601話 何事も予定通りにいかない②
PCの不具合で執筆用の資料が飛んだ。
「これは赤の帝国の模造品…………のように見えてもっとひどいなぁ」
報告書を最後まで読み終わって思わずそう零してしまった。運用方法はこうだ。騎士として適性が弱い者を生体ユニットとする点は赤の帝国の[赤騎士]と同じである。腰や足の末広がりの裳のような部品が気になっていたがアレは浮揚滑走推進器であり一定の高さに浮き上がり高速で移動するための装置であった。速度は走って際のおよそ四倍ほど、54ノードにもなる。大型の騎乗槍を装備させ前面に厚い装甲を被せて高速移動による大質量高速移動による突貫攻撃をさせるつもりのようだ。
この世界の魔導騎士は機械ではなく人体を拡張した半生物であり騎士は操縦するのではなく自身の分身を操るように思考して動く思考制御型である。
操作方法として単純な操作は補助脳核ユニットに刷り込んだ動作のために優秀な騎士より素人同然の方が良いとの事であった。
そう思うと同じ技術で戦車や戦闘機を作ったほうが良いのではと思ったのだけど一応過去には存在したそうだが大昔は魔導騎士は魔術師でもあった。人型でないと人体の動きを模倣できない為に魔術や複雑な動作が出来ない事と生産性の問題で廃れていったという。でも多脚戦車など動作を単純化させるなら利用価値があるようで生産は出来なくなっているが発掘品が結構利用されている。
現在の騎体でも魔法が使えなくはないが増幅機能の技術が再現できていないのでほとんど使えないに等しい。
うちの共同体の若手は魔導機器を取り扱える者が多く殿下としては丁度良かったのだろう。兵士または騎士になれると思って志願したようだけど単なる使い捨て要員とは…………。
なんていうかこの世界の住人って教育や情報を制限する事で判断力を制限し為政者たちにとってコントロールしやすい存在にされているなとあらためて思った。
いまさら人員を返せと言ったところで彼らは自主的に辞めていったので僕らにどうこうする権利はない。可哀想だけど頑張って生き残ってくれ。
そう考えると師匠の運営する孤児院である茨の園から来た子らは優秀だなぁ…………。一人も欠けていない。
その後は半刻ほど雑談交じりで話が二転三転していく。
「そうだ! 忘れてたわ」
そう言って懐から何か色とりどりの物体が入ったガラス瓶を取り出す。
「口を開けて」
言われた通り口を開けると何かを放り込まれる。
「飴?」
こっちの世界にも飴自体はある。庶民向けの水飴、富裕層向けの固飴がある。これは固飴の方だ。
僕らの共同体でも常備しており特段珍しくもない。お礼を言って舐め始めると単なる固飴出ない事が分かった。
「これって…………」
簡易魔法の工芸品の類か? いや食品系だから水薬の類か。
「気が付くのが早いなぁ…………。疲労回復の効果があるの」
「なるほど…………でもなんで固飴なの?」
「水薬は即効性がある反面非常に高価で手が出にくいけど、このこの固飴は効果は弱いけど低価格なのよ」
使い道としては移動が多い冒険者や商人向けだという。移動の大半は徒歩か馬車になるのでその疲労を翌日に残さない効果があるという。
「なるほど…………商人組合に権利を売るの?」
和花の性格だとその辺に売っている新商品であったらこんな手段はとらないはずだからだ。
「そのつもりよ。うちで生産できる量には限度があるしせっかく低価格化を目指したのに希少性のお陰で高額になったら意味がないからね」
「いいと思うよ。契約方法とかはメイザン司教に任せようか」
「そうね」
そう言うと唐突に僕の髪を撫で始めされるがままになっているとその手は顎の方へと…………
「そういえば、樹くんは髭ないのね?」
健司やこっちの若手も毎日髭剃りしてるもんなぁ…………。
「剃るのが面倒で【脱毛】したんだよ」
生活魔術の中でも結構高度な魔術である【脱毛】で毛根ごと消し去ってやったのだ。
「まぁ~樹くんには髭は合わないし…………でもうっかり失敗とかしなかったんだ?」
この【脱毛】は人差し指を剃刀のように肌に充てて脱毛範囲をなぞっていくのだけどうっかりミスって予期せぬところまでやってしまうケースがあるという。
「流石に失敗したら常時【変装】を使ってたよ」
「それもそうね」
二人してひとしきり笑った後に身を起こす。
「もういいの?」
「満足した」
「ならいいわ」
応接室を出て緊急の幹部会議を招集するように使用人に告げると会議室に向かう。
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「遅くに済まない」
まずそう切り出す。
最初の話は人員が大幅に抜けたことによる魔導輸送騎を用いた輸送代行業務のスケジュール変更の確認であった。
これに関しては元々人員に余裕があった事もあって問題なく変更が行われ依頼人たちにも通達済であった。
次に騎士の派遣である。当初は姫将軍のところに派遣する予定であったが他にも王太子、もとい子爵閣下に随伴する一個中隊が必要になったので希望者を募集する。
これに関しては希望者が多いとの事で中隊長を選出して残りの面子は中隊長に一任とした。装備に関してはハーンにすぐにでも準備させる。
魔獣退治に関しては事前調査も兼ねて先発隊として30名ほど年内に送る事が決定し人選は雲龍三等陸佐に一任した。人選に漏れたものは当面は通常業務に徹してもらう事になる。
例の島で同化訓練中の高屋家の最精鋭に関してはまだ時間がかかるので今回は保留。ただし現地への同化訓練が完了した者から豚鬼らの国である|ルジャーナ帝国への調査を頼む予定である。
僕ら冒険者は魔獣退治に参加するがその前に竜王国エルマイセンへと親書を持っていく。危険地帯を通過するので人数は最小限に絞る予定だ。
因みに次元潜航艦は使わない。
代わりに接収されても惜しくないモノを用意した。
全長50サート、最大積載量120グランを誇る超巨大飛行魔導輸送騎である。
まぁ~見た目は硬式飛行船なんだけど。
その後は細々とした打ち合わせが続き解散した。
さて、アルマに例の件の相談をしなくては…………。
現在の技術レベルでは騎体に搭乗して魔術を使用出来るが、騎体が使用する魔術を認識できない為に効果の拡大が行われない。
例として術者に効果のある【飛行】を例にとると現在の騎体は術者には効果があるが、騎体には適用されない。これが昔の騎体なら術者が自身に効果のある魔術を使うと騎体にも適用される。
また【火球】なども威力や効果範囲が増幅されるの。
目的を単純化させれば現在でも生産自体は可能。自動工場もあるし。
いちおう創成魔術に【育毛】は存在するが…………。




