魔女狩り
ファンタジー色の強い現代異能バトルです。
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時は遥か昔。中世ヨーロッパ。
この世にあるのは有象無象の人間達。
天敵と呼べる者達がいない彼らは、
無駄に数を増やし、無駄な物を造り、
無駄な争いをし、そして、無駄な殺生を繰り返した。
そして今この時も、罪なき2つの命が消えようとしている。
火刑場の十字架に貼り付けられているは、身篭った美しい女性だ。
この時代の流行り……魔女狩りだ。
捕まった魔女の運命は【悲劇】などと言う2文字で表せるほどの軽いものでは無い。目を覆いたくなる拷問の数々、そして魔女隠避と言う名目で捕まった者の家族や友人にも及ぶ理不尽な刑罰。
疑心暗鬼に病んでいたこの時代の人々は、互いに密告しあい、魔女で無い普通の女が魔女狩りにあうのも珍しいことでは無かった。
「奴が最後の1人か……忌々しい」
城の窓から国王が覗いてる。汚物を見る目だ。
そう、彼女がこの時代最後の1人。魔女と呼ばれている者。故に、魔女の血は今日で途絶える。
1人の兵士が魔女に近づいていく。片手には聖炎が灯るランプ。魔女の火破りの刑では、悪しき血を浄化する為、聖火を使うのだ。
「これより! 【クトゥグアと契約した魔女】!
【ヘルマン・ガイア】の火刑を始める!!
異界の魔獣などと言う、悪しき魔物をこの世に呼び寄せ!
偉大なる我が国の土を汚したその罪!
死を持って償え!! 」
その宣告の後、彼は魔女の火刑場に敷き詰められた薪に聖火が灯ったランプを放り投げた。
炎は瞬く間に上り、十字架と共に魔女の肉を焼いていく。
処刑を見に来た市民達がざわめく。
「叫び声すら挙げないのか、薄気味悪い 」
「兵士達の拷問で、叫ぶ力も無いのだろう。奴は妊婦だと言うのに骨と皮だけでやせ細っていただろ? 」
「悪魔の子、諸共肉を焼かれて死ぬか。魔女にお似合いの最期だな 」
魔女の処刑などいつもの事なのだろう。市民達は特に盛り上がりもせず、ただ肉が焼かれていく様を見ているだけだった。
だが……今日はいつもと様子が違った。聖火に燃える火刑場に青白い光が1つ灯った。それは魔女の腹から落ちた物だった。
「なんだ? 」
市民と、兵士と貴族に王族。その全ての目が1箇所に集まった。さらに、聞こえるはずのない声が街に響いた。
「……オギァァ! オギャァ! オギャァァ! 」
そう、産声だ。魔女は自らの身と命を燃やしながら、1つの命を繋いだのだ。街からはどよめきの声が聞こえてくる。
「信じられん! 悪魔の子だ!
魔女の腹を食い破ってこの世にで出来おったぞ!! 」
怒り狂う国王が街中に響く声で叫ぶ
「ええい! 構わん! あの悪しき赤子も諸共、聖なる炎で焼いてしまえ!! 」
そう、赤子が生まれたのは火に包まれた火刑場の中。青い光は結界だろうがいずれは消える。このまま母親諸共、焼かれ死ぬのは時間の問題だ。赤子の命を尊く思う者などここにはいない。
生まれる事を望まれていないのだ。人々から死を望まれている。
ただ1人、その赤子を深く愛する母。ただ1人を覗いて……。
「……クトゥ……グア最期の……仕事よ 」
「応じよう、我が友よ 」
魔女の体はみるみる膨らみ、自らを縛る十字架を破壊した。巨大な足で火刑場を踏み潰し、片手に自らの愛する子を握りしめる。
その姿は黒い二本足で立つ牛の化け物だ。その体は未だ炎に包まれている。だが気高く、逞しい。化け物は咆哮を上げる。
グォォォオオォォオァォォォォォォオ!!!
「オノレェェェ!!! 【獣神の魔法使い】だったか!!
まだ変身する力が残っていたとは!!
なんと醜い姿だ! 最期の最期のまで生き恥晒すか!!
このグズガァァア!!!
この私の国を異界の獣で汚しおって!!
許さん!! 何をしている我が国の兵士達!!
奴を討ち取れ!! 赤子諸共首を取れェェェ!! 」
国王は激怒していた。兵士達に怒号を鳴らす。
化け物は、市民や兵士達を飛び越え、街を駆ける。
城壁を飛び越え、森を超え、兵士を撒いて……。
行き着いた先は荒野だ。赤子を離し、愛する我が子の顔を目に焼き付け、その巨体は崩れ去った。
「クトゥグア……」
「なんだ? 友よ」
元の人の姿に戻った魔女は契約している魔獣と話している。
「私は……死ぬな」
魔女がクスクスと笑う。その体は未だに炎に包まれている。聖火は誰にも消す事が出来ない。
「当然だ」
魔女が内に秘めた魔獣が答える。
「なあクトゥグア。 私が死んだ後……この子と契約してくれないか? 」
「なんだと!? ふざけるな!! 死が迎えに来た時は共に逝こうと約束したではないか!? 我との誓いを破るつもりか!」
「ハハハハ! そう怒るなよクトゥグア! 確かに貴様との約束を破る事にはなるな!
