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魔法使い


速筆、それは俺が決してなれないものである(ホンマに申し訳ない)

 


 大剣からは紅の花びらを撒き散らし、彼の1歩1歩は地を揺らす。燃える牛の鎧の戦士。それは歴戦の騎士と呼ぶに恥ずかしくない姿だった。


 傷だらけの鎧も、ボロボロの青いマントも、恐ろしくも硬派なその顔立ちのマスクも、僕には全てが洗練されてるように見えた。



「なんと、恐ろしく汚らしい姿。私がこの手で蒸発させてくれる! 」



 ここまで無知無能な天使を初めて見たよ。この次の展開は容易に想像出来る。


 カメラを構える。次は絶対に撮り逃さない。



 薄汚い天使の1人が向かっていく。血塗れの槍を握りしめ、風を切る音を立てながら、鎧の彼の額に突き立てた。




 そして……、槍は鎧の彼に傷1つ付けられず、ぽキリと折れた。



「ば、バカっ……!! 」



 馬鹿な!!!っと……言おうと思ったのだろうな。そのセリフの最後が口から出るその前に、血塗れの天使は鎧の彼に切り裂かれた。




 刃は脳天から入り、股から抜けた。


 綺麗に真っ二つ。完璧なシンメトリーだ。


 断面からは内蔵は見えない。何故か?って。炎の剣で切り裂かれたんだ。切られて断面は炎に焼かれているよ。天使の切られた事にすら気づいてない間抜け面も、直ぐに炎に食われて見えなくなったね。





 まずは1人目。



「ええーい、構ってられん!! ここを出るぞ! 」




 ここまで馬鹿を極めた奴らを初めて見たよ。お前らこの灼熱の空が何か、分かっていないのか?



「空へ逃げろ! 天を制する我らに、騎士もどきの刃など届かん! 」



 もう聞いてられない……。 血塗れの天使様達が薄汚い羽を広げて、お空にお逃げになっておられます。



 何人かの、うすのろな天使様は、空へ飛び立たれる前に鎧の彼に切り裂かれ、一瞬の後に炎に包まれ焼き死にましたとさ。……めでたし、めでたし。



 さて、ここからが彼らの無知っぷりの大見せ場でございます。空へ飛び立ち、鎧の彼の剣が届かなくなった場所で、彼らは勝ちを確信した表情を浮かべ、空の彼方へ逃げようとしました。




