598話 寄り道⑦
この場に居た子供たちは争った形跡もなく一撃のもとに仕留められていた。五体は満足だが左の肩甲骨あたりから真っすぐ心臓へと刃物を突き下ろした感じだろうか? 仕事人過ぎるな…………。
「この人まだ息がある!」
そんななか瑞穂が珍しく声を張り上げ【治癒】を唱え始める。そのおかげか回復は辛うじて間に合ったようだ。
唯一生き残った子だが片腕を欠損しているのでこれが最年長の子だろう。刃物は心臓に届いていたと思うがどうしてだろうか? 気になって仕方なかったので、【生体走査】所謂解析魔術まで用いて調べた結果驚くべきことが分かった。
「臓器が左右反転してる稀有な子かぁ…………」
「運が良かったというべきか悪かったというべきか…………」
エルトシャンがそう口を挟んできた。確かに世界準拠だと死んだほうがマシという展開は存在する。未成年、片腕を欠損、見た感じは女の子に見えたが男であった。容姿はこの世界水準であれば結構いい方である。ただし男の娘として活動するならと但し書きが付く。身体の線が細くこの世界の男性に求められている体力はないだろう。
スリの娘、リリィは慟哭後は呆然と成り行きを見ていた。
「あたしに使った薬はない、の?」
言うと思ったんだけど「ないよ」と反した。本当は瑞穂の取り分があるのだけど流石に釣り合いが取れないし世の中は絶対に平等じゃないのだ。
「でも助かったんだよね?」
「きちんと面倒を見れば回復はするよ」
こう答えたがここに置いていけば間違いなく死亡するだろう。然るべき場所で回復させた場合は回復する。
「なぁ。あたしは奴隷としていくらで売れるんだ?」
そう問われて僕は暫し考えこう回答した。
「奴隷法はどういう労働をどれくらい行うかで価格が決まるんだ。君に何が出来る?」
少し考えこむ。
「体力と足の速さと手先には自信がある」
「後は?」
「物覚えは良いほうだ」
魔導速騎も乗れるようだし街中での郵便業務要員も考えたが共同体の縮小を考えているので余計な人員はあまり欲しくない。
「よし。黒の偽勇者に投げよう」
すぐさま転移で西方の拠点に飛ぶ。
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「それで俺がこの娘の面倒を見ればいいのか?」
「うん。好きでしょ。小さい娘」
「語弊のある言い方をしないでくれ。たまたまだ」
他人はそんな事は信じないと思うなぁ…………。だって君のところって小さい娘しか居ないじゃん。
「条件がある」
黒の偽勇者がそう切り出してきたのでどうぞと促す。
「金を稼ぎたい。一党の装備を改善して欲しい」
ん?
おかしいな。それなりに高品質の装備を宛がったはずだけど…………
「どこまで潜ったの? 与えた装備なら地下一〇階くらいまで困らない筈だけど?」
「実は――――」
黒の偽勇者が話した内容は迷宮が変異しており当初の想定通りの難易度ではなくなったことが要因なようだ。
地下五階で武装した豚鬼かぁ…………
一度潜って難易度の適性を見直してみるかな。だが僕らは時間がない。誰か信頼できる者に頼むかぁ。
魔獣退治に教導業務、運搬業務とあるから…………予定通りに進んだことがないなぁ。一度戻って面子の再編とかも考えよう。
「装備の件に関しては調査隊を出すからその結果次第という事で。それまでは――――」
僕はそう言って[魔法の鞄]から硬貨袋を取り出し手渡しする。
「そこから生活費を出してて待機しててよ。それか浅い階層で訓練でもするか」
くれぐれも憐れんで処分奴隷とか買い足さないでね。とだけ忠告し黒の偽勇者の元にリリィと男の娘は置いて転移で戻る。
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「ただいま」
「お帰りなさい」
僕ひとりで戻ってきた事で察したようで瑞穂からそれ以上の言葉は出なかった。
隠れ家からは遺体が消えていた。遺体は[魔法の鞄]に放り込んだとの事だ。町で死体の取り扱いは結構うるさく土葬は基本時に禁止だし火葬は事前に許可が居る。
面倒事は嫌なので僕らはこのまま十字路都市テントスの拠点に戻ることにした。
時間調整と休暇もあったため魔導列車の特別寝台車を借りてエルトシャンさんの旅の話を聞きつつ数日かけて十字路都市テントスに到着した。
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「やぁ。おかえり」
共同体拠点に戻ってきて僕を出迎えてくれたのか寄りにもよってコニグ・デア・ウィンチェスター子爵閣下であるという悪夢。嫌な予感しかしない。
今月中にもう一話間に合うか?