頼む。私にはこの子だけなんだ。この子は1人では生きてはいけん 」
「我と契約すれば寿命と言う概念を失う。人としての道は閉ざされるぞ?
何年、何十年、何百年と生きるのだ。構わんのか? 」
「何を心配することがある? 私とあいつの子だぞ?
強くなるさ。そして誰よりも優しくなる。ひょっとしたらあいつに似て、口が悪い奴になるかもな……。
ほら目を見てみろ? まるで宝石だ。 この子は復讐など考えんさ。
こいつがどんな道を選んでも、応援してやってくれ 」
火に焼かれながらも、ハッキリとした口調だ。クトゥグアにはもうすぐ消えゆく者の姿には見えなかった。
「我が断らないと思っているのか?」
「あたり前だろ? 」
「……最後まで、お前には勝てんな」
「私は強いぞ? 魔獣が勝てるわけないだろ。
さあ、時間だ。お別れの言葉は言わないでおこう。
性にあわん 」
クトゥグアは、ため息を1つこぼした。
彼女は左腕を自らの愛する我が子にかざし、内に秘めた魔女の意思を流す。
「クトゥグア、こいつの名前は任せる。 ちゃんとしたの付けないと3世代まで呪うぞ? 」
「我に世代もクソもあるか」
それ言葉を最後に、魔女の耳にはクトゥグアの声は聞こえなくなった。魔獣の意思は赤子を器にし、それと1つになった。
魔女は最期の時まで目を閉じなかった。光を失った瞳には赤子の姿が写っている。炎は魔女の体の全てを包んだ。
「貴様の名前は、【グレン】だ!
貴様の母の名は【ヘルマン・ガイア】!!
見ろ!! この炎を!! そして忘れるな!!
これは、貴様の為に母が燃やしている命だ!!
母の期待を裏切るな!! 復讐など貴様の母は望んでおらん!!
強くなれ!! グレン!! 誰よりも!! そして優しさを胸に生きろ!!
誰よりも気高い!! この母のように!! 」
赤子の鳴き声は、天に昇る火柱の音にかき消された。
それ以降、赤子の姿を見たものは誰もいない。
※※※※
お前は誰か? 人に名前を聞く時はまず自分から名乗るものだろ?
だから僕は答えないよ。……ってこれじゃつまらないか。
せめて僕のいる場所と時代だけいつておくね? ここは君達と同じ時代。そして日本だ。因みに香川県という場所だよ。
今電車の中さ。ぎりぎり最終列車に乗れてね。
何をしていたか? ちょっと新しいカメラを買っていたのさ。なかなかお目に見合う一眼レフがなくてね。13時間は街中を歩いたね。
僕の職業はカメラマンさ。そこまで夢のある仕事じゃないよ。
因みにフリーカメラマンだ。
更に因みに最近いい絵に巡り会えない。
おっと失礼。同じ意味の言葉が並んでしまった。僕は日本人だけど、日本語が得意じゃないみたいなんだ。
「オギャァァ! オギャァァ! 」
おやおや、こんな夜中に子連れか。自分の上着を赤子に包んであげている。いい母親じゃないか。
「うるせぇな!! そのチビ黙らせろ!! お前母親だろ! 」
やれやれ、これだから人間は好きになれない。ハッキリ言ってお前の方が迷惑だ。赤子の鳴き声は聞いてられるが、いい年したおっさんの怒鳴り声ほど、耳障りなものはないね。
家畜場の豚の鳴き声の方がまだましさ。
「……うるせぇのはお前だろ」
おや? 勇者が1人。 てか未成年じゃん。 警察に見つかると補導されるな。
「なんだガキ!! 大人に噛み付くんじゃねえよ! 」
あーもう、うるさいうるさい。
こいつ……後で殺るか?
「赤ん坊は泣くのが仕事だろ。てめえが自分の事【大人】ってほざくならこれぐらいの事我慢しろよ。
てか、お前臭いな。飲みすぎだろ。
ずっと黙ってたが、
臭いし、うるさいし、ブサイクだし
赤ん坊よりお前の存在の方が迷惑なんだよ」
ブブゥゥヴ!!
あ、やべ今の声出てたかな?
あーダメだ出てたわ。あの親父めっちゃこっち見てるし。
ありゃ、赤面しながら後列車の方が行ったぞ。子供に負けるおっさんなんて初めて見たな。
撮っておけば良かったよ。
あの子……面白いな。
おっと終点だ。とっとと帰って寝るか。
いや……いるな?
6、9、18、30。結構な数だ。
いい絵が撮れるかな? 追いかけてみるか。
狙いはさっきのうるさいおっさんだな。
ん? 何をしてるのか? これから何が起きるかって?
さーなんだろうね〜。
最後まで読んでくれてありがとうございます。