84話 実験と新たな提案
真語魔術に限らずだけど、効果のほどは検証してみないと結構わからないものが多い。
昨夜の話し合いで決まった第二階梯の【軟着陸】という魔術性能実験を行うことになった。落下後にゆっくりと安全に着地できるのかと思いきや…………。
「いってぇぇぇぇぇ」
高さ3.75サートから飛び降りた健司はあまりの痛みに地面を転げまわる事となった。
この魔術は術式によって落下速度をある程度減速させる効果があるものの高度制限があるようだ。それでも何もしないで3.75サートの高さから落ちた場合を考えるとないよりはマシと言える。 その後高さを2.5サートに変えて何度かロープレスバンジーを堪能した結果分かった事は、強制的に足から落ちるように勝手に体の向きを変更させられた。
この強制的に体の向きを変えさせられるのに抵抗をすると魔術が解除される事も判った。
その後、いくつか気になっていた魔術を検証してみたが、どーもしっくりするのがなかった。
「落下対策に関しては 第四階梯の【落下制御】を使いこなせるようになるまでお預けでもいいんじゃないかな? 今のところ悪質な罠もないし」
略式魔術の検証は結局のところ未熟な自分たちにはまだ早いって事で解散となった。
通常、無詠唱、略式、刻印と四種類を使い分け出来れば良いのだけど覚える術式などが多すぎて使いこなせていない感がある。
賢者の学院で生徒に配布されている呪文書に書き記されている各階梯の魔術呪文の数は20前後なのだそうだが、僕らが貰った師匠特製の呪文書には各階梯に30前後の魔術があり僕と和花がよーやく第四階梯の魔術に手を出し始めた感じだ。
同じ階梯でも難易度があるというべきなのだろうか、覚えやすい魔術と覚えにくい魔術がある。
呪文書を開いて魔術を行使する奴は三流と言われている。
とにかく第四階梯あたりから実戦向きな魔術が増えてくるんでこれからが大変だ。
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「飽きたぞー!!」
再び迷宮に潜り始めて幾日かが過ぎた。
僕らもとうとう第十階層へと到達したのだが…………。
「確かに飽きてきたね」
怪物として登場した豚鬼の集団を打倒し、淡々と万能素子結晶を回収する瑞穂を尻目に健司の叫びに同意する。
師匠も確か十階層で飽きてやめたって言ってたなー。
「来る日も来る日も迷宮に潜りっぱだしね。でも結構お金貯まったじゃない」
瑞穂が回収した万能素子結晶を数えてほくそ笑んでいた和花が話に加わってきた。
「お前らはあまり使ってないんだし結構貯まってるんだろう?」
「そうだね。60万ガルドは超えたよ。皇は無駄使いばっかで貯まってないんじゃないの?
「俺だって貯めてるぞ」
「でも、おっぱいの大きいお姉さんのお店で結構遊んでたんでしょ?」
そう言って和花がクスクスと笑う。
「なんでバレてんの?」
そう言って健司が僕を睨む。
いやいや僕は何も言ってないぞ。
「気づいてないの? ちょくちょく高そうな女物の香水の匂いぷんぷん漂わせてるじゃん?」
確かにたまにらしくない匂いがするなとは思ったけど和花の指摘通りなら結構妓館通ってたことになるのか。
「って事は貯蓄は僕らの半分以下なのか?」
思わず疑問を口にした。
「いや、貯蓄は10万だな」
「「えっ」」
予想をはるかに上回る散財ぶりだ。
「勘違いするな。おっぱいの大きいお姉ちゃんと楽しんだのは事実だが、高い買い物をしたんだよ」
慌てて健司が否定に走るが、さらなる追及を生んだだけだった。
「貢いだの?」
公娼に貢ぐ男も結構いるとの事だから健司もかと思ったのだが————。
「まだ内緒にしておくつもりだったんだがな…………」
そう呟く健司だったが意を決したのか、
「ヴァルザスさんに居住区付中型の魔導騎士輸送機を売ってもらったんだよ」
「「はっ?」」
中型という事は全長10サート級だ。
居住区機能はかなり大きいと聞いてるけど…………。
「滞在税勿体ないし一緒に暮らさね?」
健司の提案は魅力的だが、それならみんなでお金を出し合うべきじゃなかったんだろうか?
「滞在税の費用よりソレ買った方が高いでしょうに…………」
そう和花は呆れるのであった。




