67話 鍵の守護者②
「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
支援魔術がかかったのを確認したのちに健司が雄叫びを上げ超巨大蜈蜙へと走っていく。隼人がそれに続く。
僕はと言えば後衛の準備を確認する。
和花は投石紐を取り出し鉄弾を籠めて回し始める。驚いたのが瑞穂だった。
どういうわけか僕が持っている魔法の鞄と同じ腰袋を身に着けていて、そこから取り出したのは…………。
連弩と呼ばれる連射機構を備えた弩である。
弾倉を上部に取り付けられている。その為狙撃は出来ない。瑞穂の持つ連弩は側面にハンドルがあり、それを回すことで装填と発射を繰り返す。装弾数は20本との事だ。
機構が複雑で冒険者向けではないと言われているが、師匠が持たせたと言うことは多分特別製なのだろう。
ちょっと依怙贔屓な気がする。
セシリーは権杖を両手で握りしめている。前衛が負傷すれば奇跡を願って【軽傷治療】を掛けなければならないのだが、有効距離というものがあり2.5サート以内でないと効果が及ばない。だが近接戦の経験が皆無なセシリーを敵に近づけたくはないので待機してもらっているという状態だ。
確認も終わり僕も超巨大蜈蜙へと向かい始めるころ、健司の最初の一撃が歩肢を数本斬り飛ばした。
「ダメだ! 背中は結構固い」
そう叫んだのは小剣を背板に振り下ろしていた隼人だ。
これまでの経験則から昆虫系の外皮は結構固いのは間違いないようだ。
「隼人は歩肢を斬るか体節の隙間を刺すんだ」
そう隼人に指示出しつつ片手半剣を両手で握り振り下ろす。
外皮を割裂き体液が飛び散る。この片手半剣くらいの重みがあれば結構いけそうだ。だが正直間合いが掴みにくい。こういう人外生物には打刀と高屋流刀術という慣れ親しんだ技術より重い武器を力いっぱい振り回す方が良いと健司を見て改めて実感した。
そんな健司は三日月斧を豪快に振り回し歩肢を斬り飛ばし外皮を穿っている。
昆虫系は打たれ強さが高いだけに持久戦もあり得るかと考えていると————。
「うあっ!」
超巨大蜈蜙が激しく暴れ避けきれなかった隼人が尻もちをつく。
三人で囲ってボコっていたところに穴が開く。
頭部を持ち上げ尻もちをついている隼人に食いつこうと迫った時、三本の太矢が側面から突き刺さる。
いつの間にか近づいてきていた瑞穂の連弩による三連射だ。連射を優先した結果、威力が軽弩以下で命中精度も若干悪くなり、有効殺傷距離も短くなったが的が大きい大型生物にはあまり関係ないようだ。
なんにしても助かった。
超巨大蜈蜙は包囲を抜け出し頭を起こしている。これは————。
威嚇しているのであろうがある意味隙だらけだ。
片手半剣を両手持ちにし、上体を右に捻り構える。左膝の力を抜き重力に曳かれて前のめりになり始める瞬間。右足を蹴りだすと同時に左足を前に出す。高屋流上伝歩法【八間】にて一気に間合いを詰める。【八間】による超加速で超巨大蜈蜙の左をすり抜ける瞬間に渾身の右薙ぎを放つ。巨大昆虫に刺突はあまり効果がない事は学習した。
結果は————。
「「おぉーっ」」
後ろから歓声が上がる。
両断だった。
頭部から0.5サート程のところで真っ二つになり暴れ始めるが後ろ部分の脅威はほぼない。
止めを刺そうと片手半剣を逆手に持った時、
「いただき!」
健司の三日月斧が振り下ろされ頭部をかち割った。
「「よっしゃー」」
反射的に健司とハイタッチを決める。
「ところで、そーいうの普段からできねーの?」
健司の質問はもっともである。こっちの世界では武技とも呼ばれる技術を使いこなせれば戦闘は楽になるだろう。現在は健司に結構負担をかけている。 ただ口調から察するに咎めているとかではないようだ。
「高屋流のままだと対人特化すぎてね…………。あーいう巨大生物とか間合い? とか掴みにくくてね」
言い訳がましいけど動きが読めないのだ。
「ま、俺も力任せすぎて周りが見えてないしお互い精進だな」
健司がそう言ってこの話はそこで終了した。
話も終わり死骸を確認しようと振り返ると、死骸がなく光る玉のようなものが浮いていた。
「なんだ、これ?」
健司がその光る玉に手を伸ばすと弾けるように分裂し、それぞれが首から下げている認識票へと吸い込まれていった。
答えは部屋の外にいた師匠が知っていた、
「おめでとう。今の光が鍵の証だ。これで昇降機で地下二階に降りられるようになる」
だが、その説明に疑問点が浮かぶ。
「冒険者組合の認識票が迷宮の鍵になるんです? 同じ人物ないし組織が作ったとかですか?」
たしか以前聞いた話ではこの迷宮は生きている。即ち迷宮主が存在すると聞いた覚えがある。
古代の魔法帝国の時から存在したとも聞いた。この町が当時の帝都で既に4千年以上経過しているとも言っていた。
対して冒険者組合や商人で使っている魔導機器は古い物でも2千年だという。しかも発展した地域も違う。
迷宮主の権利譲渡は出来ないはずだし、妖精族か何かなんだろうか? よくわからん。
「文献によればここの迷宮主は死霊術師だ。迷宮主の定義は生者である必要性はないので真祖吸血鬼か骸王、所謂不死の王だろう。妖精族でも物質界に4千年以上留まれるとは思えないし、当時は人間至上主義が蔓延していたから妖精族の可能性も低かろう」
師匠の話はそんな感じである。
結論から言えば、超越者となった迷宮主が深部まで潜ってきた冒険者を捕獲して認識票を解析したのではないかと言われているらしい。
もっとも利用する側としてはありがたいのだけど。
ただ師匠は最後にこういった。
「この認識票のおかげで我々の位置は多分だが迷宮主に筒抜けだろう」
それを聞いた時、僕はもしかするとこの迷宮は攻略不可能なのではと一瞬思ってしまった。
なんかもやもやした気分のまま地下一階の広場に戻り昇降機で地下二階へと降りる。
降り立ったそこは地下一階の人工的な造りの広場ではなくまるで天然の洞窟のようだ。
安全地帯である広場は天幕だったり露店だったりが無秩序に並んでいる。
お試しということで地下二階攻略に乗り出した。ここからは師匠のアドバイスはない。鍵の守護者の場所は自力で探せとの事だ。




