遠い空
遅゛く゛な゛り゛ま゛し゛た゛。
本当に申し訳ない。
夜が明ける頃には僕は消える。烈火の体の副作用が心配だ。でもグレンさんから聞いた話では1日分の量だけしか使って無いっぽいから、死ぬ事は無いらしい。
帰り道の途中、僕は今この街で色々やってる神様の事を知っている限りは全て話した。
途中、首にぶら下げたカメラの画像フォルダーを見た。やっぱり烈火の奴、空か花しか撮ってない。何が何でも人間はフィルムには入れたく無いのかなぁ。僕が撮った写真まで消してるし。
「俺は、悲しいよ烈火」
思わず独り言が出た。俺なんて言ってるし……。
ん? 俺?
「あの時と一緒だな」
「え?」
「いきなり口調がおかしくなる。人化け草がそろそろ切れる兆候だよ。烈火の方の人格が出てこようとしてんだ。
あの日の時は頭おかしい奴としか思えなかったが、今となってはそう言う事だったんだなって合点が行く」
へぇーそうなんだ。だからかな……。僕が消える最後の方は記憶が無いの。なんかまた賢く成った気分さ。
『人化け草と言うのは凄いな。肉体的な容姿だけでなく、メガネや服装まで再現するのだからな』
クトゥ……なんだっけ忘れた。まあなんかその人が聞いてきた。やっぱり頭の中で声が響くのはいい気分がしない。
「凄いだろ? 因みにこの成熟した体は、僕が死ななかった場合の姿だよ。この通り、この腕は義手では無くて本物の腕だし。
そして、僕もこのままで生きてたらこんな男前の姿だったと…… 」
「もう黙れ」
静かにそして、いつも通りの無表情な顔で切れ味抜群のツッコミが来た。やれやれ、僕なんでこんなのに嫌われてんの?
まあこんな会話しながらも、だらだらと帰り道を歩いた。僕は最期に言いたい事がある。
正真正銘の最期だ。失礼とかそんな事、全く気にせずに言うんだ。……どうせ嫌われてるんだから。
「グレンさん」
「あ? 」
鼻で息吸って、鼻で息吐く深呼吸もどきをして気持ちを落ち着かした。足を止めて彼の目を真っ直ぐ見た。今から言う事は大事な事だ。
僕の事より大事な事だ。
「僕が烈火の人化け草に答えるのは……これで最後にしようと思ってる」
「…………それを虚言にしないと約束できるのか? 」
彼の返答は少し間を置いて返って来た。
「……あぁ。貴方を信じてみるよ。因みに僕からも聞くね? 」
自分でも気づいた。僕が無意識に彼を睨めつけてる事を。こんなつもりは無かったが、どうやら僕はまだ彼を信じ切ってはいないらしい。
今日で見極めてやる。彼の言葉がうわ言かどうか。
「貴方は言った。自分が助けたい人間の中に烈火も入っていると。その言葉に偽りは無いの?
その場しのぎの嘘じゃないよね? 確かに貴方がその足で日本に来た理由には感動したよ。僕にしては珍しくね。
でも、貴方は凄い長寿なんだろ? 烈火の事なんて貴方の人生の中ではとても小さな存在の筈だ」
僕の口は止まらない。僕自身が止まる気が無いからだろう。
「信じられ無いんだよね。僕だって烈火程じゃないけどさ、それなりに人に裏切られて傷つけられて、最終的に死んだ奴だからさ。
貴方みたいに綺麗事沢山言ってる人って、猫かぶってるんじゃないかって信じ切れないんだよ」
凄く失礼な事を言ってると思う。自分の弟と言っても過言では無い烈火の事、大して関わり無いのに助けるとまで言ってる人に向けて言ってるのだから。
「俺は烈火を見捨てない」
「証拠が欲しいよ。言葉なんて薄っぺらい物じゃなくて証拠が。烈火は…… 」
少し言葉が詰まった。今まで烈火の前では言った事が無い言葉だからだ。僕は軽い自問自答をした。
この言葉は虚言では無いか?
薄っぺらい事を言おうとしてないか?
