63話 憧れのアレに乗る
2020-05-04 誤字脱字修正
「そういえば和花。最初に転移して時に居た竜也の取り巻きの女子が5人もいたけど、なんかこっち見て脅えてたように見えたんだけどなんかあったの?」
すこし前の光景を思い出す。父が来なければその場で確認しようかと思ってたんだよね。
「まー死んだと思い込んでたむかつく女がピンピンしてたんだから驚くんじゃないの?」
竜也と和花の組み合わせは、双方にメリットがあった。竜也からすれば高貴な身分の女性と付き合っているというステータスが手に入る。このステータスだが馬鹿には出来ない。人間って不思議で優れた人間と懇意があると分かると周囲の者はその人物を下駄を履いた状態で評価するようになる。だからこそ優秀な人物の側には人が集まる。恩恵を預かろうとしたりお零れを預かろうとする者が擦り寄ってくるのだ。それもあって竜也の元には人が集まった。
しかし和花の返しには違和感を感じる。あの五人の娘の瞳は驚きじゃない。間違いなく畏怖だと思う。彼女たちも体験しているからこの世界には蘇生の奇跡とか魔術があるのは分かっているはずだしどうも不自然だ。僕の知らないところで何か隠すような事があったんだろうか?
でも、今聞き出そうと思っても適当にはぐらかされそうな気がするし話してくれる日を待つしかないか…………。
「そうだ! 目が覚めたら先生が話があるって言ってたんだ」
いま思い出したと言わんばかりにそう叫んだが、多分話題転換の為だろう。
「みんな向こうで待っているんだよ。早くいこ」
そう言って僕の腕を掴みぐいぐい引っ張る。ますます怪しい。
そー言えば竜也の奴はどうしているんだろうか? 真意を聞いて友情は感じなくなったがそれも最初のころはまだ友達だったはずなのだ。
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皆の待つ場所に着いたら五つ櫓が組んであり、それぞれに魔導練習騎が固定されている。
そういえば操縦方法を教えてもらう約束していたなーとか思い出す。
櫓は簡易整備台だ。騎体が吊るされ固定されている魔導練習騎は全高1.25サート程で魔導従士より小柄だ。箱型状の胴体に手足が付いている。操縦槽が剥き出しで上半分は装甲がなく骨格がむき出しだ。頭部に相当するパーツが胸部につけられているのは魔導従士によくあるタイプだ。一次装甲のみなのはどういった理由だからだろうか?
「樹ー。遅いぞー」
僕の存在に気が付いた健司が叫んでいる。健司も隼人も既に操縦槽に座ってお預けを喰らっている状態の様だ。
櫓に登ればいいのだろうか?
勝手するわけにもいかないので師匠を待っていると、
「二人とも待ってたぞ。まずはそこの倉庫でこいつに着替えてこい」
そう言って師匠が投げ寄越した袋を受け取り指示通りに倉庫へと移動する。
袋を開け中身を確認すると…………。
「全身タイツ?」
取り出したそれは素材がよくわからないがかなり伸び縮みするようだ。ご丁寧に壁に身に着け方が載っているので見ながら着替えていく。この全身タイツのような騎乗スーツは下着の着用すら禁止で身に着けると体形が…………いや、なんか、裸より恥ずかしい。それに革製の防具を身に着けることで人前に出られる格好になる。
「待ちくたびれてる奴が居るからさっさと櫓に上がれ」
戻ってくるなり師匠に指示された。いそいそと櫓というか整備台に設置された梯子を上り操縦槽を観察する。
座面が堅そうな座席は簡素な背もたれが付いている。正面に映像盤、その下に計器類とスイッチが付き座席と映像盤の間というか両足の間に半球状の感応器と呼ばれる魔力を探知する装置、よーするにパッシブソナーのようなものらしい。
一通り観察し座席に乗せてあった専用の兜を被り座席に座り込み固定帯で身体を固定する。そうすることでバケットシートのような感じで身体が固定されるがほとんど動けない。これは衝撃防止の意味で必要な処置なのだそうだ。人型の胸部って結構激しく揺れる。そう考えるとロボットアニメのコクピットの慣性中和っぷりはチートだなと思う。
あれ? そういえばセシリーと瑞穂はどうしたんだろう?
