608話 年末最後の大仕事⑤
最後の一枚を流し見するとわざわざ分けておいた理由が分かった。
先祖帰りではなく極わずかに血統が生き残っている本物の神人族の男の子である。
年齢は15歳。 12歳の時に二次性徴が始まっているので種族特性で一旦肉体的成長を止まっている。
才能に関しては検査結果を見る限りではたいして努力もせずに何をやらせても一流になれるレベル。一番助かったのは公用交易語をきちんと読み書きと会話が可能であった事だ。
場所は分からないが隠れ里が神聖プロレタリア帝国に偶然発見されてしまい戦闘になった際に戦火に曳かれた終末のモノが乱入する形で混沌と化した戦場跡で彼は発見された。その時には右腕と左脚を失っていた状態であった。
他の子らは目が死んでいる子が多い中で彼だけは生きる気力があり、恐らくその原動力は復讐なのだろう。
「彼はいま話せそう?」
「先ほどまでは起きていたからたぶん大丈夫かと思うよ」
キーン先生の許しも出たので神人族の子の側へと移動する。
「喋れる元気はあるかい?」
神人族の子は肯首すると僕を眺めて一言
「あんた若いな」
そう感想を述べた。
「君よりは年上のはずなんだけど。ところ今の状態は理解できている?」
「あんたが俺のご主人様でいいのか? わざわざ再生治療まで施して俺に何をさせたい?」
こちらの要求をきちんと理解しているようで助かった。
「まずは強くなってもらいたい。それも騎士として」
「…………」
僕が彼に求めているのは英雄として活躍できそうな人物だ。最近は僕の周囲も煩くなってきたので新しいいけ…………素晴らしい才能の若人を世に送り出したいのだ。
僕の活動から目をそらすためにもね。
「それであんたに何の利益がある?」
「そうだねぇ…………僕の活動に注視している者から目を逸らしたい」
「要するに道化師を演じろと?」
「言い方は悪いけどそうだね」
「俺は処分奴隷ってヤツで人格権すらないのだよな? ただ命令すればいいじゃないか」
「それで意味がないし、そもそも僕の主義が許さないからダメ」
「ダメって…………」
「とにかく必要な教育や装備はこちらで用意する。君には若き英雄として脚光を浴びて欲しい。栄誉も賞賛も僕はいらないので君が享けるんだ」
「意味が分からない。男なら栄誉も賞賛も欲しいものだろ?」
意味が分からないって表情してるのが分かった。
「僕はね。高みを目指しているんだよ。それには栄誉とか賞賛とかの付属物が非常に邪魔でね」
この付属物とは婚姻だったり人付き合いなども含むんだけど、これがとにかく煩わしい。
「もし、俺が断ると言ったら?」
明らかにこちらを試すような表情であった。
「その時は君にはかかった経費分だけ労働で返してもらって開放するよ。仕事は雑役だけどね」
「は?」
「雑役の稼ぎで経費を返すのは結構大変だよ。最短でも10年は拘束される」
「俺がどういった存在かは分かっているんだよな? たかが10年程度なんてどうってことないぞ」
「たまたま助けた子が素晴らし逸材だったから提案しただけだよ」
「…………」
そのまま黙り込んでしまった。
一限ほど経過しただろうか神人族の子が口を開いた。
「俺の名はヴァルクスだ。あんたの名を教えてくれ」
「ヴァルクスか。僕は高屋樹だ。受けてくれると思っていいのかな?」
わざわざ名乗ったという事は恐らくそういう事だろう。
「ところでこれからはどう呼べばいい? 高屋、樹、ご主人様?」
「樹さんで良いのでは?」
これまでのやり取りを聞いていたキーン先生がそう口を挟んできた。
「そうだね。一応ここの共同体責任者は僕なんでそれでいいかな」
「分かった。望み通り樹の道化師を引き受ける」
物わかりのいい子で助かった。
「再生が終わるまで一週間ほどかかるはずだしそれまでゆっくりしててよ。その後は衰えた体力の回復とか実力を見せてもらったりとかあるし」
それだけ言うと踵を返して部屋を出る。実は時間がないのだ。
後に話くらいで次の話に行けそうかなぁ…………今年中に間に合うか?
日本名をカタカナ表記にするか毎回迷う。