……答えはスグに出た。この言葉も気持ちも、嘘偽りは無い。
「烈火は僕の弟だ。血の繋がりは無い。でも……烈火は僕の大切な弟なんだよ。
もし僕が生きてたら……この胸の中に命の灯火があるのなら、それを失う事になっても守りたいって思える大切な弟なんだよ。
あの子がまた裏切られるのは……僕は耐えられない」
僕は分かっている。本当は分かっている。
こんな事言う資格無いって事を。僕は間接的に烈火を殺そうとしてるクズなのだから。それでも……。
「悪いが無い。今ここにあるのは気持ちだけだ」
「…………」
顔の表情は変わらない。声の強さも変わらない。彼が分からない。僕には……彼が分からない。
「俺の力は、俺と俺より先に倒れたヤツらの夢に届かない。及ばない。
いつも俺は及ばずながら戦ってる」
彼はポケットに手を入れ、斜め下の地面を向いた。
「正直生きてて恥ずかしい。500年生きてたって、たった1つの夢を叶えられないんだからな」
僕は聞いた。
「夢って? 」
返答は早い。
「平等だよ。ガキが夢を追いかけても大人に笑われない。自分と違うからって誰かに傷つけられることが無い。皆手を取り合って何かに向かって走る事が出来る世の中。
これは俺がもたらす物じゃ無い。俺みたいな戦うしか脳が無い奴は、平等を願ってる奴らの手助けをする事しか出来無い。
俺は全部を助けたい。烈火だって……お前だって。
でも、遅かった。お前らは傷つけられた後だった。いつもそうだ。俺は500年間小物な嘘つきのままだ」
彼は手のひらを眺めた。何かを懐かしむように。
「本当はこんな事……叶わないんじゃなかって思ってしまう。でも諦めきれねぇんだよ。
諦めたくないから諦められない」
拳を強く握る彼からは、虚言を言ってる人の雰囲気と呼べる物は欠片も無かった。……あーそうだ。彼は嘘を言ってない。
僕は知った。彼は僕なんかよりよっぽど信用出来る人だって……。
彼に託せるのか? 大切な弟だぞ? 烈火に代わりはいないぞ? 失ったら本当に終わりだぞ?
幾つもの問が僕の頭を走る。こんなの無駄だ。
僕は知っている。答えはこれだ。
目を真っ直ぐに見た。彼の目を真っ直ぐに見た。僕は泣いている。涙の訳は……もう二度と烈火に会えないからだ。
「……分かった。……貴方に……託すよ」
彼と目が合った。真っ直ぐにこっちを見ている。少し遅れた返答が来た。
「痛み入る」
難しい日本語使わないでよ。
これが僕の最期の夜だ。おやすみなさい……烈火。
僕は君に、おはようは言えない。
※※※
目が覚めた。今の僕……いや今は俺だ。
人化け草が切れた。床中血だらけ、ゴミ箱には血の色に染まったティッシュとガーゼが山積み。グレンの奴……余計な事を。
頭が痛てぇ。義手の動きが悪い。多分1日あいつだったからどっかの部費が錆び付いたのかもしれない。まあいいや。部品を変えればいいだけだ。
代わりは効くんだよ機械は。俺と一緒だ。
【お父さんとお母さんに誇れる様な魔法使いになって、俺より不幸になってしまいそうな人を手の届く限り助ける】
こんなくだらない夢、俺みたいな親無しのガキが持つのが間違いだった。俺は人間達にも魔法使い達にもお呼びじゃ無かったんだ。
あのジジイ達に嫌われたのがいい証拠さ。
あー……今の無し。
階段を降りる。気分が悪くて足を踏み外しそうだ。木目のくそボロな手すりを頼りにして1歩1歩降りて行く。
1階に来れば椅子に座ったグレンがいた。珍しくポテチを食べて無い。そうだそうだ。あんな不味いの食うな。そして、食パンにピーナツバターも塗りたくるな。あれは生き物が食べる物じゃねぇんだよ。
……あれ? 変だ。何か変だ。いつものグレンじゃない。ポケットに手入れて下俯いて、んだよ暗いな。あ、ひょっとして直之……って、わかんねぇわなお前らあいつの事。
【僕】にこの街で起こってる事で、いい話聞けなかったのかな? それしかねぇわな。ったく地道に調べて行くしかねぇってかよ。
取り敢えず適当に話を聞こう。椅子に座って一言話しかけた。
「よおグレン。1日ブリだな」
奴が下げてた目線を上げて、喋りだした。
「先ずは、おはようだろ阿呆。後相変わらず年上を呼び捨てとはいい度胸してんな? 」
「いいだろ別に。後、俺敬語とか知らねぇし」
「…………」
やっぱり暗い。何でだ? 気になる。
「烈火」
「ん?」
いきなり話し掛けられたから、ちと驚いた。何だろう?
