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73話 誘拐される

「そうだ! 帰りに防具を見ていこうよ」

 食事会も終わり師匠たちと別れた後、おもむろ和花(のどか)がそう提案してきた。

「誰の?」

「セシリーのだよ。今回の件で思ったけど、やっぱ革鎧(ソフトレザーアーマー)はいざって時に頼りにならないよ。ましてやセシリーは戦闘訓練受けてないし」

 そう述べる和花(のどか)の意見ももっともな気もするが…………。

 回避(アヴォイド)能力に不安がある以上は防御力でカバーしたいが、健司(けんじ)のような板金軽鎧プレートメイルアーマーは流石にきついだろう。

「いや、でも現状でも体力(スタミナ)的にキツイのにさらに重い鎧とか厳しくないか?」

 反対意見を出してきたのは隼人(はやと)だ。いざっていうときに走って逃げる体力(スタミナ)もないようだと折角の防御力も無意味だ。

「ここであれこれ言ってても仕方なくね? ここは専門家に相談でいいんじゃね?」

 健司(けんじ)の意見も最もだが、たぶん本人的には早く帰りたいからだろう。実際今日は疲れた。


 結局意見は平行線のまま明日は休養日にしてゆっくり考えようって事となり別れた。


 板状型集合住宅(マンション)に戻ってきたのだが入口に人だかりが出来ている。

「何があったんだろうね?」

「まさかとは思うけど、部屋に襲撃があったのかな?」

 僕の問いに和花(のどか)が返す。

 よく観察すると大半は野次馬の近所の冒険者(エーベンターリア)たちだが、この国の憲兵隊(ソタポリーシ)衛兵(セントリー)などに混じって冒険者組合エーベンターリアギルドの職員も混ざっている。


「おぉ~お前らも災難だな」

 そう声をかけてきたのは一つ上の階に住む冒険者(エーベンターリア)の人だ。実は挨拶や立ち話はするがお互い自己紹介はした記憶がないので名前は知らない。

「どういう事です?」

「お前さんたちの隣の部屋に強盗が入ったんだが、部屋の中は血飛沫と肉片が撒き散らされてて凄い状態らしいぞ」

 勘弁して欲しいなと思っていると、その冒険者(エーベンターリア)は続けてこう言った。

「襲撃者はお前さんらを狙ったんじゃないかって噂だぞ」


 その話は真実であったようだ。


 あちこちに命令をしている責任者と思しき衛兵(セントリー)がこちらに真っすぐ歩いてくる。

「君がタカヤで間違いないね?」

 名字で呼ばれたの久しぶりだとか思っていたが、なんで迷いなく僕だとわかったんだろう?

「ん?その表情(かお)は何で判ったんだって感じだな」

「ええ。なんでです?」

「お前さん。ここらの冒険者(チンピラ)首魁(ボス)だったマルコーをった猛者で美少女数人(はべ)らしてるハーレム野郎って有名なんだぞ。知らなかったのか?」

 ハーレム野郎って…………ある意味事実だから否定はできないが嫌な評価だな。

「全く知りませんでしたよ。過分な評価だなぁ。アハハ…………」

「とにかく幾つか聞きたいことがあるから詰め所に同行してくれ」

「任意ですか?」

 一応聞いてみた。

「任意だが、適当に罪状でっち上げて連行しても構わないが?」

 堂々とでっち上げとか言っちゃうのか。

「判りました…………ところで彼女たちも同行ですか?」


 ▲△▲△▲△▲△▲△▲


 女性陣は衛兵(セントリー)さん数人を護衛につけてもらって師匠の家に行ってもらう事にし、僕だけ詰所に同行して質問に答えていく。半刻(1時間)近く質問攻めにいい加減にうんざりしてきた頃に外が騒がしくなってきた。

「なんだよ。全く…………」

 衛兵(セントリー)の隊長さんが立ち上がるのと、詰所の木製の扉を壊して衛兵(セントリー)のひとりが吹き飛ばされてきたのが同時だった。

「…………殺ス。邪魔スル者ハ全テ殺ス」

 迷宮(アトラクション)に置いてきた筈の竜人族(リル・ドラケン)だった。どこまで追ってくるつもりなんだよ!

