表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/689

87話 想い至る

「それで師匠はこれから————」

「一度戻る。組合(ギルド)から何か発表があるそうだ」

 僕の質問を遮って師匠がそう言った。そしてフェリウスさんに【転移門(ゲート)】の準備を指示する。


 ゾロゾロと【転移門(ゲート)】へと入っていく冒険者(エーベンターリア)たちを見つめながら、僕は組合(ギルド)からの発表とは何であろうかと思案していた。


「そうだ、師匠。健司(けんじ)は問題なさそうですけど、他のみんなは?」

 遅ればせながら皆の状態を師匠に確認してみた。


 まずセシリーは吸血されたものの吸血鬼の下僕(レッサー・バンパイア)になるほど吸われた訳ではないので数日休めば問題ないとの事だった。


 和花(のどか)もとくには問題ないとの事だ。瑞穂(みずほ)の救援が間に合ったおかげだ。


 そして肝心の瑞穂(みずほ)だが…………。


一週間(一〇日)は安静ですか?」

「そうだ。効果を維持するのに集中が必要な【擬態(カメレオン)】を用いつつ、鋼刃糸(フェラム・スレッド)を使いこなすのは常人なら発狂レベルの苦痛だったろう。よく頑張ったと褒めてやることだな」


 師匠の話だと鋼刃糸(フェラム・スレッド)を扱うには高い魔導機器(マギテック)の親和性が必須であり、瑞穂(みずほ)は適性が高かった。普通はのこ髪の毛の一割ほどの太さの一本の鋼刃糸(フェラム・スレッド)を鞭のように操るのだが、瑞穂(みずほ)はそれを十本同時に操る。それには高い空間認識能力も必須で…………。

 脳に多大な負荷のかかる行為を並行運用した結果なのだ。

「あの娘は(いつき)和花(のどか)に忠誠心じみたものを強く抱いている。その為に自分がどうなろうと構わないくらいには強い忠誠心が…………」

 師匠に言われてふっと思ったのだが、頑なに元の世界に帰ることを拒んだのもそのあたりなのだろうか? だが忠誠心を刺激するほどの事を僕らが何かしただろうか?

 気絶している瑞穂(みずほ)を眺めつつ目が覚めたら何か報いてやらねばと思うのだった。


「ところでだ。お前また開放(リリース)を使いやがったな」

 そう言って師匠が僕の頭に手を置きワシャワシャと頭髪をかき回す。

「そうは言っても————」

「分かっている。死を超越せし者(ノーライフ・キング)相手に出し惜しみできる状態ではないだろうからな。そんなわけでお前も一週間(一〇日)安静を命じる。ただし身体の鍛錬は続けるように。いいな」


「それじゃ帰るぞ」と師匠は僕の背中を叩いてから去っていく。




 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



 冒険者(エーベンターリア)組合(ギルド)前の広場(ホール)は混雑していた。組合(ギルド)からの発表を聞くために集まった冒険者(エーベンターリア)たちでひしめき合っていた。

 むろんここに集まれない冒険者(エーベンターリア)も多い。この街だけで五万人は冒険者が居るのだ。


「なんだと思う?」

 僕は隣にいる健司(けんじ)にそう問いかけた。

「俺ごときにはさっぱりだな。ただヴァルザスさんの話を聞く限りだと…………規約(ルール)の改定なのは間違いないだろうな」

 健司(けんじ)の回答に僕も頷く。広場に入りきらない関係で女性陣には板状型集合住宅(マンション)で休んでもらっている。


 組合(ギルド)の職員が拡声器(ライズ・アチェル)を用いて規約(ルール)の変更を話し始めた。多くの冒険者(エーベンターリア)たちから悲鳴や落胆の声が聞こえる。


 万能素子結晶(マナ・クリスタル)の産出量が少なすぎるので毎週の提出量が一定量以下しか納められない無能冒険者(エーベンターリア)は毎週の滞在税が二倍になり、それは次の週にも適用される。つまり二週連続で提出量が一定数に満たないと4倍に膨れ上がるという事だ。

 更に低層の小指の爪ほどの万能素子(マナ)の買取金額を銀貨一枚に下げると言ってきた。

 優秀な提出量の冒険者(エーベンターリア)は、その週の滞在税の免除という特典があるとも発表された。


 いままで見逃されていた迷宮(アトラクション)広場(ホール)に長期滞在して滞在税を逃れていた連中も貯蓄から滞納分を強制徴収されるとの事だ。足りなければ借金奴隷である。


 これで低層でその日暮らししていた連中は必死に稼ぐか、ここを逃げ出すしかなくなる。だがここを出たところで彼らの運命は碌なもんじゃない。なぜならここにいる多くの冒険者(エーベンターリア)は小遣い稼ぎのための技術しかないのである。一党(パーティ)も6人全員が戦士(ウォーリア)なんてところも多い。他の町の冒険者(エーベンターリア)に求められる能力が足りないから仕事も熟せず野盗堕ちか故郷にでも戻って畑でも耕すしかないだろう。


 冒険者(エーベンターリア)の多くは過度な人口を間引くための使い捨て日雇い労働者のポジションに過ぎないのだ。そこから如何に努力を重ねて伸上るか…………。


 それを行わなかった彼らの自己責任という事だろう。

 毎日享楽的に生きていた多くの冒険者(エーベンターリア)たちは他の迷宮都市まで行けるほどの資金もないだろうし、覚悟を決めて長時間潜るか下層を目指すか、腐って人狩り(トゥル・キャザー)に捕まって奴隷(スクラブ)に堕ちるか、犯罪に走って犯罪奴隷(クリミネ・スクラブ)になるか…………。


「つくづく師匠についていって正解だったな…………」

「…………だな」

 辛いこともあった。だが結局のところは自分を救えるのは自分だ。周りに変われ、救えを願うくらいなら自分から変わったほうが早い。もちろん変われない者もいるだろう。どうあっても自分に甘い者は居なくならない。


 だがそこまで考えて思ったのだ、僕らもそろそろ師匠の手を離れるべきなのでは…………と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