66話 鍵の守護者①
今更気が付いたが健司と隼人がいない。その事を師匠に問うと「もう地下一階の広場で待ってる」と返ってきた。
やっぱり僕らが遅刻じゃないかー。
遅れた原因の和花を見れば素知らぬ顔である。
「いくぞ」
師匠に促されて認識票をかざして鉄門を抜ける。ほんのり角灯で照らされた階段を降り開けた空間へとでる。地下一階の広場だ。
「もう先に食ってるぞー」
程なくして合流を果たした僕らを露店で朝食代わりのバゲッドタイプのサンドイッチとを水で流し込むように貪っていた健司達が出迎えてくれる。
僕らも急いで同じものを買ってきたのだが、街のパン屋のものに比べると小麦の品質が悪いのかパンがやや硬い。きちんとバターも塗ってあり挟んだ葉物野菜と揚げた鶏だろうか? を挟んである。だが惜しいというべきか油が綺麗じゃないのかあまり美味しいとは言えない。ボリュームだけはあるので贅沢言わなければこれで十分ともいえる。この街であるからこそ5ガルドで食べられるが、他所の町だと贅沢品扱いだろう。
食べ終わり一息入れた後に地下一層、下水区画へと入っていく。師匠の道案内により四半刻ほどで下水区画を抜け、いま歩いている場所は幅2.5サート、高さ1.25サートほどの石造りの通路だ。迷宮に光源はないので現在は前衛の隼人に松明を持ってもらい、後衛でほぼ戦闘には参加しないセシリーの権杖、所謂聖職者が持つ聖印を兼ねる長さ0.25サートほど杖に【光源】を付与しておく。杖頭が十字架に絡みつく蛇なのだが、これが始祖神の聖印らしい。
先導していた師匠が不意に立止まり振り返ると、
「今日の目的地はここだ」
そう言って通路の突き当りにある大きな鉄扉を指し示す。
「あそこには何が?」
代表して僕がそう問う。あたり前だが本日の目的は聞いておらずただ先導されつつ遭遇した黒いカサカサしたのとか肥え太った巨大な鼠とかを倒しながら此処まで来ただけなのである。
「この階の広場に昇降機があっただろ?」
返ってきたその問いに頷く。
「この迷宮は各階層毎に配置されている鍵の守護者を倒すことで昇降機で一つ下の階層へと降りられる————」
この後の師匠の話によると、下の階層へ下りる階段は最大でも四つしかなく各階層の広さは大きいところだと10サーグ四方にもなるらしい。その為か下の階層層へと降りられるようになったら階段より鍵の守護者を探せとまで言われているそうだ。
確かに毎回毎回下水区画を通っていくのは結構苦痛だから助かる話でもある。下の階層へ行くほど強い敵も出てくるとはいえ儲けも大きい。
「では、健闘を祈る」
そう言うと師匠は鉄扉を押し開くのであった。何故かと言えば一度攻略した者が戦闘に干渉すると例え討伐できても討伐資格を得られないのだそうだ。
いきなりかよ! とか思ったけど師匠の事だから問題なく倒せると踏んでの事だろう。
薄暗い部屋へと足を踏み入れると手前から順に明かりが灯り程なくして十分な視野が確保できるようになる。飾り気のない5サート四方の部屋の奥に鍵の守護者は居た。
鍵の守護者は身体は平たく、蚯蚓のように細長い。輪のような節が数多く連なり、節ごとに一対の足がある。全長は軽く見ても3サートはある。
「超巨大蜈蜙だ。捕食用の顎肢と神経毒には注意だ。見た目ほど重くはないが体がデカいからぶちかまし攻撃には注意だ」
後ろから師匠のアドバイスが飛ぶ。
先ずは定番の支援魔術の詠唱だ。和花の方を見ると目が合う。和花もやる事は分かっているようで無言で頷く。
「「綴る。付与。第一階梯————」」
呪句を唱え、僕は発動体である魔術師の棒杖、和花は魔術師の長杖を掲げ、宙に術式を描き、反対の腕は呪印をきる。
【防護膜】、【不可視の盾】、【魔力付与】の効果対象を拡大させると対象を僕、健司、隼人へと順番にかけていく。初歩の支援魔術御三家だ。師匠の話では魔術師見習いが【魔法の矢】を真っ先に使い始めたら無能の証明のようなものだから気を付けるようにと口を酸っぱくして言っていたのを思い出す。
師匠から貰った御守りの効果なのか万能素子を扱っても得も知れぬ苦痛とも不快感もない。
「健司は上からの攻撃に注意。隼人は側面から牽制。セシリーは待機。和花と瑞穂はセシリーの護衛しつつ余裕があったら飛び道具で牽制して。いくぞ!」
皆に指示を出し超巨大蜈蜙へと走り出す。




