603話 受け渡し
「準備は出来ているかい」
「はい。こちらが装備一覧となります」
そう答えて部隊の詳細資料を手渡す。閣下は無言で読み進めていくと目線があるところで止まる。
「こいつは使えるのかい?」
資料のある個所を指しそう問う。その項目は中隊に付随する偵察小隊に配備した騎体であった。恐らくうちが初だろう。
そいつは最近発表された5騎の簡易飛竜騎であった。やや大型の幼竜と飛竜を掛け合わせたような形状をしている。尻尾まで含めた長さが3サート、大きな翼は翼長4サートとなる。推進方法は胴体後方に埋め込まれた二騎の噴孔推進機関だ。
高度375サートを108ノードで巡行しその特別な眼球ユニットは映像盤に拡大投影できる。カタログスペックでは最大速度206ノード出せるが風防を取り付けて前屈姿勢で搭乗するとは言っても騎士が耐えられない。
「2騎は予備騎になります。運用試験も兼ねていますので魔導機器組合の専門魔導機器技師が随行します」
「なるほど…………こいつは戦闘とかは出来そうなのかい?」
「魔導騎士相手に接近戦は無理でしょう。騎体の軽量化の為に二次装甲は硬革製です。口内に火炎放射器を搭載。オマケ程度に存在する前腕に鋼刃糸、胴体内弾薬庫に対地用の鉄球弾を搭載、鞭のようにしなる長い尻尾は打撃武器としても使えます。あと防御装備として発煙弾発射機があります」
「なるほど…………あくまで上空からの偵察任務が主となるのか」
「そうですね。航続距離も1250サーグほどあるので早期発見に貢献できるかと」
「なるほど…………。ところでこれは?」
あらためて示された項目は伝令小隊に配備した騎体だ。軽装型魔導従士の属する騎体で装甲を極力減らし脚部を逆関節、所謂鴕鳥足にした騎体で跳躍力と速力に特化した騎体である。高さ7.5サートの障害物を飛び越え、時速54ノードで草原を疾走する。
「最近軍に納入が決まった騎体ですね」
「なるほど、運用試験にかこつけて特権で手に入れたのか」
僕は無言で肯首する。
「あとは…………わざわざ用意してくれたのか」
閣下の示した項目は従軍神官たちである。戦場では居るかいないかでかなり環境が変わる。
「たまたま当共同体に人を派遣したいと名乗ってくれたところがありまして…………」
「やはり有名共同体だけあるという事か…………」
「ところで、この魔導騎士と魔導従士だが、知らない騎体名だな。これも新型か?」
「我々の戦闘方法に特化させた特注騎ですね。お見せします。こちらへ」
そう告げると歩き始める。
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「中量級か。それにしても随分と薄いな…………」
初見での閣下の感想であるが、これに関しては防衛軍のおじさんらは等しく[高屋流剣術]を習得しており打刀ないし軍刀を装備しているので戦い方に合わせた結果が軽装甲で運動性に特化した騎体となった。
外装は日本の大鎧の模しており左腰に打刀と脇差を装備している。騎体追従性を優先するためにかなり高価な脳核ユニットと神経節を使用してる。他は現行技術の範疇だ。騎体名を鴉と言い名の通り漆黒の騎体である。
「ところで肩に掛けているあれは銃かね?」
「遺跡でよく見かける魔力銃を騎士サイズにしたものであれも検証品です。終末のモノや神聖プロレタリア帝国の狂信者は倒すと自爆するので遠距離から倒す手段として用意してもらったものです」
「なるほど…………我々も配備を検討する必要があるな。予備があるなら少し融通して欲しい」
融通して欲しいとは以前とは対応が違うなぁ。強引に行けば逃げられるから下手に出ているのかな?
ま、そういう話は来ることは想定済みだったので用意はしてあるが…………。
「承知しました。倉庫にある20丁ほどを融通します」
「それとあの酒樽みたいなのはなんだね?」
魔導騎士の後ろに立つ魔導従士である。被弾経路を考慮し地霊族のような体型となった騎体である。重装型の魔導従士で膂力と防御力と耐久性に全振りした騎体だ。騎体名を酒樽とした。
「武装としては壁盾を装備させます。基本的に攻撃には参加しません」
現在の魔導騎士は戦闘時の最大稼働時間が四半刻程度なので補給などで下がった際の戦線維持用を目的としている。武器としては魔力銃と一体化した騎乗槍を装備している。
「閣下としては目立った方が良いかと思い可能な限り周囲と違うように心がけました。いかがでしょうか?」
「なかなか良いな。報酬は事前の取り決め通りで良いのだな? 普通に考えれば損だと思うのだが」
「閣下に着ける者たちは冒険者という安定しない肩書より臣下騎士やその家臣を望んでいます。そういった面子で構成しました」
「そうか。なら良い。ところでこの移動指揮所とは何だ?」
やはりそこに食いついたか。
「あれですね」
そう答えて箱型の魔導輸送騎を示す。簡易型の[神の視点]と[遠話器]を装備したHQ、要するに移動司令部である。
モンキーモデルを例の島で作成しその仕様を魔導機器組合に売り払ったのでそのうち量産されて軍に配備されるだろう。
他にも自動調理器を装備した移動調理所や遺跡で発掘したという設定の治療ポットを装備した移動診療所が付随する。
一通り節目を終え中隊長以下総勢85名との顔合わせを行い昼過ぎに出立していった。
これで面倒事が一つ終わった。そして同じような編成プラス工作部隊が姫将軍の元へと出発し今年の仕事はほぼ片付いた。
年が明けたら僕らは残った仕事を二つ片付ける。竜王国エルマイセンへの使者と魔獣討伐である。
・硬革は薬品やニカワなどで煮込んで硬化処理を施した所謂ハードレザーアーマーと同じ素材である。
・脳核ユニットの性能が低いと騎体追従性が落ちる反面で多少人型から外れても乗り手に悪影響は出ない。
・軽量級の魔導騎士でも平地での走行速度は22ノードくらいである。




