幕間-5
2019-05-13 実は幕間-4が抜けています。後日差し込みます。
2020-05-04 一部文言を追加
「世話ニナッタ」
壁のような巨躯を誇る竜人族の戦士はそう告げた。
「シカモ冒険者ノ手続キヤ装備マデ用意シテ貰ッタ」
竜人族の戦士が身に着けている真新しい漆黒の重甲冑の首には真新しい認識票がぶら下がっている。
声帯の構造上どうしても竜人族の公用交易語は聞き取りにくい。
「結果だけで言えば、俺の馬鹿弟子も一皮むけた。まーその礼だ。」
巨漢の金髪の偉丈夫がそう返答する。
「戦闘奴隷からも解放されたわけだし集落に帰るのか?」
「竜人族ノ人生ハ戦イニ次グ戦イダ。東方北部域ガ傭兵ヲ募集シテイルソウダカラソコヘ行クツモリダ。デハ失礼スル」
そう言うと竜人族の戦士は振り返ることなく去っていく。
「そうか…………。何か困ったことがあったらうちの集団を頼るといい」
金髪の偉丈夫はその背に声をかけ、姿が見えなくなるまで見送った。
「てっきり引き留めるのかと思ったのに…………」
金髪の偉丈夫の横で退屈そうにやり取りを眺めていた銀髪の聖女がそう言って初めて口を開いた。
「まーいずれこの借りは返してもらうさ。俺が無料であれこれ世話を焼くわけがないだろう」
「ほどほどにね」
クククと如何にも何か企んでいるとばかりに笑う金髪の偉丈夫を見上げ銀髪の聖女が溜息を洩らしつつそう告げる。
「そう言えば…………訓練の方はどうなの?」
銀髪の聖女は竜人族の件は片付いたとばかりに話題を変えてきた。
「一人を除けばまじめに訓練に取り組んでてそろそろ成果が表れるころだろう。やる気のない奴に強制しても仕方ないしなー。冒険者一党は一蓮托生だから一人が足を引っ張ると他の面子に迷惑になるし、いずれ然るべき結果になるだろうが俺が関知することではないな」
金髪の偉丈夫の言葉に嘘はないだろう。彼は努力するものを愛するが、その反面として寄生する者をとことん嫌悪するのだ。いや、唾棄すべき存在と思っているのだ。その事をよく知るだけに何を言っても無駄だと銀髪の聖女は理解しているので黙る事にした。そしてせめてあの異世界から来た少年一党が長生きできることを祈るのであった、
「ゴホン…………ところで、門閥貴族のラウルス伯爵が大変お怒りで呼び出しを受けているけどどうするんだい?」
後ろに控えていた長い銀髪の美丈夫が咳ばらいをして割って入る。
「レンネンブルグ侯爵の腰巾着のあいつに呼びつけられる理由なんてないはずなんだがなー」
金髪の偉丈夫の言いようは面倒臭いなというオーラが漂っていた。
「門閥貴族のご機嫌取りも我々の集団の仕事のうちですよ」
銀髪の美丈夫の諭され嫌々ながらも訪問を決意する。
「なら私はお夕飯の支度でもして待ってますね」
銀髪の聖女はニッコリと微笑んだ後、鼻歌交じりに帰路に就く。その鼻歌が微妙に音程ずれてるなーと思いつつ金髪の偉丈夫は黙って見送る。
「仕方ない。仕事するか!」
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「卿の弟子がしでかした責任をどう取ってくれるのかね?」
怒られるのも仕事のうちと黙って聞いていたが、内容はと言えば————。
『小僧に身請け予定のお気に入りの公娼をかっさわれただけじゃねーか…………。俺に何の責任があるんだ? これだから門閥貴族のおもりは嫌なんだよ』
面倒だしこの門閥貴族の坊ちゃんを〆るかと思い始めたところ、
「件の人物は当方の弟子ではなく、弟子の一党の一員に過ぎませんので責任と言われても困ります」
銀髪の美丈夫がそう言い訳をする。それ言い分は事実とは若干違う。
その言葉は件の人物を見捨てた事を意味する。
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「しかし折角一党が六人になったのに彼もよくよくついてないね」
いけ好かない門閥貴族のラウルス伯爵邸からの帰路での事だ。銀髪の美丈夫はそう嘯く。彼一人で世界を滅ぼすことができる銀鱗の龍王たる彼にとっては雑魚一人の運命などどうでもいいのだ。
「アイツは、どのみち脱落したさ。元々逃げ癖があったし同郷の四人は血統操作で優秀な能力を持っていてそれを僻んでいた……まー僻むだけだったけどな」
「件の身請けした公娼ですが、彼は資金を調達するためにどうやらあまりよくない所から借金をしたようです。踏み倒す気満々のようでして…………現在は行方が分からないとの事です。血眼で探し回っているようですよ。居場所を教えないんですか?」
銀髪の美丈夫も金髪の偉丈夫も居場所はとうに特定しているが、教える義理もないのでダンマリを決め込んでいる。それが仮初の弟子に対する最後の義理立てだ。
二人でぶらぶらと歩きつつ会話は続く。
「しかし件の公娼の身請け価格が金貨300枚ってのは凄いな」
金貨300枚と言えば30万ガルドな訳で、中古の魔導従士なら3騎、板状型集合住宅借りて滞在税払って贅沢な食生活をしても12年と半年は生活できる金額だ。
「そうですね。相場は15万ガルドと言いますからね。そう言えば同居人の話だと毎日通っていたと言いますから熱の入れようは凄いですね」
銀髪の美丈夫の言いようは感心しているようでありあざ笑っているようでもある。
「策を授けて、魔法の工芸品を貸し与えたんだ。これで捕まったらマヌケ過ぎだし、流石にこれ以上は愛の逃避行とやらには付き合いきれん」
彼らは全てを知りつつ自分たちは無関係だと言い張ったのである。
「しかし…………ほぼ財産を失って彼らに未来はあるんですかね?」
銀髪の美丈夫のいう事はもっともな事である。策の為に冒険者組合の認識票を同じ背格好の囮に持たせ、【変装】の魔術の効果を持つ魔法の物品を持たせ魔導列車で高飛びを偽装したのである。
「今頃は————」
忙しすぎて投稿間隔が…………。




