64話 調子に乗ると
2019-07-07 誤字修正
平服に着替え広場というか演習場に戻ってみると櫓というか整備台が取り払われ駐騎姿勢の二騎の魔導従士と一騎の魔導騎士がいる。
座学で聞いた知識を思い出す。
駐騎姿勢の魔導従士は天面などにも装甲が施されていることから重装型と呼ばれる戦闘用の騎体のようだ。魔導騎士の方は二次装甲を外しているようだが、全長からすると中量級と呼ばれる最も普及しているタイプだろう。
「誰かこいつに乗ってみるか?」
魔導騎士の腹部にある操縦槽の開いた開閉扉を乗るかと師匠が指す。
「俺がいきます!」
真っ先に手を挙げたのは隼人だった。
魔導騎士の足元に居た使用人が梯子をかけるのを待ち隼人は操縦槽へと登っていく。実に楽しそうな表情だ。
師匠から説明をされいざ起動となったとき、拡声器越しにこの世のものとは思えない絶叫が上がった。
「あ、やっぱダメか」
師匠がそんな事を呟いている。
使用人たちが隼人を搬出しているのを眺めつつ師匠に理由を問うと…………。
隼人の身に何があったかを端的に言えば脳核ユニットとの精神接続に失敗したんだそうだ。
この精神接続だが品質の高い脳核ユニットほど細やかな動きができる反面、人によっては脳内をかき回される感覚に陥り拒絶反応を示すらしく、通常は品質の低い脳核ユニットで慣らすそうだ。貴族などは10歳あたりから魔導従士に搭乗させて慣らし成人までに魔導騎士に適合させるように訓練を施すそうだ。
師匠曰く、「異世界人ならいけるかなって思ったけどダメだったな」いう割とひどい理由だ。
魔法の適性と比例するという研究結果もあるそうなので僕か和花ならいけそうだろうか?
「師匠、次は僕が」
そう名乗りを上げた。まさか和花を実験台にはできない。
梯子を登り操縦槽を覗く。
「思った以上に狭いな…………」
それ以上に予想外だったのがてっきり完全密閉かと思ったが、ところどころ隙間があって外が見える事だ。傍にいた師匠の説明によると衝撃で映像盤が割れた場合は隙間から外の状況を確認して操縦するらしい。
そのせいか稀に隙間から狙撃されることがあるそうだ。
高級機になると完全密閉で空調機完備の騎体も存在するという。
さて…………先ずは起動させてみよう。
座席に座り固定帯で身体を固定する。次に専用の兜を被り操縦桿を握り、操踏桿に足を置く。
「あれ?」
まだ起動キーとも言うべき感応器に触れてもいないのに体内保有万能素子が吸われる感覚と心肺器が動き出し血液が循環しだす。
「樹、お前興奮してるだろう?」
師匠の言う興奮とはもちろん性的な意味ではない。
精神の高揚を示すものだ。それは間違っていない。起動したが特に脳に干渉されているという感覚はない。それを師匠に伝えると…………。
「お前さんは稀に見る逸材だな。騎士の精神の高揚が未起動の騎体に伝わって勝手に起動したんだよ。冒険者なんぞやってるより、手持ちの資金で中古の騎体を買って自由騎士にでもなってどこかの貴族に拾ってもらった方が安泰かもしれんぞ」
師匠はそこで一旦言葉を切り、「動かしてみろ」そう言うと開閉扉から飛び降りた。
先ずは駐機姿勢から立つことをイメージする。右の操踏桿を踏むことで立ち上がる速度を調整できる。左右の操縦桿を小刻みに動かし上半身の平衝を取りつつ直立姿勢となる。
「ちゃんと開閉扉を閉めておけー」
集音器が足元にいる師匠の声を拾う。
そーいや忘れていた。
密閉型の操縦槽は開閉扉を閉じないと映像盤や情報盤が見えないのだった。
開閉扉を閉じるように意識すると勝手に開閉扉が上がり施錠された。
「おー!」
映像盤に映る光景が見慣れぬ視点へとなる。目線の高さが1.75サートほどになるのだ。普段より遠くを見渡せる。 単純計算で2.5サーグほど先まで見通せる事になる。
ただこの騎体…………安物っぽいのか眼球ユニットには望遠機能はないようである。
好きに動かしてみろという師匠の許可も出たので歩いてみることにした。
程なくして走る事も出来るようになったので、以前座学で習った魔闘術に挑戦した。
最初は右手の拳に魔力を集中させる【練気】から始めたのだが、体内保有万能素子を練り始めた途端に得も言われぬ不快感と激痛に襲われる。
最初は何事かと思ったが自分が浮かれていて肝心なことを忘れていた事に思い至った。
「そうだ。導管を痛めたから使わないように言われてたんだった…………」
すぐさま体内保有万能素子を練るのを止めると不快感と激痛は消えていった。
導管という霊的器官の損傷具合は目に見えないし回復具合も判りにくいので注意しろと言われていたことを思い出す。
魔闘術がダメなら武技を試そうと思い【疾脚】を行おうとイメージするも騎体が追従してくれない。
身体で覚えている動作と僕のイメージがイマイチ噛み合っていないせいだ。
何度か転びそうになりながらもチャレンジすること五分ほどでうまく調整できたのかイメージ通りの動きが出来た。
ならここは更なる大技【八間】だと思い実行しようと思ったその時…………。
虚脱感と共に崩れ落ちるように前のめりに倒れていくのを認識した。