「外を見ろ」
「……ん? あ、あぁ」
恐る恐る、手を掛けて窓を開けた。窓の景色は1面田んぼ。変わった宿屋だなここ。目に入る景色はただの草の原。本当に草が生えてるだけ。いつもと違う所と言うと……なんか焼いてる。
雑草でも焼いてんのか? 煙が立つからやめてくれよ。どうせ何処ぞのジジイが周りの迷惑考えずに……。ちょっと待て。今燃やしてる物って。
「おい……」
「…………」
「俺の人化け草はどうした? 」
奴が俺の顔を全く見ずに、顔も声の音色も全く変えず、淡々と答えて来た。
「今燃やしてるのがそうだ」
「何やってんだよ……てめぇふざけんな!」
玄関に向かって走り出した。扉をぶっ叩いて、靴も履かずに外に飛び出した。ちくしょうやはり病み上がりだ。気分が悪くて仕方が無い。走ってる最中に上下感覚が消し飛んで、子供みたいに転がりコケた。
情けねぇ……。急に動いたから鼻血が出てきた。頭の中に鉛が入ったみたいだ。重くて体が持ち上がらない。指先は言う事聞いてくれない。
「ゴホッ……ゴホ……オェェ」
喉が焼ける。腹の中から胃液が上がってくる。嗚咽してそれと一緒に黒い血を吐いた。
俺は這いずる事すら出来なかった。灰に変わる人化け草を見ているだけだった。奴が田んぼのど真ん中でくたばってる俺に歩み寄ってきた。
「……満足かよ」
意識が無くなりそうだ。だが絞りカス程度な元気で、捨て台詞を吐くだけの力は残ってた。
「俺に燃やして欲しいって言ったのは直之だ」
「……は? 」
嘘偽りだ。絶対そうだ。約束したんだ。
約束したもん……。俺と一緒に地獄に着いてきてくれるって。1人にしないって。
「遺言……ってのもおかしいが、預かってる。
『もう僕はお前が呼んでも来ないぞ』って」
何で? 何でだ? 変だよ。おかしいって。
「何で? 」
「お前を迎えに行くのは止めるってよ。後、今三途の川に泳ぎに来ても、船はこいでやらねぇからだってさ」
聞こえて来る話は全部嘘に聞こえた。あー……目が変だ。色が分からない。全てが白黒だ。見えてる世界が味気ない。心も空っぽになりそうだ。
あー……嫌われた。直之に嫌われたんだ。
愛想つかされちまった。しょうが無いのかな。なぁ直之。俺はさ、血は繋がって無かったけどお前の事、お兄ちゃんだって思ってるんだ。
お前がまだ生きてた時、本当はタイミングがあったらお兄ちゃんって呼ぼうと思ってたんだ。気持ち悪いかな……。俺って。
直之……。お前の代わりはいないんだよ。1人になりたくないよ。死にたい。
お前が来ないなら……俺は死にたい。
1人で生きる何てやだ。耐えられないよ。生きるって辛いんだ。いつか又辛い事が来るかも知れない。お父さんとお母さん達が死んだ時が人生の最低点だと思いたいんだ。
痛いのはいい。苦しいのは嫌だ。
2人ぼっちならいい。独りぼっちや嫌だ。
「もう……殺せ」
風に消えそうな声にならない声で、俺は奴に願った。まともな声が出なかった。顔を上げる事すら出来なかったから、奴と目を合わせる事も出来なかった。
何も感じない。何も感じない。何も……。冷たくなっていく自分の体温すら分からなくなってきた。視界が狭まっていく。このまま目の中の光が無くなって、真っ暗になれば死ねる気がする。
それがいい。生きてる限り辛い事が来る。それならもういい。ここで終わるチャンスならここで終わりたい。俺にはもう何も無い。
もう殺してくれ。声に出す力すら無くなった俺はもう1回呟いた。
だが……奴の回答は「嫌なこった」っだった。
なんでだ?
