直死ぬほど言いたくない。別に言わなくてもいいんだよ。
奴が勝手に喋っただけだ。関係ない。
関係ない。関係ない。関係ない。関……係ない。
畜生が。
「俺の……俺の生まれは、香川にある【雲島】だ。そこで生まれた 」
【雲島】ってのは魔法使い達が、道具の調達や金銭のやり取りをする為に、分厚い雲で普通の人間達に隠している、浮かぶ島だ。【魔鉱石】って言う、魔力を秘めた鉱石でてきてる大きな島の事。
「お母さんとお父さんも、魔法使いだった。お父さんは兵士、お母さんは学者だった。特にお母さんは、魔道具作りの天才だった 」
「…………」
お母さんとお父さんの事を思い出した。お父さんは忙しく家にはあまり帰って来なかった。でも馬鹿みたいに優しかった。本当に兵士なのかって位に。
お母さんは厳しくて、勉強しなさいってばかり言われてた。正直うざいなって思ってた。
でも、今思うと……二人とも大好きだった。
「12年前だ。ある同法殺しの魔法使いが、お父さんを殺した。でも、お母さんが仇を取ってくれた。
……ガキだった俺に、お母さんは誤魔化さずに、お父さんに会えない事を教えてくれた。
でも、その魔法使いの親が逆恨みして、俺達の家に火をつけた。俺たちは逃げ遅れた。俺が気を失っていた時に、ある魔法使いが、俺の事を助けてくれた。でも、お母さんは間に合わなかった 」
目頭が熱い。思い出したくない感情が込み上げてくる。
「俺は親戚達にたらい回しにされた挙句、ある一家に養子として引き取られた。
そいつらはクズだった。あいつらは自分達の一人息子共々、俺たちを虐待してた 」
俺は、ショタじじいに、自分の腕を見せつけた。
「俺の元々の両腕は、あいつらに散々タバコの火を押し付けられたり、殴られたりして、感染症食らって切り落とした。
この義手は、俺と一緒に虐待された、あいつらの息子が作ってくれた物だ」
自分の事を【僕】と言う、ちょっと可愛らしかったあの子は、俺と一緒に虐待に耐えてたんだ。俺と違って、あの子は奴らの実の息子だったのに……。
今まで、あの子は俺の隣にいてくれてる。鏡を見ると、いつも俺の隣にいてくれる。
【人化け草】を使えば、俺の体を貸してやれるんだ。
「俺が12の時、あの子、【直之】が……死んだ。元々喘息持ちで、体は強くなかった。
……あいつらがちゃんと薬をやってれば、直之は死なずに済んだのに 」
どんどん自分が感情的になってるのが分かった。そうだよ。俺は……寂しいんだ。あの子がいたから虐待にだって耐えれた。
18歳になったら2人でこの家を出よう。そう約束した。なのに……あの瞬間、この夢は崩れ去ってしまった。
体に悪くても、直之が楽しそうにしてるなら、何度でも【人化け草】を使えた。
【人化け草】を使い続けた人間の末路は知ってる。それでも……。
俺も直之もカメラが好きだった。でも……直之が楽しそうにカメラを撮ってる所を見る方が好きだった。
俺より年上の癖に、何故か弟の様な感覚だったよ。
「14で、魔法使いになった。【マンティコア】って言う、無知無能な化け物と、無理やり契約してやってな。学校の勉強なんてほったらかして、お母さんが残してくれた本を読みまくって勉強したよ 」
奴が口を開いた。
「お前の里親は……どうなった? 」
何となくだが分かった。遠回しに【お前が殺したのか?】ってきいてるんだ。殺せるもんなら殺してやりたかったさ。……でも。
「火事で死んだよ。お母さんとお父さんと一緒でな。だが違うのは、誰もあいつらを助けに行かなかった事だ。 俺はその時学校に行ってたから、死なずに済んだ 」
「清々したか? 」
……もう分かってんだろ。
「清々なんてしねぇよ。いくら恨んでたって……近くにいた人間だ。
いい気分なんてしなかったさ……。
あんなにクズだったのに、あんなにひでぇ事されたのに……。
だから記憶を消すんだよ。
死なれたら、ポッカリと穴が空くんだ。
でも、あっちが忘れてくれたら、こっちだって諦めつくだろ…… 」
そうだ。無かった事にしてしまえばいいんだ。
そこに合ったから辛いんだ。寂しいんだ。
でも、元々無かった事にすれば。
子供も、親も、その頃の記憶を消しちまえば傷つかない。 きっと俺みたいに寂しい気持ちにはならない。
「それが……お前の言い訳か? 」
「……ああ。
間違った事をしたつもりは無い。例え自分が死ぬ事になっても、俺は最後まで俺がやってきた事が、正しいって言ってやる。
【己が意思にしたがえ 】
お母さんがずっと言ってた言葉だ。
俺は自分が正しいって思った事を、全力でやっただけだ。これで死んだって俺は絶対に、後悔はしない 」
……初めてだった。自分の言葉で、ここまで自分の事を話せたのは……。
そうだ。俺は……俺が選んだ道を後悔なんてしてない。ただ1人でもいい。
俺と同じ気持ちになる子供達が、いなくなるように……。
ただそれだけを願ってここまでやってきたんだ。
俺が……この道を選んだんだ。
「言い分は……よくわかった。
だが、お前の処分は暫く後だ。
仕事が終わってない 」
……仕事ってあれか?
「あの……血まみれの天使共か? 」
「いや、【別の仕事】があって日本に来た。だが、あいつらの事もほっとけない。本命の仕事と、あの天使共を片付ける。
お前も手伝え。さっきの言葉が嘘じゃないなら、俺に協力しろ。曲がりなりにも人を助けてたつもりなら、最期の最後までそれを貫け 」
……取引じゃない。
俺が死ぬのは間違いない。こいつに殺される。
掟破りの魔法使いなのだから、仕方がない。
だが、俺は奴に協力する事にした。
俺は、俺がやってたきた事を否定したくない。俺は、オレ自身にだけは嘘はつきたくないんだ。
……事が終われば俺は死ぬ。 でも、それでも構わない。
【人化け草】
別名、【死人笛】。
死者の魂を体に憑依させる、呪いの草。
効果が切れれば、辛い副作用が待っている。
だが、子を失くした母親や、友人を失くした者、恋人が失くした者達は、1度これを使うと、確実に依存してしまう。
彼らのその殆どは、最終的に副作用によって命を落とす。その性質から、一時期、【後追い草】とも呼ばれていた。