609話 年末最後の大仕事⑥
気が付けば時刻は十一の刻半を四半刻ほど過ぎていた。
和花に会いに行かねば。
初期は兎も角として現在うちの共同体は家庭を持った者や十字路都市テントスに家を持つもの以外は例外なく宿舎生活である。
一般の構成員は4スクーナほどの個室を割り当てている。浴室と便所は共同だ。
対して幹部クラスは4スクーナの部屋が二間続きでそれと便所と浴室と簡易台所ある。
ちなみに一部の幹部には研究室が個別に割り当てられている。
幹部棟の方へと歩きながらどうやって切り出そうかと今更ながら思案していた。こういった時に健司のように気軽に女性を口説ける技能があればと思うけど…………それはそれで僕ではないなぁ~などと思考があちこちに飛びながら気が付けば和花の部屋の前に着いてしまった。
まだ寝てない筈だ。
意を決してノックをすると程なくして扉が僅かに開き顔を覗かす。
「どうぞ」
そう言って僕を招き入れる。
和花の部屋は日本帝国での習慣に基づき土足厳禁の為に靴を脱いで室内履きに履き替えて入室する。
何度か和花の私室にはお邪魔しているけどいつも奇麗に整頓されている。
「お疲れ様。休みだったのに検査や治療に駆り出しちゃった件はありがとね」
まずは急な仕事で呼び出した件に礼を述べる。
「ううん。ちょうど研究が行き詰ってて気分転換になったし。ところであの子はどうだった?」
ここで言うあの子とは神人族の子だ。
「逸材だね。一応承知してもらったよ。ただ…………」
「そうなのよねぇ…………隠れ里で途方もない年月を婚姻を繰り返してきた影響があるのよねぇ…………。そういう点でいえば先祖返りのアルマの方が素養は高いのかしら?」
「どうだろ? 神人族は性別で適性が異なるし一概には…………」
神人族は男性は肉体派、女性は術者向きの適性を有する。
「私は解析の専門家じゃないから詳しい事は分からないけど、キーン先生に言わせると十分に役目は果たせるって」
「こういう時ステータスとか見えると助かるんだけどねぇ…………」
「あんないい加減な数値でその人の何が分かるのやらとは思うけど…………」
和花はそう言ってちらりと壁掛け統計の方に視線を移す。
「ところで、渡せたんでしょ?」
本日中に三人に婚約の申し込みをするというミッションを完遂するには残り時間を気にしなくてはならない。恐らく壁掛け時計の方を見たのは恐らく本日の残り時間が少ないので本題に入れという事だろう。
「アルマのお勤めの同伴とかも策略でしょ?」
「策略は酷いなぁ」
そう言って苦笑いを浮かべる。
「樹君が重婚には否定的だったし今日の真偽を見てやっぱり辞めたって可能性も考えていたんだよ」
「確かに複数のパートナーを得るのは色々大変だとは思ったよ。情報過多な僕らに比べてこっちの人らは狭い情報世界で生きているから異なる常識にたいして拒絶反応がでるんだとは思う。こっちの世界で生活する以上は外から来た僕らが出来る限りこっちの世界のルールに寄せたほうが面倒が少ないだろうね」
「そうね」
「僕は恋人の愛情は一身に受けたいし、自身も一身に捧げたい派閥だったんだけど…………」
「それは知ってる。でも私とアルマと瑞穂ちゃんが樹君の唯一のパートナー枠を巡って嫉妬しあっていがみ合ってる姿を見て『やれやれ僕ってモテて困ったな』とか思って喜ぶタイプでもないでしょ? お互いの人格とか空間を尊重して十分やれると思ったから独占は辞めようと思ったのよ」
「僕も研究や鍛錬とかで邪魔されたくない時間というのは欲しいし終始べったり拘束されるのはたぶん疲れちゃうと思うんだよね」
「ある意味私たちは似た者同士でもあったのよ。だから話があっさり纏まったの」
そしてチラリと壁掛け時計に視線をやる。そろそろ切り出さないと駄目そうか…………。
[魔法の鞄]から小箱を取り出し蓋を開ける。
「僕は栄光も賞賛も必要ないしただ高みを目指したい。そこに和花も着いてきて欲しい。和花だけを生涯愛すると言えなくなったことだけは許して欲しい」
和花が無言で左手を差し出すので手を取りその甲に口づけをし腕輪を嵌める。
「ま、こっちの結婚観は日本帝国人とは違うからねぇ。あくまでも日本帝国人として生きたいなら柵を全部捨てて暮らしましょう。社会常識や文明レベルも違うし仕方なし。私は後悔してないからもうこの話は辞めましょ」
「分かったよ。確かに和花らの決断に対して僕のエゴを押し付ける感じで良くはないね」
「それにしても数日籠ってこれ作ったんでしょ? かなりの一品な気がするんだけど」
「そうだね。ちょっと神懸った出来だと思う。同じことをもう一回やれと言われても出来ないと思うよ」
その言葉に和花が少し思案する。
「それじゃ四人目は娶らない? 家とかどうしようか?」
結婚する際に家を買う訳だけどその管理責任は奥さんが担う。富裕層とかだと奥さんが家令や侍女長を指揮して家の管理維持を行う。奥さんが複数同居が嫌われるのが命令系統が複数に分かれる事と使用人の間で派閥化する傾向がある事だ。
こういった事を避けるために普通は他の奥さんは家の管理に口出しできない事にするか同規模の家を購入し夫側が通い婚する形となる。
「うちはどうしたもんか…………。」
暫し思案する。
「結婚式はどうせ終末戦争とかが終わってからでしょ? 当面は冒険者稼業が主流になるから屋敷を用意しても不在だし全権代理人を立てる形になるのかしらねぇ?」
「そのあたりはメイザン司教あたりに相談かな?」
「それが良いかもね」
さて、あと何かあったかなと思案していると新年を告げる大鐘楼の鐘が鳴り響く。
「「明けましておめでとう。今年もよろしくね」」
見事にハモってしまい互いに見つめあい吹き出してしまう。
ゲームのステータスって戦闘システムの為の数値過ぎてリアルに寄せるとなんか辻褄が合わないんですよねぇ。人間の能力ってそんな単調じゃないじゃんって。




