86話 彼のもの正体は
2019-06-11 設定忘れてて嘘書いちゃったので修正
「発動。【熱核融合雷球】」
僕はその光景を絶望的な気持ちで眺めていた。第一〇階梯までと言われた魔術のさらに上を行く魔術を目の当たりにし不運にもタイミング悪くここに降りてきてしまった冒険者たちの末路を…………。
「発動。【緊急消去】」
広場に凛と響いたその少女の声と共に青白い球体は霧散した。
唖然とするそいつを尻目に少女の次なる声が続く。
「不浄なる者たちを払う聖なる光を!【聖光】」
その瞬間僕ら全員の視界はブラックアウトした。
徐々に視界が戻ってきて周囲が見えてくると————。
ゴツンという音の後に「いたーい」という悲鳴と「味方を巻き込む馬鹿が居るか」と叱る声が聞こえた。どちらも聞きなれた声だ。
「貴女はまず魔法の使い方をきちんと学ぶ必要がありますね」
その中性的な声にも聞き覚えがある。
「結果良ければ全てよしって事でいいじゃろう」
しわがれた声は最近よく聞く声だ。
「でも肝心の親玉が逃げちまった。ま、吸血鬼共は光の中に消え去り冒険者たちは救われたから良しとするか」
そう言ってその偉丈夫が締めくくる。
「師匠…………」
師匠一党だった。
師匠、相棒のフェリウスさん、武具でお世話になってる上位地霊族のバルドさんにマ…………メフィリアさんだ。よく見れば会話に参加していないが幼人族のパフィさんもいる。
「なんでこのタイミングで…………」
タイミングが良すぎて狙ってたのかと疑いたくなるレベルだ。まさかとは思うけどマッチポンプじゃ?
「冒険者組合からの緊急依頼で来たんだよ」
「何があったんです?」
師匠たちが一党組んで潜るレベルの依頼って言うのが不安を煽る。
「メフィリア、皆の治療を頼む」
「うん」
師匠の指示に答えてメフィリアさんが倒れ伏す冒険者たちを見に行く。パフィさんはその護衛なのだろう。一緒に向かう。
師匠らは僕らに近づきつつフェリウスさんに何やら指示を出し、バルドさんは立ち止まって周囲に視線を走らせる。
「お前らには内緒にしていたが、この迷宮は地脈から万能素子を吸い上げて濾過し万能素子結晶という形で世界に供給しているんだ。これは迷宮主が望み提案してきたことだ。そして組合は渡りに船と引き受けた。代償は多くの冒険者を投入する事だった。迷宮主は極限環境の人間たちの足掻きにドラマ性を見出し観察することに楽しみを見出したらしい」
師匠の話は長く要約すると、ここにいる冒険者の数は多いけど楽に稼げるんで怠惰となり迷宮主が不服なのと地脈から得た万能素子で様々な怪物を作り続けているが倒す数が少なすぎて迷宮下層がパンクしそうなんだそうだ。このままだと強力な怪物たちが地上へと押し寄せるそうだ。迷宮主もそれは望んでおらずかといって制御できるレベルを超えてしまっているため間引くことを依頼してきたのだそうだ。
「ここの組合と迷宮主って繋がってたんですか?」
当然そう思うだろう。僕はそう思って質問をぶつけた。
「一方通行だけどな。組合側から迷宮主への連絡手段はない」
そしてこの一〇層で襲われた理由と師匠たちが来た理由だが…………。
本来は地下二〇階層を拠点にしている攻略組と呼ばれる銀等級の冒険者たちが居るのだが、大氾濫に巻き込まれ壊滅したのだそうだ。少なくとも凄腕の一党が一〇組いたはずだが生還できたのは二組だけだったそうだ。
遺体または生存者の回収を師匠たちが請け負って降りてきたのだそうだ。
「あれ? なんで二〇層じゃなくて一〇層に降りたんですか?」
「そりゃー…………俺らは以前飽きちゃってここまでしか攻略してねーもん」
あ…………。
そうだ。聞きたいことがあるんだよ。あいつの正体だ。どう見ても単なる吸血鬼には思えない。
「師匠。さっきの吸血鬼って…………」
そう質問すると師匠は苦笑いを浮かべる。
「気が付かなかったのか…………。あいつが迷宮主だよ」
「「「「!」」」」
後ろで息を呑むのが分かった。
ある意味ラスボスの襲撃イベントじゃん。これよくある負けイベントだわ。
「アイツの正体は吸血鬼に間違いないがその上位の存在だ」
僕が不貞腐れてゲーム脳全開の愚痴を思い描いていたら師匠の話は続いていた。
「上位って吸血鬼の盟主なんすか?」
フェリウスさんによって拘束されている魔術を解かれ起き上がってきた健司が話に混ざってきた。
しかし師匠から帰ってきた答えは想定を上回った。
「あいつは魔法帝国時代のこの王都の主だよ。よーするに魔法王だ。そして吸血鬼の盟主なんて物理的に打倒できるほどのちゃちな存在じゃない」
迷宮主は一代限りで交代は出来ない。そしてこの迷宮はまだ攻略されていない。知性の欠片もないような怪物しかいない場所に高い知性を持つ存在…………。気づきそうなもんだが…………。
「死を超越せし者が奴の正体だ」
師匠のその言葉に目の前が真っ暗になりそうだった。人類が勝てるような存在じゃない…………。
吸血鬼を貴族と称する所以は、彼らの出自が古代魔法帝国の貴族だからである。死霊術の奥義である【不死なる王転生】の魔術によって自らを不死の存在へと変えたのだそうだ。ただしこの魔術は失敗すれば魂は砕け散り輪廻の彼方にも行けず、中途半端な成功だと吸血鬼の盟主となってしまうそうだ。その為かこの世界には両手の指で足りるほどしか存在しないそうだ。
そして彼ら死を超越せし者が討伐されない理由が、人類では太刀打ちできそうもない強さと邪悪だが意外と無害なせいだという。
非常に利己主義者であるが、別に悪霊などではないので生者を無意味に恨むわけでもなく、自分の趣味に没頭するための時間欲しさが動機なので彼らの目的と被らなければ無害どころか友好的な場合すらあるという。
そしてここの迷宮主は先ほど師匠が語った通りに俗世の人間が足掻く姿を眺めることにある。
2019-07-20 85話の呪文が間違っていたので訂正




