591話 寄り道①
白鯨級改潜航艦に回収され一息ついた。
僕はといえばプリマヴェーラの【重傷治療】を受けている健司の元に居た。
「俺はダメだな――――」
健司は盾役と攻撃担当を兼ねるが後衛に竜牙兵を行かせてしまった事、無理に止めようとして背後からバッサリと斬られた事など反省点を口にしていた。
それに対して僕が言えたことは、今回は軽装であった事。健司の習得する[黄流闘術]は重い武器屠蘇防具を纏い巨大生物への一撃必殺を旨としており対人戦などでは二撃要らずなどと称される。単純に相性が悪かった。
そもそも盾役はゲームじゃあるまいし盾持ってどっしり構えてればいいなんてことはないし突っ立って挑発すれば勝手に集中攻撃してくれるわけでもない。相手も一定以上の知能があるのでそれをうまく読み取って自分に注目させるための立ち回りはそれなりに経験が必要である。
それなら瑞穂に鋼刃糸を網状に展開させた方が確実だろう。あれはそれなりに脳に負荷がかかるので多用は出来ないし健司には今後も頑張って欲しいと言った感じで励ますとも慰めるとも取れる回答を述べる。
「私の方こそ足を引っ張ってすみません」
【重傷治療】が一段落したプリマヴェーラが健司に安静にするようにと告げた後にそう言った。
彼女に求めていたことは隠密活動の心得があり奇跡が使える事だ。冒険者としての戦闘勘は実戦を離れると途端に鈍るし寧ろ豚鬼の魔術師に遭遇するなんて想定していなかったよ。必要な情報は得たから問題ないと告げたのだけど、彼女が気にしていたのは死刑相当の犯罪奴隷である野盗の彼女たちの処遇が悪くなるのではと気にしていたのであった。
プリマヴェーラは自分たちの立場が悪化しないか頻りに心配していたのであったが当初の約定通り開放するつもりだ。
ハーンは[時空倉庫の腕輪]に収納した魔導騎士やどさくさに紛れてかすめ取ってきた物品を前に落ち着かない。調査報告書をきちんと提出するなら好きに弄り回していいと告げると嬉々として準備を始めた。
そんなハーンを見送りひとり座り込んでいたアドリアンの元へ。
「今回も助かったよ。具体的な補修の話をしていなかったけど何か要求はある?」
「いや、お互い様だ。あの男は素行さえ良ければ【天位】をt廻っても不思議じゃない」
「今回は縛りプレイみたいなものだし仕方ないんじゃないの?」
「いや…………向こうもこちらを視認しにくい状況だったし言い訳にならないな」
へんに真面目というか…………。
長寿の種族ほど人間の目から見た生活は怠惰に映るんだけど彼は幼少から人社会、結社の手足だったせいか…………もっと不真面目でもいいと思うのだけど。
「そうえいば結社では実力のある人物って注目はしてたんでしょ? どんなのが居たの?」
裏稼業もできるという意味なのだが通じるかな?
「俺が知っている個人で二つ名持ちは、電光クォルブ、 紅刃ミカガミ、名の知れぬ|青の|勇者《|キャーア・デ・フォーティス》、 粉砕ガァナィン、鉄拳フリューゲル、不死身キリュウ、雷帝タカナシ、真なる聖女レグリアム、飃刃タカヤ、海竜殺しスメラギ、黒刃アドリアンくらいだな」
知り合いばっかりなのだが…………。僕とか和花とかアルマとか瑞穂なんかは白き王絡みの事件の時に付いたんだろうなぁ。基本的に名前ではなく苗字で呼ばれるが種族によっては苗字がない場合もありその場合は名前で呼ばれる。ガァナィンやアドリアンなどだ。
冒険者で二つ名持ちは稀有なのでこれは自慢してもいいらしい。
なるほどと思っていると、
「ところで電光はしつこいから絶対に俺らを探し出すはずだ。俺は普段はこっちに居ないから良いがお前は注意しておけよ」
なんて忠告までしてくれた。
アドリアンと別れて僕は気怠そうに座り込んでいる和花と瑞穂の元へ。
「和花、大丈夫?」
【映像幻覚】は結構脳に負荷がかかる。[反発障壁の指輪]の恩恵で物理攻撃は効きにくいとはいえ例の島の件もある、よく高い集中を必要とする【映像幻覚】を使ったもんだ。
すると気怠げに座るように促すので座り込むとコテンと頭を傾け身体を僕に預けてきた。
「皇も私の事を気にしなければあんな大怪我しなくて済んだのにねぇ」
「例の島での出来事を見て反応できなかった事を結構悔やんでたようだからね。僕もそれだけが不安材料だったし」
健司に関しては、ほぼ反射的に手を出していたようだ。それだけショックも大きかったんだろう。冷静に考えれば竜牙兵の攻撃程度で[力場の腕輪]の障壁は揺るがない。
反応がないなと思ったら精神的疲労の限界だったのか寝てしまったようだ。起こすのも悪いし大人しくしていよう。
するといつの間にか瑞穂が側で座っておりこちらをじっと眺めていた。
「いつもありがとうね」
そう礼を言うと頭を撫でる。この小さな身体にかなり過酷な事を要求していると自覚があるだけに毎回申し訳なくなる。
見返りを求めているとしても過大な尽くし方である。アルマにもいえる事だけど献身との釣り合いが取れてないんだよなぁ。
具体的には愛が重い。
現在僕らは西方との境目にある城壁王国に向かっている。これは僕の私用だ。側で降ろしてもらってアドリアンとプリマヴェーラは【転移】で例の島へと帰しその足で街で人と会う事になっている。
和花たちにはそのまま共同体拠点へ帰ってもらう事になる。
そんな事を考えていると僕も疲労からかウトウトとし始めた。ここは安全だし良いかと意識を手放した。
二つ名に関しては変更している人もいます。
飃刃=ふうじん