周囲を見回してみるとこの演習場に隣接する野外炊事場で女中さんらと忙しそうに動き回っている。
師匠の指示で、まずは起動装置も兼ねている感応器に触れる。すると僕から体内保有万能素子を吸い取り足元の万能素子転換炉が唸るような音を立て始める。それと同時に若干の脱力感を覚える。
その後感応器と映像盤が光りだす。そして心肺器が動き出し冷却水管を血液が循環し始める。映像盤には外の光景が映し出されるが何か違和感を感じる。
あ、胸部にある眼球ユニットが見たものが投影されているから視点の違いか。
感応器には中央に光点があり左側に4つ光点が並ぶ。中央が自騎で左側の四つは他の騎体だ。
この状態でようやく動かすことが可能になる。
次に映像盤の下にある情報盤を確認する。これは騎体状態が表示される。この情報盤はタッチパネル式だそうで触っていると様々な情報が表示される。異常がない事を確認したのちに足を操踏桿に手は操縦桿を握る。
「問題がないようなら整備台から切り離すぞ」
師匠の声と共に整備台の固定具が外され伸びきっていた下半身に重量がかかる。
これでようやく動かすことが可能となる。
基本は思考制御方式との事なので歩きたいと思いつつ右の操踏桿を踏み込むと騎体の右足が上がり一歩踏み出す。右の操踏桿は速度調節や左右方向転換、減速や制動に用いる。左の操踏桿はというと左右の横移動と左右ステップと後進やバックステップだ。最初はかなり意識しないと歩くこともままならない。
脳核ユニットが専用の兜から騎手の思考を読みとり再現するというシステムなのだが、この脳核ユニットが曲者で品質によって再現度と追従性が大きく異なる。いま乗っている魔導練習騎は敢えて高級な脳核ユニットを使っているからそれなりに動くけど中古で出回っている安い騎体だと数テンポ反応が遅れたり細かい動きが出来ない騎体も結構あるらしい。
では、左右の操縦桿は何かというと、左右の腕部の大雑把な強弱と指の強弱である。
人体に似せているとはいえ構造の違いから騎体の可動範囲を覚えておくのも重要だ。更に二次装甲を付けることで可動範囲は更に狭まる。
その後、師匠の指示通りに四苦八苦しながら騎体を動かしていると急激に脱力感に襲われ操縦を止めてしまった。
「やっぱ、その騎乗スーツは余計だったか」
師匠の説明によるとこの騎乗スーツと専用の兜は初心者用装備との事で、適性が高い者や訓練でコツを掴んだものなら不要な装備なのだそうだ。事実師匠はいつもの平服だし兜も被っていない。
という事は初心者でこれだけ動けるという事は僕らはみんな適性が高いという事か。だがそれとこの脱力感の関連性は?
その疑問は次の師匠の説明で晴れた。
「騎体を動かすのに騎手の体内保有万能素子が必要だし、脳核ユニットとのやり取りにも体内保有万能素子が用いられる。今着ている騎乗スーツは効率よく体内保有万能素子を吸い出す機能があり、この脱力感は吸われ過ぎによるものだそうだ。
「適性は十分すぎるほどあるのは分かったんで、休息後は騎乗スーツは脱いで動かしてみよう」
師匠の号令でその場で駐騎姿勢、ようするに片膝立ちをとる。固定帯を外し立ち上がろうとすると結構ふらつく。周囲を見るとみんな同じ状態のようで順番に師匠が駆る魔導練習騎に抓まれて地面に下ろされている。
女中達に混じって瑞穂とセシリーが食事の用意をしているのをのんびり眺めていると僕も師匠によって地面に下ろされた。
「取りあえず着替えてこい。それからメシだ」
そう伝えた師匠は他の使用人にあれこれと指示を出す。
何故か魔導練習騎も片付けられていく。
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