596話 新たな出会い
「あんたたちもこのガキに用事かい? 悪いがこっちが先約だよ」
やっぱりトラブルに巻き込まれたかと思っているとおば…………女傑がこっちを見ずにそう問いかけてきた。
「大した用事ではないけど見逃すと後味が悪いのでね」
努めて冷静にそう答えた。僕は表情にでるとの事なのでどう受け取るだろうか?
「あぁ、そうかい。ならその場で尋問ショーでも楽しんでおくれよ」
女傑はそういうと杖を捻る。すると長さ10サルトほどで分離し残りはカランと地面、石畳
に転がる。
棒状のモノから光が伸びて正体が明らかになる。光剣ならぬ0.5サートほどの光鞭であった。
それを振り上げ踏み付けていたスリの娘の背に振り下ろす。粗末な筒型長衣が裂け背の皮が裂け血飛沫が舞う。少なくても屈強な男が数発で泣き叫んで許しを請うレベルの鞭打ち刑に使われる鞭に匹敵するようだ。
子供に振るっていいものではない。
思わず腰の光剣に手が伸びるがそれよりも早く足元の石畳が穿たれる。
前装式の燧発式銃ではこんな威力は出ない。最低でも赤の帝国の竜騎兵が持つ騎兵用小銃ないし鎖閂式小銃あたりだろうか?
だけでいつまでたっても発砲音が聞こえない。発砲音を完全に消す魔法の工芸品の消音器だろうか?
僕の右前に居る瑞穂が後ろ手で手信号を繰り返している。方向と凡その距離のようだ。
さり気なく周囲を見ると――――
なるほど。確かに絶好の狙撃ポイントがあった。魔戦技の【鷹目】を発動させると確かに煉瓦造りの崩れかけた塔から僅かに人影が覗いていた。恐らく観測者だ。銃口が見えないあたり結構手練れかな?
いまの一撃は警告だろうから次は当てに来るだろう。彼らが僕らを生かしておく理由は特にないしね。
威力に関しては全身の魔法の工芸品と魔戦技の【魔鎧】か【魔盾】で初撃は往なせると思う。
瑞穂には足音で合図を送る。
おば、女傑は楽しげに光鞭を再び振りあげると一呼吸おいてから振り下ろす。再び血飛沫が舞った時に僕は歩法【八間】で一気に間合いを詰めていた。後ろで着弾の音が聞こえた。
女傑も左手を後ろに回すと黒光りする拳銃を抜く。かなりの早撃ちのようで銃口が僕の方に向いている。
引金を引くを割素化に早く僕は左手を盾にする。【魔鎧】の効果で銃弾は相殺されポロリと地に落ちる時には僕の右片手平突きが女傑の喉元に付きつけられていた。
「…………」
暫し無言で対峙していると僕の耳が高音を捉えた。それが女傑にも聞こえたのか壮絶な笑みを僕に向ける。
「なかなかスリルがあって楽しかったよ坊や。用事が済んだからそいつは好きにしな」
そう告げると光鞭を元の杖に戻してスリの娘から離れる。まるっきり僕らを警戒していないかのように振舞っているが恐らく別の狙撃手が居るのだろう。
やがて何処からともなく幾人かの男たりが現れ女傑に付き従っていく。
あいつらの気配を感じなかったぞ…………。
そのまま去っていくかと思った女傑だが立ち止まり振り返るとニィっと笑みを浮かべこう言った。
「そうそう名前を名乗ってなかったね。あたしらは西方を拠点に活動する駆除屋の共同体白き薊のエカテリーナ・ク・ヴェルホフスキー。以後お見知りおきを。竜殺しさん」
そして高らかに笑い去っていく。
姿が完全に見えなくなってから僕らはほっと息をつき緊張を解く。
「エルトシャンさん。すみません。余計なトラブルに巻き込んでしまって…………」
「いや、私が勝手に首を突っ込んだのだから謝罪は無用だよ。それよりあの娘は…………」
そう言って視線は倒れ伏しているスリの娘へと。
既に瑞穂が【快癒】を施しており傷ひとつない。
「ショック死とかしてない?」
人は外的性ショックで結構あっさり死んでしまう。これまでの負傷から死んでいても不思議ではないが…………。
「生きてる」
瑞穂から簡素な答えが返ってきた。
あのおば、女傑は僕の事を知っていたのか…………。
さて用事は済んだとの事だけどどういう事だろうか?
しかし白き薊って名乗って北方民族と事は神聖プロレタリア帝国に滅ぼされた国の生き残りかな?
白は雪や氷、北方を指し、薊は復讐や報復を指す。
それが何でこんなところに居たんだろうか?
薊=キク科アザミ属の総称で別名はアザミナとかトゲクサ