 しかも鉄塊の如き両手剣(ツーハンドソード)は何処かに捨ててきたのか既になく、代わりに本来は両手で握って振り回す大斧(グレートアックス)を左右の手に1本づつ握っている。

 吹き飛ばされた衛兵(セントリー)は脳天を割られていてピンク色の何かが見える。ちょっと吐きそう。

「タカヤが言ってたのはこいつか!」

 隊長はそう叫ぶと小剣(ショートソード)を抜いて応戦するようだ。流石に無謀だと思うがこれも職務なんだろう。

「武器は変わってますが、そいつで間違いないです」

 そう答えて僕も武器を抜こうと腰に手をやるものの————。

「あ、武装解除して預けたままだ…………」

 やむなく脳天が割れてる衛兵(セントリー)の腰から小剣(ショートソード)を拝借する。

 でも、これじゃ受流し(パリィ)受止め(シース)も出来ないだろうし、回避(アヴォイド)以外選択肢がないのは辛いかなぁ。取りあえず身体が大きすぎて扉を通れないが大斧(グレートアックス)の連打で詰め所が先に破壊されそうだ。。

「窓をぶち破って逃げろ!」

 隊長さんはそう叫びつつ懸命に大斧(グレートアックス)を避けている。

「ありがとうございます。隊長さんもご無事で!」

 ここにいても隊長さんが危ないだけだし、何処か安全な場所に隠れないと…………。


 詰所の窓を開けて屋外に出る。周囲を見回すと怪我人やら死体っぽいのが沢山転がっている。正直言うとこの手の死体とか怪我人はいつ見ても慣れるものじゃない。

 この詰所の場所は板状型集合住宅(マンション)から近い場所にあるけど、このまま街中を逃走すれば更に被害拡大だろうしどうする?

「迷ってる時間もない」

 そう呟くと師匠の家に逃げ込む事にした。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



 息が切れて腿が上がらない…………。ズルズルと足を引き摺るように歩を進めている。

 全力で詰所から逃げ出して師匠の家に向かったのだが、街全体が混乱していて最短距離で師匠の家には向かえなかった。この街の事は必要最低限の場所以外は殆んど知らなくて迂回するたびに道に迷ってしまう。さらに竜人族(リル・ドラケン)以外にも僕を狙う者がいて道中で三回襲われた。

 幸いな事に技量(うで)は大したことなく数合で戦闘能力を奪う事に成功したものの歩くのも厳しいくらいに疲労してしまったのも事実だ。


 そんな時だ————。


「高谷じゃないか。どうしたんだよ」

 和花(のどか)や師匠以外との会話でしか使わない日本(やまと)帝国語で呼ばれたために思わず立止まって声の行方を捜してしまった。

「うっ」

 右の太腿に焼けるような激痛を感じそのまま倒れこんでしまう。

 疲労感から思考が鈍っていたのだろうか?

 何が起こったか理解できなかった。

 目線を太腿に移動させると太矢(クォーレル)が深々と突き刺さっている。自分が(クロスボウ)で撃たれたとようやく頭が理解した。

 再装填を終えた軽弩(ライトクロスボウ)を構えたままこちらに近寄ってくる人物は名前は知らないが僕と共にこの世界に強制拉致された同じ学校の生徒だ。

「すまない。謝って済むことではないだろうが、こうしないと友達ダチが殺されてしまうんだ。だから…………死んでくれ!」

 そう言ってゆっくりと狙いを定める。距離は5mほどだ。流石にこの距離で外すマヌケはいないだろう。

 正直名前も覚えていない彼やその友人の為に死んでやる義理はない。

「ごめん」

 名も知らぬ彼はそういうが引金(トリガー)に指を掛けたまま震えている。そりゃ冷静に人を殺せるメンタルなわけないよね。だけどそれは僕にとってはありがたかった。

 苦し紛れに腰帯(ベルト)に差してあった投擲剣(スローイングダガー)を投擲する。


「ぐあっ」

 苦し紛れであったがノーコン投擲(スローイング)と散々師匠に弄られていたがこの時は奇跡が起きたのか、名も知らぬ彼の右腕に突き刺さり、軽弩(ライトクロスボウ)を落としてしまう。

 太腿の激痛を堪えつつ立ち上がり歩き出す。とにかく一刻も早くこの場を離れたかった。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



「目が覚めましたか?」

「…………ここは?」

「ここは始祖神(オーラン)の教会が運営する施療院ですよ。貴方が門の前に倒れていたのでこれも神のおぼし召しとおもい治療を施しただけです」

 白衣を纏った初老の男性がそう答えてくれた。

 周囲を見回すとかなりの数の怪我人が運び込まれている。奇跡(ホーリープレイ)を使える者は多くないから軽傷者は応急処置だけのようだ。ベッドも足りてないようだし今回の襲撃でとばっちりを受けた人たちだろうか?

