8話 早速勉強会
完全に説明回過ぎて目も当てられないわ…………。
2018-10-13 誤字脱字の修正。
2018-10-22 誤字の修正。
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2023-09-08 文面を一部修正
「さて、これからこの世界で生活するにあたっての注意事項だが、まずは日本帝国での常識や倫理観を捨てろ…………とは言わんが一度忘れる事だ。力のないものが自分の意見を声高に主張しても通らないし異分子は排除される。どうしても譲れないなら膨大な時間と労力を使う。そういいった行為は生活に余裕が出てきたらやるといい」
そう言って言った言葉を切り僕らを見回す。言いたいことは判るので頷く。
「ここで言う力とは腕っぷしだけの話ではなく、財力、権力、縁故なども含む。ここでの生活が当たり前の彼らに外野が自分の思想が正しいと言って無理に押し付けてきてもまず浸透しない」
そう言ってヴァルザスさんはある異なる世界から来た自称会社員の身に降りかかった話をする。彼は「労働基準法は~」とか「基本的人権は~」などを彼方此方で言って回ったはいいけど、浸透するどころか胡散臭い奴と思われ排斥されたんだとか。
「要するに郷に入れば郷に従えって事ですね」
僕らの住んでいた日本帝国でも公的の場で自己主張すると排斥される。思想の自由と発言の自由は報道の自由は決し同質ではない。とりあえず余程のことがない限りは相手に合わせる方向かな?
そして僕らは三ヶ月の猶予をもらった。それまでに公用交易語の会話と最低限の読み書きが出来るようになる事、生活基準は底辺冒険者並みで過ごす事の二点だ。耐えられない場合は三ヶ月後に【次元門】が開けるそうなので、それで叩き返されるらしい。
装備や当面の生活費となる支度金はヴァルザスさんからお金を借りることとなる。予算内であれば武具を選ぶ相談には乗ってくれるとの事だ。
基本的に僕らは自らの意志で残ると決めているのでお客さん待遇では無い事を意識しておこう。
ざっくりと説明が終わったところでこちらの世界についての講義が始まる。
一年は三六〇日と古王朝時代から定められていて現在もそれに従っている。ほぼ三六〇日らしく閏年は設けていないらしい。過去からの研究により閏年を設けるとしても二百年に一度くらいの誤差になるそうだ。暦や時間の感覚が雑なこの世界ではないも同然である。
一年は一二ヶ月あり地域によって誤差はあるが春期、夏期、秋期、冬期と四つに分けられる。春の前月、春の中月、春の後月、夏の前月となって最後が冬の後月で一年が終わる。
一か月は三週間で三〇日となる。内訳が前週、中週、後週となる。
一週間の内訳は、光の日、火の日、水の日、氷の日、雷の日、土の日、風の日、生命の日、精神の日、闇の日と十日で一週間となる。
闇の日は僕らの世界の日曜日に相当し役場や商店なども閉じているが、自主的に開けているところも多い。
次は惑星の話に移った。
惑星の大きさはほぼ地球と同じだが空気が若干薄いようだ。地球で言う処の高度千五百メートルくらいが平地の空気らしい。地球で言う処の高高度って事かな? 平地に居る限りではそこまで違和感は感じなかった。
空気の屈折率なんかは大体同じらしい。平地なら一七二センチの僕の身長だと地平線は五キロ前後になるらしい。
いつのころからか東、西、南、北は当たり前のように使われているとの事だ。惑星の地軸は若干ずれがあるのも地球に似ている。
陸と海の比率は三五対六五で僕らの住む地球より陸の面積が多い。
大陸は四つ存在し、いま僕らがいる大陸をアルム大陸と呼び、大きさは約二一三一万平方サーグほどある。
「すみません。数値だけ聞いても大きさがわかりません」
思わず突っ込んでしまった。
ヴァルザスさんは少し思案した後にこう答えた。
「形は結構違うけどユーラシア大陸とアフリカ大陸を足した面積よりちょい大きいな」
自分の頭の中にある世界地図を思い出しその大きさに絶句したが旅のし甲斐がりそうだと思った。
