93話 限界?
敵も連帯するようになってくると結構厳しいものがあるだけに今まで楽だと思っていた戦いが厳しくなりつつあるのを実感してしまう。しかもおまけに武装が強化されているのである。
倒した豚鬼一党から万能素子結晶を回収しつつそんな事を思案する。
「やっぱ万能素子結晶の質が良くなっているな」
回収した万能素子結晶を見つめつつ健司がそう漏らす。
あの日から変わったことの一つがこの万能素子結晶の質が向上した事である。
因みに装備は回収しない。このサイズの装備を着こなせる冒険者は稀有で鉄くず扱いでしか売れない。嵩張る上に買い叩かれるので魔法の鞄を持つ僕らですら放置である。
「とうとう攻撃魔法を使わないと厳しくなったねー」
そう言って近寄ってきたのはやや疲弊している和花だった。長時間籠ることもあり術者への負荷を抑えるために攻撃魔法はなるべく使用しない方向で推し進めてきたけど、そろそろ攻撃魔法の使用も検討しなければならなくなった。
問題は負荷をどう軽減するかだ。
金はかかるが一番手っ取り早いのは魔法の水薬をがぶ飲みだ。安寧の水薬とも呼ばれる物があり、それを飲むことで脳への負荷を軽減する効果がある。ただし中毒性がありがぶ飲みは禁止されている。また聖職者の奇跡に【精神力譲渡】というものがある。精神力という目に見えないものを譲渡する奇跡ではなく実際には対象の脳の負荷を聖職者が肩代わりするものだ。
こう言っては悪いがセシリーは戦闘中あまり仕事をしない。出来ることが少ないうえに自主的に自分の出来ることを増やそうという発想そのものがないようで、自発的に動くことは多くない。現在のところ戦闘中は案山子である。
不死者が居ない階層だと彼女の扱いは予備の軽癒の水薬程度の認識になる。
重傷を負うような場合は最後の手段の和花の精霊魔法の【快癒】に頼ることになる。これは致命傷でも癒せるものだが反面、術者への負荷も高く攻撃魔法や支援魔法を用いる和花にあまり使わせたくない方法だ。
セシリーが【重傷治療】の奇跡が使えるようになればさらに下の階層へ行けるのだが、怪物が強くなってしまった現在ではこれ以上は進めない。ゲームと違い信仰心や神の愛とやらは戦闘を繰り返せば勝手に増えるわけでもない。
誰も不満は言わないが…………。
頭を振って嫌な考えを追い出す。
頭目である僕が誰かのせいで等と思ってはダメだ。まだ何か改善案があるはずだ。
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「確かセシリーは投石紐の技量もいまいちなんだよな?」
夕方に地上に戻り夕飯も摂らずに師匠の元へ赴き今後の方策の相談に来た。そこで師匠が現状を確認してきたのである。
「そうですね。ほとんど当たりません」
投石紐は扱いが難しいので結構訓練をしないと命中させられないのである。かといって近接戦も絶望的だ。身体の使い方がまるっきりできていない。それも仕方ないとは思う。半年ほど前までは孤児院内で内職をしていたような状態で運動も碌にしていなかったそうだ。
「んー…………」
流石の師匠でも対策は無理だろうか? 唸るだけで意見が出てこない。考えてみればまだ冒険者となって半年である。多くを求めること自体が間違っているのかもしれない。
僕らは師匠のスパルタである意味無理やり一人前になったけど彼女は違うのである。
ネトゲで遊んでいた時、レベル帯の合わない人と組むと巧くいかない事が多々あったがそれと同じだろうか?
「樹。いっそのこと例の貴族の若様を残り期間一党に加えてみたらどうだ?」
どういう事だろう?
「著しく効率は落ちるだろうが、復習の意味も込めて地下一階から再攻略するんだ。その際にそれぞれが何をすべきかを再確認しながら進んでみたらどうだ?」
その師匠の提案は案外悪くないのではないかと思えた。
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「シュトルム・デア・マルエッセンだ。シュトルムでいい。至らぬところもあるだろうが、ご教示賜りたい」
手回しのいい師匠がその日のうちに用件を伝え、翌朝には迷宮入り口で待っていたのである。
装備は板金軽鎧に凧型盾と広刃の剣を提げている。
初対面時の印象とはかなり異なる。事前に皆には伝えておいたので特に驚きはない。
実は彼を受け入れた理由は、僕らがこの街を去った後でセシリーを預けたいと思ったからだ。
「短い間だけど宜しく」
そう言ってシュトルムと握手を交わす。
そして朝食も兼ねて地下一階の広場の露店でサンドイッチとお茶を買い朝食を済ませつつこれからの方針を説明する。
シュトルムだけが昇降機に乗る資格がないので、一週間籠って地下十階まで階段で下り、みんなで鍵の守護者を倒し昇降機で地下十一階層へ行く資格を得ようという案だ。
僕らも初心にかえり野営などを復習しようという事だ。




