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65話 ダンジョンへ再び

2019-07-07 誤字修正

 目が覚めると地面に寝かされていた。

 上体を起こし周囲を見回すと擱座かくざしたっぽい魔導騎士(マギ・キャバリエ)を運び出す二騎の魔導従士(マギ・スレイブ)が目に映った。もちろん擱座かくざした魔導騎士(マギ・キャバリエ)は僕が搭乗していた騎体だ。開閉扉(ハッチ)が切り取られており周囲の一次装甲(インナー・スキン)もボコボコだ。やっちゃったなという後悔が押し寄せる。

「気が付いたか」

 目を覚ました僕に気が付いた師匠が近寄り手を差し出してきたので、礼と謝罪を述べその手を掴み起き上がり何があったのかを確認する。


「初搭乗の時によくあるケースなんだが、高揚感から自分の体調コンディションを見失う奴が多いんだよ。まーわかりやすく言えば体力(スタミナ)不足だ。騎士(キャバリエライダー)に必要な要素のうち体力(スタミナ)(いつき)には足りないのさ」


 体力(スタミナ)かー。それなりにあると思ったんだけどな…………。


 ただ初回搭乗時であれだけ動かせたのは才能ある証左だなと褒められた事が素直にうれしかった。この師匠は命のやり取りに関わる技術に関してはダメ出しが多くてあんまり褒めないんだよね。

 ただそのあと魔闘術(ストラグル・アーツ)を使おうとしたことで怒られたんだけどね。


 さて僕が搭乗していた騎体はというと乗り手(ライダー)である僕が疲労感から急激に意識を失った事で前のめりに転倒し開閉扉(ハッチ)ひしゃげた為に胸部を切断して救出されたそうだ。映像盤(モニター)も衝撃で砕けて操縦槽(ディポッド)自体もひしゃげてるようなので交換するらしい。

 けっこう大掛かりな修理を要するとの事だ。戦場であれば上官から修正(気合注入)されている事だろうと笑いながら言っていた。

 ただ壊したことについては初心者のうちはよくある事なので特に咎めるような事ではないとの事で気にしなくていいと言ってもらえた。


 正直ホっとしてしまった。


 他の面々は何をしているかというと魔導従士(マギ・スレイブ)を危なげなく乗りこなしている。いま乗っているのは和花(のどか)健司(けんじ)のようだ。


 その後はトラブルもなく休憩しつつ交代で魔導従士(マギ・スレイブ)あやつり気が付けば日の入り間近であった。眼球ユニット(オーギャプフェル)には暗視機能はついてないのでこれ以上の搭乗は危険と言うことで名残惜しいけど終了することになった。機会があればまた乗せてもらえるとの事だ。


 帰り支度も終えていざ帰宅というときに師匠から一言あった。

「明日は迷宮(アトラクション)攻略に必要な事を教えるから三の刻(六時)迷宮(アトラクション)前に集合するように」

 そう言うと、とっとと帰れと追い出された。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



 一夜明けて…………。



 和花(のどか)に叩き起こされて板状型集合住宅(マンション)を出たのが二の刻(四時)だった。

 僕はと言えば半分寝ている状態で女性陣に連行されてどこかへ向かっている。10分くらい歩いただろうか。板状型集合住宅(マンション)など鉄筋コンクリート構造の建築物が多い街並みだ。


 もっともこの迷宮都市ザルツが、数千年前の古代魔法帝国の帝都としての機能を残しつつ現在は中原の大国ウィンダリア王国のある種の新技術の実験都市の側面があるからだそうだ。塔型集合住宅(タワーマンション)まであるし、異世界=中世ヨーロッパっぽい何かってイメージが古典ラノベでイメージが固まっている僕からすると、 

「いつ見てもコンクリートジャングルすぎて違和感が拭えないなー」

「確かにちょっと異国感が薄いよねー」

 僕の呟きに前で手を引いていた和花(のどか)がそう返してきた。瑞穂(みずほ)もうんうんと頷いている。


「こんばんは。それともおはようございます。かな? みなさんはこれから迷宮(ダンジョン)攻略ですか?」

 唐突に後ろから声を掛けられた。この鈴を鳴らしたような可憐な声音は…………。

「あっ、マリアちゃんだ」

 背後からのその声にいち早く反応したのは和花(のどか)だ。不思議なことにマリアベルデさんの気配を感じ取れなかった。実はどこかの密偵(スピオン)だったとか?


「うん。でもその前にお風呂にでも入ろうかなってね。板状型集合住宅(マンション)の共有風呂が清掃中で使えなかったの。そういうマリアちゃんは?」

「私はお風呂に入った後で各神殿合同の炊き出しの手伝いです」

 これはもしかして食費を削れるかも?

 僕の考えを読んだかのような解答が返ってきた。

「何方でも歓迎ですけど、1刻(2時間)に及ぶ司祭(プリースト)様の説法を聞いて奉仕活動に参加された方限定ですよ」

 マリアベルデさんはそう言って笑う。

「それは…………なかなか苦行ですね」

 奉仕活動と説法のオマケとなると結構厳しいかな。

 あ、そうだ。聞きたい事があったんだ。


「そうだ。先日の館で縛られていた女性ってどうなったんですか?」


「もちろん無事に親元に帰しましたよ」

「素性とか聞いても大丈夫ですか?」

 依頼の守秘義務とかに抵触しないといいなとか思っていたら、

「ごめんなさい。一応守秘義務で喋れないの」

 そう謝られてしまった。

 なら別の疑問点を聴いてみよう。

「身体に証のある聖女ってなんですか?」


「…………宗教的な意味でなければ私にはちょっと判らないかなぁ」

 沈黙の後に返ってきた答えがそれだった、少なくとも嘘を言っている感じはない。

「その聖女って館で縛られていた子の事なの?」

「女魔術師(メイジ)が尊師と呼ばれる人物と交信をしているところを見ました。スカートを捲って証があると」

「それでスカートが捲れていたのね…………」

 それっきり考え込んでしまった。


「そんな話はもういいからお風呂はいろっ」

 話に入れなかった和花(のどか)がマリアベルデさんに抱きついてそのまま入り口へと押していく。

「樹くん。それじゃあ、また後でね」


 取り残されてしまった…………。




 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



 どうせ迷宮(ダンジョン)に入れば汚れるのだからと鴉の行水で済ませてしまった事を後悔した。和花(のどか)がちっとも出てこない。もともと長風呂なのは知っているけど、時と場合を考えて欲しい。そう思っているうちに気が付けば迷宮(ダンジョン)入り口にある大時計はそろそろ3の刻(6時)を示そうとしている。


「お待たせぇ。待った?」

 ぎりぎりになって和花(のどか)とマリアベルデさんが出てきた。

「待ってないよ」

 ポーカーフェイスで返事をしたけど、マリアベルデさんには見破られたようでクスクスと笑われてしまった。

「ほら、もう時間ギリギリだからいくよ」

 そういうと和花(のどか)の手を掴んで走り出す。遅刻したら怒られそうだ。

「マリアちゃん。またねぇ」

 和花(のどか)は暢気に手を振って別れを告げる。




 杞憂だった。

「この世界じゃ細かく時間を気にする奴なんてまだ極々少数派だぞ。いいから、とにかく呼吸を落ち着けろ」

 ダッシュで迷宮(ダンジョン)入り口に到着し息も絶え絶えで遅刻を詫びたらそんな回答が返ってきた。



どれだけ仕事を頑張っても目前でちゃぶ台返しされ努力が水泡に帰すって状況が続いております。


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