季節に関しては過去に魔術師たちが魔改造してくれたおかげで地球での常識は適用されないらしい。砂漠の隣に極寒の地があったりするそうだ。
地球との違いは衛星もそうだ。
白く光るアルテナと赤く光るルードという衛星が周回していて一部の真語魔術に影響を与えるそうだ。
次は現在いる大陸について大雑把に解説が始まった。
アルム大陸の西方地域は魔境と呼ばれているらしく、未盗掘の古代遺跡も多く残されており冒険者達が一獲千金を求めて次々と旅立っては消息不明となるらしい。中原と西方の境目あたりに日本皇国と呼ばれる国があるそうだ。
五〇〇年ほど前に皇族を含む二千人近い集団が突如転移してきたらしい。ただしヴァルザスさんの次の話で期待は裏切られた。
「期待しているところ悪いが、お前さんたちの世界の住人じゃない。明治維新の辺りで枝分かれした並行世界から来た存在だ。ただし日本帝国語は一応は通じる」
文化と言葉が通じそうな場所があるのは良いことだ。いずれ行ってみたい。
北部域は光の帝国とも呼び称される神聖プロレタリア帝国という神話戦争の終盤で死んだと言われる光の神を主神とする宗教国家が支配していて、信者以外は邪神に魂を売ったモノたちの末裔でありより惨たらしく殺してやることで徳が積めると信徒に諭すと言うキチっぷりだそうだ。中原と北部域は白竜山脈と大亀裂と妖魔の大樹海によって交流はほぼない。今回の集団転移というか誘拐の犯人はこの国だろうとの事である。
大陸東部は小国が乱立していて群雄割拠状態であり、傭兵業として食っていく分には仕事には困らないし運が向けば隙をついて建国とかもできるかもしれないらしい。現在僕らがいるのもこの東部域だ。
大陸南部域は亜人族や獣人族の他に砂漠の民ら生息する集落がある。荒廃しており国としてまとまっている個所は少ない。奴隷制度自体はどこにでもあるが特にひどいのがこの地域だ。
「亜人族?」
和花が聞き返している。地霊族とか森霊族の事だろうか?
だが違った。
「地霊族や森霊族などは妖精族と呼ぶ。亜人族は古代王国時代に奴隷に動物の因子を埋め込んで魔改造した人種だ。本来は生殖能力はない一代きり種族とも呼べない存在だったが、改造の失敗により生殖能力が消えない上に多産傾向で個体数を増やし反旗を翻して古代王国を滅ぼした末裔である。
ただ現在の亜人族は劣化しており特徴も耳や尻尾以外は人族と大差ない。現在は獣耳族と呼んでいるが多くの物が亜人族と呼ぶはずであるとの事だ。
しかし基礎体力が高い反面、耳の位置が頭頂部にある事で脳の容積が少なくなりかなり…………いや残念くらい頭が悪いそうだ。
そして最後が大陸の中原地方だが、十字路都市とも言われる物流の集まる人口百万を超える超巨大都市が存在する。その周辺だけは文明レベルが格段に高く、そこでの生活に慣れると他所での暮らしが不便に感じるとまで言われている。
そんでもってヴァルザスさんたちはその十字路都市に拠点を持ち市民権も持つ凄腕の冒険者なんだそうだ。
次の話はこっちの世界の住人の教養レベルの話だ。
人口五万人以上の中規模都市なら識字率はほぼ十割で自転と公転は普通に理解しているそうだ。また四則演算あたりまでは10歳までに終了する初等教育で習得が当たり前となっている。
その後は成人までの猶予期間とし将来就くための仕事場に丁稚や徒弟として行くか賢ければ中等教育や高等教育を受けに賢者の学院の門をくぐる事もある。大半はこの段階で将来が決まる。
時間の考え方に関しては六〇年ほど前に異世界から時計職人が迷い込んできてから時間厳守という考え方が富裕層などに浸透し始めた。一日を二四時間と定めたそうだ。都市などには大時計が設置され富裕層などは懐中時計を持つのが流行となっているそうだが、都市部を離れてしまうとまだまだ時間の感覚は曖昧で、朝、昼、夜くらしか使わない場所も多いそうだ。基本的に一時間程度の遅刻は誤差扱いである。
