80話 表彰とこれからの行方
一週間後、表彰という名目で広場にてさらし者にされている。
歓声の中で手を振って応えてはいるものの道化だなーという感想が僕らの中で渦巻いていた。
制度が変わって初の昇格者である事、そして階梯毎の変更した特典などが発表され、一部冒険者たち…………主に若い層が歓声を上げている。
昨年までの制度だとこの町で冒険者が昇格することはあり得なかったのだ。
だが努力すれば報われると分かり彼らの目はギラギラとしている。
逆に中年連中は、今更そんなこと言われてもといった感じで多くの者は覇気がない。
迷宮攻略についても新しい規約が設けられた。到達階層が5で割った階層毎に報奨金が出る事となった。既に地下五階に到達している冒険者たちにも報奨金が渡された。一人頭金貨20枚との事だ。地下十階だとその倍だという。
「だけど報奨金が一人頭2万ガルドとは気風がいいな。そう考えるとあいつも馬鹿だな……」
報奨金を受け取りつつ健司が遠い目をしてそう漏らす。
ここでいうあいつとはもちろん隼人の事だ。
だが過ぎた事を気にしても仕方ない。彼の生死はまだ賞金首の張り紙があるのでうまく逃げ回っているのだろうと思うので僕らに出来ることは彼の無事を祈るだけだ。
さて、僕らはこれから新しく募集した面子の面接が待っているのだ。
やれやれ…………面倒臭そうだ。
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そして瞬く間に一か月が過ぎ、気が付けば冬の中月となった。この迷宮都市ザルツは古代王国時代に王都だった頃の設備が数多く生きており魔法によって気候が制御されているので冬でも肌寒い程度なのがありがたい。
募集枠一人に対して結構集まったので、まず最初にソロ活動で4年潜っているという19歳の重戦士を採用してみたのだが…………。
ここの迷宮に潜るソロの冒険者のほとんどが数時間潜り、怪物を倒して入手した万能素子結晶を換金して金が尽きるまで豪遊するか、短時間で一日必要な生活費だけを稼ぐというスタイルなのだ。
僕らの様にほぼ毎日朝から夕方まで10時間は潜る冒険者珍しい存在らしい。採用枠を狙う冒険者は楽をして大金と名誉をゲット考える寄生根性駄々洩れの奴らばっかりだったのだ。
冒険者学校などがなく冒険者は使い捨て呼ばわりされるだけあって、ほとんどの冒険者は貧乏ながら最低限の装備を整えた軽装の戦士の状態で登録し、運よく生き残り資金に余裕が出来ると重装備になり重戦士として大型の武器をブンブン振り回す。体力配分や戦闘技術などないに等しく体格が大きいと何となく強いという印象だけが独り歩きしている状態だ。
最初の戦士は3日目の朝には来なかった。仕方なく次の候補を一党に入れたが、その戦士に至っては翌日には来なかった。
失望しつつ自称斥候を次に採用したが、蓋を開けたら単に貧乏で装備を整える余裕がないだけの素人だった。
半ば諦めつつも二週間で10人ほど組んでみたけど、師匠の下で体力と気合が一番重要とスパルタ教育された僕らと比較すれば、そりゃ僕らの稼ぎが異常に多いなと改めて実感した。
この町に住む多くの堕落した冒険者たちは一日に20ガルド=銀貨20枚稼げれば、地下一階広場の木賃宿に宿泊し、残ったお金でほどほど遊べるのである。
結局のところ募集を打ち切り五人で迷宮攻略を続けている。
そして僕らは地下九階で鍵の守護者か地下十階の階段を探して彷徨っている。この階層での一日の稼ぎは多い時で金貨三枚前後になる。僕らの一党はお金の分け方を人数+1で割っている。+1の分は一党の共用資産だ。ここから魔法の水薬や装備の修理費用や雑費などを捻出する。
多くの冒険者から見れば一日同伴するだけで二週間は遊んで暮らせる金が手に入るのである。
結局のところ顔が売れている僕らは体のよい寄生先なのであった。師匠が人前で実力を発揮したり権威をひけらかしたりするのを極端に嫌う理由がわかった気がする。
現在いる地下九階は魔法生物と呼ばれる怪物たちが彷徨っている階層だ。各種魔像や雨樋の魔像が徘徊しており精神衛生的に楽な階層だ。
創成魔術によって作り出された生物とはいえ攻撃すれば血飛沫が上がり臓物が飛び散り、体液で身体が汚れるが、各種魔像ならそれがない。
話は戻るが僕らが恵まれているのは間違いないだろう。
装備なども師匠や師匠の仲間の名工バルドさんが用意してくれるから購入費用が掛かっていない。僕ら五人の装備を購入したと仮定すると百万ガルドはくだらないだろう。師匠の話では最前線の攻略組より装備面は上じゃないかと言われた。
上質の装備に変わった恩恵は大きく、消耗品を大量に用意できるようになったり、僕個人の話だと戦闘が楽になった。
硬革鎧時代は回避一辺倒だったのが、バルドさんが作ってくれた神覇鉱製の板金半鎧に代えた事で、鎧の曲面を滑らせて打撃を逸らす技術である逸らしが使えるようになったり、師匠から貰った真銀製の片手半剣は非常に軽くて丈夫で今までは武器の破損を恐れて使わなかった受止めや受流しが出来るようになった。
戦闘に余裕が出来た事で師匠の模倣をして近接戦闘中に魔術を行使したりといろいろと試行錯誤している。また人以外との間合いの取り方などの戦い方も掴めてきて武技を的確に使いこなせつつあり殲滅力は以前に比べて格段に上がった。
遭遇した簡易魔像の骸骨魔像の一団を倒し、万能素子結晶を回収を終え一息ついたところで斥候を担当する瑞穂が手信号でこの先の情報を伝えてきた。
「みんな、この先で戦闘が行われてるんで注意して」
迷宮内で活動する冒険者のマナーとして戦闘中は近づかない、または遠巻きに見学が規約である。全部ではないが冒険者の動きは監視されているので無視するメリットはあまりない。
曲がりくねった通路の為、先の状況が分からないが瑞穂は感覚が優れているのか僅かな音や振動から大まかに判断できるそうだが、どういう頭の構造をしているんだろう?
だが、瑞穂の反応が良くない。その事を訝しんでいると————。
「こっちに近づいてきてる…………大きい…………」
そう呟いている。
この階層で大きい敵で通路を移動している怪物となると————。
「やべーな。区画主かよ」
そう口にする健司だが、その表情は獰猛な肉食獣のソレだ。
2019-05-24 検査入院後から作業するものの調子が出ずにずるずる…………。




