表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
670/678

595話 寄り道⑤

「例のですが逃げられてしまいまして…………誠に申し訳なく…………」


 ゆっくり休もうかと思ったけど習慣で日の出の時間には目が覚めるてしまった。身支度を整えて併設された食堂(トリクリニアリア)に赴くと土下座しそうな勢いの総支配人トイミタスジョタッジャーにそのように報告された。スリのは逃走防止として施してあった【永久の眠り(スリープ)】を解いていたとはいえかなりの出血であり流石に逃走は無理だろうと思ったのだけど考えが甘かったようだ。


 当人からすれば知らない場所に捕獲されて不安ではあったのだろう。背景事情を聴きたかったけどたいして縁もないしわざわざ見知らぬ土地で探すほどでもないかと思っていると…………。

「どうしたもんか…………」



「わたし、多分判るよ」

 いつの間にか隣に居た瑞穂(みずほ)がそう呟いた。

「判るのかぁ…………」


 正直に言えば僕らが帰った後にスリのがどうなろうが気にも留めなかっただろうけど、流石に何かあると後味悪いかなと悩みつつ土地勘ないから見つからないだろうし――――とか思考がグルグルとしていた所へのこの一言である。

 これで探しに行かないのは流石にねぇ…………。


 面倒事に巻き込まれない事を祈りつつ瑞穂(みずほ)に案内をお願いする。

「任せて」

 フンスと鼻息荒く答えると支度の為に部屋に戻る。

 僕も厨房に外で食べられるような食事を作ってくれとお願いしに行く。



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲



 支度を整えて宿屋(ロキャンダー)を出る事四半刻(三〇分)

 瑞穂(みずほ)は都市の狭い路地を北方面へと足早に歩いている。時折振り返って僕らの姿を確認しつつ申告通り淀みなく進んでいく。


「どういう原理で追跡しているんだろう…………」

 瑞穂(みずほ)に関しては謎が多い。特に索敵能力が異常だ。


「あの精霊に愛されし子ビーン・エイム・ディ・レスプリットだからだろうね」

 僕の独り言に応えたのはなぜか同伴を申し出てきた森霊族(エルフ)のエルトシャンさんだった。

精霊に愛されし子ビーン・エイム・ディ・レスプリット?」

 思わず聞き返してしまった。森霊族(エルフ)語に近い気がするが初めて聞く言葉だったからだ。

(いつき)くんは妖精(アルヴ)族の成り立ちは知ってるかい?」

 そして唐突にそんな事を聞いてきた。


 確か妖精(アルヴ)族は始祖神(オーラン)が世界を想像した際に自然現象を管理させる役目として人間をベースに生み出したなどと言われているけど…………。ただしこれも諸説ある。

 そう答えるとエルトシャンさんは、

「真実は誰にもわからない事だけどね。なんせそんな大それた力はすでにないし」

 肩をすくめてそう答える。


 彼の話によると精霊に愛されし子ビーン・エイム・ディ・レスプリットは魔法的才能とは別に生まれつき精霊(バイム)と密度の高い意思の疎通が出来る稀有な存在という。

 今は魔法的才能を失った幼人族(リトナー)、もとい草原妖精(グラスレンディ)の昆虫や植物と疎通ができる能力に近いという。あくまでもこんな感じの事を主張しているのが分かる程度らしい。

「おそらくだけど様々な精霊の声を聴いているんだろうね。ここ数百年出会った事がなかったので興味深いよ」


 そんな話をしつつ低所得層の薄汚れた長屋通りを一刻(二時間)ほど移動し続けてると急に景色が変わった。豆腐建築な長屋街が途切れ廃墟が続いていた。いつの間にか瑞穂(みずほ)が立ち止まっていた。


「巨大生物の襲撃で破壊された跡地だね」

 この絶壁都市コンティーヌは西方(オクシデント)から巨大生物、特に巨大昆虫が防壁を越えて時折襲撃を受けるそうで特に機能が弱っている北部側はこんな状態の箇所が所々あるという。


「あのの年齢から鑑みてこの時間でこの距離を移動するのは無理だろうから恐らく魔導速騎(マギスピーダー)を盗んだのかもね」

「そうかもしれませんね」

 エルトシャンさんの言う通りだろう。出血もひどかったし体力も乏しい子供では無理がありすぎる。現役の僕らが早足で一刻(二時間)以上追跡しても追いつけなかったのである。


瑞穂(みずほ)。見失ったの?」

 そう質問すると無言で首を振る。やや動きが固い。


結界(バージャーラ)に入ったね」

 エルトシャンさんは結界(バージャーラ)と言った。結界(オビエックス)ではなくだ。


 結界(オビエックス)は魔法的な設置型の防護措置を指すが、一方で結界(バージャーラ)魔術結社メイジャーソシエティー間者(スペキュレーター)などが使う専門用語だ。情報などを漏らさない目的で使われる。腕利きの人員を配置し監視しているのだ。要するに袋の中のネズミである。


 瑞穂(みずほ)が緊張しているところを見るとかなりの腕利きだろう。


「ここは気にしていても仕方ないから進んだ方が良いよ。監視者にとって害がなければ見逃されるからね」

 エルトシャンさんの意見で再び瑞穂(みずほ)が動き出す。今度は早足ではなく普通の速度でだ。


 程なくして廃墟の広場でスリのを発見した。ただしこちらの想定とは異なる形でだ。

 破壊された魔導速騎(マギスピーダー)とそこから投げ出されたであろうスリの。そしてそれをヒールの高い革靴(ブーツ)で踏みつけている見知らぬ人物であった。


 その人物は僕以上に背があり鍛え上げられた肉体にウェーブのかかった長い金髪、鷹のように鋭い眼光の碧眼。所々傷などがある色白の肌。恐らく北方(スルト)民族だろう。右手に杖を持っているが元傭兵だろうか? 女傑と呼ぶに相応しい佇まいであった。


 その女傑がこちらを見てこう言った。

「あんたたちもこのガキに用事かい? 悪いがこっちが先約だよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