「カメラマン……いや、直之って奴に言われたよ。『烈火を殺したなら末代呪ってやる』ってさ」
「……お前……幽霊……怖が……る、たちかよ 」
「いや幽霊怖いな。年取ってから本当に怖ーよ。お前を殺さねぇ理由の7割位はこれだな」
残り3割はなんだよ。と声に出して聞こうと思ったが、もう声を出せる力が無かった。
「残り3割はつまらねぇ理由だよ。お前が人間に絶望したた死んで欲しくねぇんだ」
「……え? 」
直之の野郎。全部話やがったな。余計な事を……。
「確かに、人間ってのは本当にクソ野郎ばっかだ。平気で嘘つくし、勝手に殺しあってるし。多分あいつらの思考は大昔から全く変わってない。
気に入らなければ殺す。
殺すのがダメなら殴る。
殴るのがダメなら罵倒する。
罵倒するのがダメなら陰湿にいじめる。
この先人間達は、またいじめに変わる人を傷つける方法を考えだすだろうぜ。キットな。
本当にくだらねぇ生き物だと思うよ。正直いつか、神様なり隕石なりブラックホールなりに滅ぼされたって、文句は言えない」
ブラックホールって……。こんな場面でそんなミステリーな事言うキャラかよお前。お前のキャラって絶対クールぶってるだけだろ。
「例え考えろ。地味に笑えるんだよ」
奴の真面目ななのかふざけてるのか分からないその一言を聞くと、何故か苦痛が和らいだ気がした。何故何だろう。俺にもよく分からない。
「すまんな。口が上手い方じゃ無いんだ」
グレンがクスリと笑った。あ……笑った顔。初めて見た。でも、何か気まずそうな感じだったけど。
「知ってる」
変だな。何でこんな言葉が出るんだろ? 俺こいつとは付き合いめちゃくちゃ短いのに。奴は俺に手を伸ばし、俺の体に肩をかして立ち上がった。
「口が上手くない奴が言っても心に響かないかも知れねぇが、死を選ぶのは後ちょっとだけ先送りにしてくれねぇか?
これでもお前が死ぬのは悲しい。人間に絶望したままなら尚更だ」
俺が、死ぬのが悲しい? 安い嘘いいやがって。500年生きてんだろ? もうちょい上手い事言えよ。
「安い嘘言うな」
ありのまま思ってる事を呟いた。流石に体が辛い。多分そろそろ意識が飛ぶ。
「嘘じゃ無いって約束する。3度目の正直って奴さ。後1回だけ、他人の事を信じてみてくれねぇか?
そばにだけはいてやる。1人にはしないって約束する。今日は辛かっただろ。ごめんな。お前が傷付くって分かってた。こんなやり方しか出来なかった俺を許してくれ……。
疲れたよな。今日はもう寝ろ。朝だけどな。明日嫌味を沢山聞いてやる」
寝ろって言われて寝るわけねぇだろ……って頭にこの言葉が浮かんだ時には、目蓋が重くなって、そっと目を閉じていた。嫌味を聞いてやるってバカか。
分かってるよ。全部俺が悪いって事ぐらい。直之を連れて行こうとしたのも俺。俺にお前の嫌味なんて言える資格は無いんだ。
俺の意識がまだ残っていた最後の瞬間。奴の一言が聞こえた。
「いつかお前は沢山の幸せを掴むって、俺は信じてるんだぜ。泣き虫坊や」
泣き虫坊や。あー、昔誰かによく言われた気がする。誰だっただろう? そんな事を思いながら、俺は眠りに着いた。
この後が酷かった。
俺は朝起きると何から話始めればいいか分からず「おはよう」っと言った。
返って来た言葉は、「キモイんだけど」だった。
その後は特に会話もせず、奴の不味い朝飯を食べた。慣れて来たのか、いつもより美味しかった。
そう言えば、飯は1人で食べるより皆で食べた方が美味しいって……いや、何でもない。
前書き後書きでふざけ過ぎるのは良くないと思ってる中島です。なのでTwitterではふざけまくっています。
百合Twitterbotと呼ばれる事もあります(大嘘)