 申し訳ないと思う反面、こっちも事情がよく分からず勘弁してくれとも思う。

始祖神(オーラン)と言うと…………セシリーの…………」

 そう呟くと白衣を纏った初老の男性は驚きつつこう言った。


「うちのセシリー神官(モンク)の知り合いでしたか…………。という事は小さな聖女様のお知り合いという事ですか?」


 ん? 小さな聖女様? 

 あーマリアベルデさんの事か。

 普段のマリアベルデさんを見ると、とても聖女様には見えないんだけどなぁ。確かに浮世離れした感じとか神がかった美少女だったりとか、あの師匠の恋人ってだけで普通じゃないとは思うけど聖女様ねぇ?

 少し思案のちに、「マリアベルデさんにはお世話になっておりますね」と告げる。


「いまから使いの者を出すので取りあえず暫く休んでいなさい。傷を塞いだだけだから歩くのも大変だろうしね」

 そう言って立ち去っていった。迎えを呼んでくれるらしい。



 半刻(1時間)くらい過ぎ去っただろうか?

 外はどんな感じなんだろう。

 そういえば迎えが来ないな。

 この施療院から師匠の家までは徒歩で10分あればおつりがくるくらいの距離だ。幾らなんでも半刻(1時間)経過しても音沙汰がないとかおかしい。

 起き上がろうとしたところに喉元に冷たい感触が————。

「大人しくしていれば殺しはしない。理解できたら小さく一度頷け」

 そう耳元で囁かれた。

 姿が見えないが側に誰かいる。わずかに視線を動かすと喉元に短剣(ダガー)を突きつけている右腕が見える。途中で消えているので魔法の工芸品(アーティファクト)で姿を隠しているのかもしれない。

 傷は塞がったとはいえ完全に癒えた訳じゃない。痛みもあるし疲労感も結構あって身体が重い。ここは無駄な抵抗をしても得はないだろうと判断し小さく頷く。

「起き上がって施療院を出ろ。門に迎えの馬車(キャリッジ)を待機させてあるからそれに乗れ」

 短剣(ダガー)が喉元から離れるが、それによって完全に姿が隠れてしまう。下手な動きをすればズブリだろうと思うと取りあえず大人しく従うしかないだろう。


 大人しくベッドから起きだし、痛む足を引き摺りながら施療院を出る。そして言われたとおり馬車(キャリッジ)に乗り込むと動き出した。

「何処へ連れて行くんだろうか?」

 この馬車(キャリッジ)は窓が塞がれていて周囲がまるっきり見えない。当然室内も真っ暗である。だが人の気配がある。見えないけど誰かが乗っている。

「すまないがあるじの居場所を知られるわけに行かないので少し回り道をするよ」

 姿を見せないそいつがそう言った。


 結局半刻(1時間)くらい走り続けた後に止まったと思ったら一瞬だが浮遊感のようなものが襲った。てっきり落ちたのかと思ったがその後は動く気配もない。


「降りろ」

 そう促されて馬車(キャリッジ)を降り周囲を見回すと石造りの広場(ホール)の中だった。【光源(ライト)】の魔術によって白く照らされたその場所は、まるで迷宮(アトラクション)の壁なのだ。

 迷宮(アトラクション)に入った感触はなかった。乗り心地のよい馬車(キャリッジ)ではなかったので伝わってくる振動から石畳の上を走っていた筈だ。 


転移門(ゲート)】をくぐったという事だろうか?


 事態がどうなっているのかさっぱり判らない。

 なぜ襲われたのかもいまいちはっきりしない。

 そしてなぜココに連れてこられたのかも判らない。

 とにかく情報が足りない。

 すぐには殺さないというのであれば出来る限り情報を引き出さねば。


「先ずは部下の非礼を詫びさせてもらおう」

 突然暗がりから声が掛かった。どこかで聞いた声だ…………。

 あの富裕層の館で聞いた尊師の声だ。



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