78話 連行される。
「ケンジ・スメラギとイツキ・タカヤは居るか」
食事処にそう大声が響き渡った。
「僕らですが何か用でしょうか?」
憲兵隊に知り合いは居ないし特に用事はないはずなんだけど…………。いったい何があった?
相手の口調からして好意的な印象は受けない。
食事処の入り口付近に視線をやると憲兵隊員の数は10人以上は居る。そのうちの一人、たぶん部隊長だと思しき男が僕らのテーブルの前まで移動してくると周りから見えないようにそっとメモ用紙をテーブルに置き、
「貴殿らには、少女誘拐幇助、逃亡幇助の嫌疑がかかっている。詰め所まで来ていただこう」
その物言いは非常に高圧的であった。
ふと憲兵隊が最初にテーブルにこっそり置いたメモに目を向けると、そこには公用交易語で貴族がらみの案件なので大人しく従って欲しいと書かれてあった。
視線を上げると同じようにメモを見た健司と目があい互いに頷く。
「判りました。彼女たちは帰して構いませんよね?」
そう言って立ち上がりつつ確認を取ると了承してくれた。
食事処を出て詰め所まで大人しくついていく事になったのだが、夕暮れの迷宮区画を女の子三人だけで歩かせるのは怖いので憲兵隊一個分隊である三人が警護という名目で和花たちを塔型集合住宅まで送ることになった。
心配そうにしていたが手を振って大丈夫と答えて憲兵隊の詰め所へと同行する。
重要参考人の任意同行という扱いらしく手錠などはされなかった。
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解放されたのは2日後だった。貴族がらみということもあり憲兵隊の中でも貴族に阿る一部を黙らせるためとはいえ、秩序の神の司祭を同伴させ【嘘発見】の奇跡まで使用されて根掘り葉掘り質問され、僕らは嘘偽りなく回答した。
「いやーホント参ったよ」
板状型集合住宅への帰路、健司が伸びをしながらそうぼやく。
事の真相は、ある門閥貴族の若い当主が公娼の少女をお気に召したそうだ。彼は身請けを申し出るが相場をはるかに上回る値がつけられ流石に即金とはいかず資金繰りをしていたそうだ。
いざ資金が揃って身請けに行ったら、引き取られた後で地団駄を踏み身請け人を探した結果、それが隼人だったことが判明。底辺職とあざ笑っていた冒険者の若者があっさり身請けしたことがよほど気に入らなかったのか、阿る憲兵隊員に偽りの罪状で手配書を作成させ冒険者組合に賞金首として提出させたらしい。
僕らは隼人の高跳びなどに協力したのではないかという嫌疑で取り調べされたが、同じ一党ではあったがここ一か月近く接点がないことが証明されたために解放されたのだ。
「隼人が身請けした公娼ってそんなに美少女だったの?」
隼人がやたらと軍資金に拘ったのが彼女との逢瀬と身請けの資金が必要だったためなのだが、ほぼ毎日のように通っていたそうで、そこまで入れ込む相手はどんな娘なのだろうか? と気になったのだ。
「…………そうだなー。年齢は14歳で、方向性は違うが小鳥遊に劣らぬ美少女だったな。あーあとは胸がデカかった」
それこそが重要だと言わんばかりの返答だった。 こっちの世界でも14歳で公娼なのはかなり早い部類になるらしい。未成年の公娼の場合は大抵は家庭や集落に大きな問題を抱えていて人身御供として公娼となる者が多いとの事だ。
「境遇を憐れんでとかかな?」
そう口に出してみたが、なんか違うなって気がしてきた。
「悲惨な境遇に絆されてってか? あいつに限ってそれはないだろーよ。あいつ、お前らの前じゃ黙っていたが頭の中は毎夜通う妓館の事で一杯だったんだよ」
そう健司に言われて思い返してみると…………。
確かに集中力を欠いていた事がしばしばあった。うちの一党は斥候が二人いるおかげでなんとかなっていたが、特に夕方近くなると気も漫ろだったなーとしばらく前の隼人の行動を思い出していた。
「問題はこれからどうするかだな。やっぱもう一人募集するのか?」
「斥候じゃなくて盾役か攻撃役が欲しいかな」
うちの一党は回復役はいるし、術者も揃ってる。荷運人も不要だ。迷宮を攻略しようと思うのであれば前衛が欲しい。
「何事も早い方が良いし、今から募集かけてこようぜ」
思案に耽っていたら健司がそう言って走り出してしまったので慌てて追いかける。程なくして冒険者組合に到着し、必要書類に記載を終え受付に提出すると…………。
「タカヤさん。貴方がたの昇格審査が通って第四階梯へと昇格が決まりましたよ。おめでとうございます」
受付さんがそう言ってニコリと微笑んだ。
何故昇格したのかといえば、今年から万能素子結晶の納入量も審査対象となり、僕らは制度が変わって初の昇格者となるそうだ。他の冒険者たちに発破をかける意味でも昇格式を行わせてもらいたいとお願いされ了承する。
第四階梯に上がると特典として、冒険者組合関連の施設の施設利用料が無料になるのだ。