 すると、パキィィィーン!っと音がなりました。驚く事に、……んなわけねぇだろ常識だバーカ。



 最近の天使は、脳みその衰退が激しいみたいだな。



 あの脳なし共が空に弾かれた理由は簡単だ。鎧の彼が作ったあの灼熱の空は【結界】だ。



 戦いにおいて、逃走と言う手段を取らせない為のな。



「無知ってのは見てて、心が痛むな 」


 あーそうだね。俺もそう思うよ。



 お? これはすげぇわ。


 信じられない事に、鎧の彼は空高く跳躍しそして、空を蹴りながら飛んでいるんだ。



 そう、彼は空を走っている。



 結界から出られず、パニックになる天使共に、容赦なく紅の炎に燃える大剣で肉を裂いていく。



 天使と言う1つの形に集まった肉の塊は、彼の斬撃で数千の肉片と姿を変え、肉片は炎に包まれる。


 それは空から地に降り注いぎ、火の雨が吹き荒れる。



 火の雨の中を鎧の彼は飛び回り、天使共を切り刻んではまた、火の雨を振らせた。


 灼熱の業火は、ボーボーと音を立て、天使共の断末魔なんぞ、かき消されていた。何一つ聞こえない。







 あー美しい。最高の絵だ。僕……いやもう言葉遣いなんて気にしてられない。







 俺はこんなに素晴らしい被写体を初めて見た。



 シャッターを押し続けた。その全てを撮り続けた。




 生き残りの、天使が地に落ちた。翼は焼けただれ、もはや天使では無く、ちにひれ伏す奴隷のように見えた。




 だが俺は同情はしない。人殺しの天使なんぞと言う醜悪な輩には、相応しい最期だ。



 鎧の彼も地に降り立った。 既に空も地も灼熱地獄。熱さと熱風が吹き荒れるこの地獄絵図が、天使の最期に見る光景なのだ。



 そう考えると笑いが起こりそうだったが、1つのドラマを1枚の絵に留めるカメラマンとして、俺は無表情を貫いた。



 さあ、そいつで最後だぜ? 灼牛騎士しゃくぎゅうきし外異悪ガイアさん。




 天使が命乞いを始めた。



「ま、待て!! 私は神の使いである! そして神の意思の体現者なる者! 私に剣を突き立てるはそれ即ち、神に刃を向けると同っ!」





 ザァァァン……っと乾いた音が天使の言葉をかき消し、灼熱の地と空に響いた。




 命乞いを最後まで言わせないとは……中々過激な性格してるよな。




 横たわる天使の体には首が無い。正直シュールな絵で可笑しいや。



 一応これも撮っとくか。



 彼の鎧は砕け散り、地に帰っていった。灼熱の空も大地も何事も無かったかのように消えてしまった。




 なんだもう終わりかよ。もう少し粘れよ恥さらし共が。



「……お……い……おい……お前だよ! 聞こえてんのか根暗やろう 」



 あ、呼ばれた。夢中で撮ってた奴を確認してたから気づかなかったや。




「……何であいつらを追いかけた? 危険な目に合うのは分かってたよな? 」


 うわー心配してくれるんだー。


 慈悲深いいい子だなー。……んなわけねぇわこれ。



 整った顔立ち、灰色のジーパンに白のワイシャツ。お日様の様な黄色い髪に、空の青よりも透き通った青い色の瞳。



 歳は13程に見えた。 見た目は……な。




「【闘士の魔法使い】様が、まさか私目を気遣って頂けるとは、恐縮至極にございます 」


 とでも言っておいた。



「おい根暗。話聞いてたかよ? 質問の答えになってねえぞ」


 うわー特に意味の無いこの罵倒。なんか癖になりそうだなー。



「【影】にそれなりの知識があるみたいだな。って事はお前も…… 」



『グレン! 奴のカメラを見ろ! あれは魔道具だ! 先の戦い、完全に記録されたぞ! 』


「何!? 」



 やっべ、気付かれた。 まあ遅いけどね。




 それじゃぁー、チャオー♪






 ※※※※



 さてと、ここまで来れば追っては来れないな。



 ん? 【どう逃げたんだよ?】ってか? ちょっと待てっよ。今撮った写真プリントアウトしてるとこだからさ。



 よし、これ最後の1枚だ。



 まあまあの出来だな。 いやー龍の鱗と走り木の網膜を使った一眼レフは一味違うねー。



 全然ぶれて無い。 しかもこんなに早く焼いてしまえるなんてな。



 金貨15枚。魔鉱石30個、使った甲斐があったよ。




【闘士の魔法使い】か。 久しく見るが、あそこまで造形に惚れた物は出会った事がない。




 

 今日は踊り狂いたい気分だ。



 そう言えば僕がどこにいるか、まだ言ってなかったね。




 ビルの屋上さ。どこのビルかは流石に知らない。



 下を見れば興奮するぜ? 落ちれば肉片に大変身だ。 まあ、普通の人間ならね。




「来なよ。【マンティコア】。 今日は踊りたいんだ 」



 背を向けて、目をつぶり、体を預けるように、ビルから体を投げてみた。




 落ちていく刹那、僕はビルから自分の姿が変わって行くのを見た。





 左目は、縦長の瞳孔の猫目に代わり、色が黄色く変わる。腕は緑の鱗に覆われて、まるでトカゲだ。



 背中からは翼が生えた。 歯車がギーギーと音を立てる、機械仕掛けの羽だけどね。両足はダチョウの様に逆関節に。




 あー醜いなー。こりゃダメだ。一生被写体にはしてもらえない顔だ。



 そんな事を思いながら、翼をはためかせ、夜の空を泳いだ。



 人間達は俺の姿を見ると、ゴルゴンに睨まれたかの様に固まって動かなくなる。


 食べたりにしねぇーよ。まあいいさ。今日は気分がいいんだ。



 日が昇るまで……今日は踊り狂おう。






 あれま……俺はついてる。



『いたぞ! 奴だ! 』


「あー……」



 いたぞ!ってそれ俺のセリフだよ。 写真は出来たんだ。また会いたいと思ってたんだぜ?




 醜い僕は地に降りて、金髪美少年の前で膝まづいた。


 かいぶつを目の前に、人々を叫びを上げながら逃げ惑う。



 逃げないのは、君だけだ。





「なるほどなー。そういう事かよ。






【半神】の魔法使い 」





「やあー、【闘士の魔法使い】。さっきぶりだ。また会ったね 」




 首にかけた魔道具の一眼レフを片手に持ち、彼をレンズの中に入れて、鱗の指でシャッターを切った。




 最高の被写体を見つけた。



 僕は……ただの【魔法使い】のカメラマン。



 この騎士の美形ショタが気にいってしまったので、彼をストーカーする事に決めた。



 全て世界の全ての時間には、ドラマがある。



 君はどんなドラマを見せてくれる?









3話でやっとタイトル回収。テンポ悪くて申し訳ないっす。

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