貨幣に関しては単位はガルドと称し、銅貨、小銀貨、大銀貨、琥珀金貨、金貨、大金貨、白金貨とある。真銀がないのは元々の産出量が少なく貨幣には向かないのと加工できる技術が散逸していて現在では地霊族の独占状態となっている為でもある。ちなみに基本的に商品は小銀貨一枚からの販売なので銅貨は滅多に使われない。
造幣は商人組合の造幣局のみで行われており記念硬貨などは依頼すれば制作してもらえるそうだ。
貨幣の発行量にも限度がある為か一定金額以上の通り引きの場合は物々交換か口座取引になる事もあるそうだ。例えば僕らが今乗っているこの大型魔導艦も現金と貴重品と物資と労働力との交換だったそうだ。
店舗や露天商などはあまり釣銭を用意していないので銅貨一枚の商品を金貨で購入とかしようとしても追い出されるだけだそうだ。常に小銭は持ち歩くようにと説明された。
冒険者組合に所属すれば商人組合運営の銀行を利用できるとのこと。ただし利息はつかないうえに預かり手数料が毎月発生する。極端に大きな金額でなければ何処の商人組合でも預貯金可能だそうだ。
ちなみに冒険者組合などの認識票は口座と紐づいているがデビットカードみたいにどこでもカード払いみたいなことは出来ないの注意するようにともいわれた。
その後もヴァルザスさんの講義は続き気が付けば夕飯時になっていた。
夕飯後は冒険者の実態についての講義だ。
仕事も底辺層だと、下水掃除、運搬業務、巡回警護、定置警備、雑用が殆どで[なんでも]屋という表現を用いたのも頷ける。
ただ冒険者組合に所属することで住所不定無職どもに組合が後見人となる事で都市に入る際の入都税が免除になる事という恩恵があるのだが、国境を超える際に入国税は免除されないらしい、市民権がないので都市に永住が出来ず、一か月以上の長期滞在する場合は滞在税を納める義務がある。
「薬草採取とか魔物退治とか迷宮踏破とかないんすか?」
健司がそんなことをヴァルザスさんに質問した。実に定番な質問だ。
それに対してヴァルザスさんの回答はこうだった。
まず冒険者に依頼すれば薬草の価格は人件費によって高くなる。しかも専門知識も必要なために素人に金を積んで頼むことはほぼない。更に人に害成す生物自体の絶対数が少ない。これは縄張り争いで淘汰されるためだ。またそういった生物は人口の密集地には寄り付かない。妖魔とか魔獣あたりは運が悪いと開拓村などに出現する事もあるが魔獣は絶対数が少なくほぼ人里には出てこない。それに定期的に町道や農村などに巡回警備の依頼が出ていてるから、開拓村の奥へでも行かない限りは滅多に遭遇しないとの事だ。
ただ魔境と呼ばれる西方地域は人の住めるエリアがまだ狭く討伐系の依頼は豊富であるとの事だ。
迷宮に関しては古代帝国時代に迷宮宝珠によって作られたアトラクションで稼動しているモノが幾つかあるそうだ。
「アトラクション?」
僕のその疑問にヴァルザスさんはこう回答した。
「創成魔術によって魔術的に作り出された紛い物の魔物ばかりで、本物に比べると遙かに弱い。赤肌鬼が雑魚とか言われているが、迷宮宝珠によって作られた赤肌鬼は知能らしいものもないし経験もないから、単に武器を振るってくるだけだ。連帯も罠も仕掛けてこない。しかし本物は————」
そうだ。最初にこの世界で戦った赤肌鬼は一見すると雑魚っぽいけど、連帯もするし、視点が違うのかこちらの予期していない攻撃なども行う。
そうこう思案している間にヴァルザスさんの説明は終わってて、次の話になっている。
迷宮と呼ぶには違和感があるが冒険者の共通認識として古代帝国時代の都市や貴族の秘密邸宅や研究所なども遺跡と言われているそうだ。こっちは未盗掘の遺跡を攻略すれば一獲千金とも言われている。
ただ盗掘済みの遺跡も多く、遺跡荒しの連中は大半はまだ未盗掘の遺跡が眠る西方へと出向くらしい。
もっとも掃除屋と呼ばれる盗掘済みの遺跡から更なる収穫を得るような凄腕もいるらしいけど……。
「後は実地を兼ねながら追々と説明する」
ヴァルザスさんはそう言って締めくくった。
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