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587話 調査してみる⑫

25-07-13 誤字などの修正と文面の微調整

『あの時の二の舞は避けたいんだよ…………』

『それはこっちも同じよ。蘇生の魔法は万能じゃないんだから』

 いつになく強い口調でそういう和花(のどか)をどうしたものかと思案する。言い分は判る。

 アドリアンは一般的には自己中で邪悪と言われている闇森霊族(ダークエルフ)だ。だが彼を見ていると結構義理堅く僕らと何ら変わらないのではと思うのだ。今回だって彼が僕らに付き合う理由はないし、なんならさっさと逃げ出してしまえばいい。


 随分悩んだ気がしたが現実の時間では僅かであった。僕は後ろ手で健司(けんじ)に向かって手信号(ハンドサイン)を送る。

『仕方ねーなー』

 そうボヤくと健司(けんじ)の動きは早かった。瞬時に魔戦技(ストラグル・アーツ)によって肉体を強化すると瞬く間に和花(のどか)に迫り荷物を搔っ攫うかのように肩に担ぐと脇目も降らずに外縁部へと走り出す。不意の事で和花(のどか)も対応できなかった。予想通りである。

 事態を察したハーンが対応に困っていたプリマヴェーラの手を掴むと健司(けんじ)に後を追う。それを見送って僕は魔戦技(ストラグル・アーツ)で強化しアドリアンの方へと走り出す。


瑞穂(みずほ)。どこにいる?』

[遠話器(ログ・トーカー)]の個別機能を使って瑞穂(みずほ)に現在位置を報告するように伝えると珍しく応答がなく。程なくして荒い息と共に『異常なし。いま向かっている』と回答が返ってきた。


 妙だな? そう思ったものの僕の方も武装した集団を発見してそれどころではなくなった。意匠はそれぞれ異なるが硬革鎧(ハードレザーアーマー)で身を包み森林戦を想定してか小剣(ショートソード)小円盾スモールラウンドシールドで武装した五人の集団であった。恐らく傭兵だろう。足運びといい周囲への視線の動きといいそれなりの手練れ感が見てとれる。


 念のため少し距離をとってやり過ごすと剣戟が聞こえてきた。それはアドリアンの報告通りに硬革鎧(ハードレザーアーマー)刺突剣(エストック)を繰り出す無精ひげを生やした中年であった。


 アドリアンはといえば刺突を避けつつ避けれない一撃は三日月刀(シミター)で受け流していた。あの状態では[妖精の外套(アルヴンクローク)]の効果は半減してしまう。激しい動きに透明化の効果が追い付かず僅かに周囲とズレが起こるのだ。手練れ相手にそれは厳しい。

 僕は[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]から久しぶりに投擲短剣(スローイングナイフ)を取り出すと牽制の意味も含めて投擲する。これでもそれなりに訓練したのだ。


「危ねぇ!」


 中年の剣士は想定外からの攻撃にやや大げさに回避して見せた。


『後退しよう。そろそろ体力の限界だろ?』

 手練れ相手の戦闘でアドリアンはかなり疲弊していた。もともと森霊族(エルフ)に限らず闇森霊族(ダークエルフ)も肉体的にはやや脆弱だ。彼らが透明化による不意打ちを好む戦いも体力の消費を嫌うからである。文句のひとつでも返ってくるかと思ったが本当に限界だったようで大人しく身を引いた。


[遠話器(ログ・トーカー)]で脱出の際の回収場所の候補にと事前に打ち合わせていた場所へ行くように伝えると僕は[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]から片手半剣(バスタードソード)を取り出す。

 身バレ防止である。切っ先が[妖精の外套(アルヴンクローク)]からはみ出るのため透明化の効果の恩恵を受けないがこれでいい。


「ほう…………。交代か。次の奴も俺を楽しませてくれよ!」

 そう叫ぶとほぼ攻撃動作(モーション)が見えない刺突が繰り出されてきた。これだから嫌いなんだよ。

 そう思いつつギリギリで避ける。

 しかし身バレ防止の為とはいえ片手半剣(バスタードソード)は重い。どうしても初動が遅れる。それでも僕はもっと早く攻撃動作(モーション)がない刺突を幾度となく見た。師匠である。


 その経験が生きており辛うじて回避が出来ている状況だ。[妖精の長靴(アルヴンブーツ)]の効果で魔法が使えないがそれは詠唱を必要とする通常のという前提が付く。無詠唱(テルガン)や接触型の魔法であれば略式魔術(インフォメール)であれば使える。出来れば接敵して略式魔術(インフォメール)の【昏倒の掌(パルマ・デボーラ)】を喰らわせたい。


 時折片手半剣(バスタードソード)を振って距離を調整していく。出来れば懐に入りたがっている事を悟られないために。


 そしてその時はきた。度重なる刺突が躱されることに業を煮やしたのか僅かなタメの姿勢から身体ごとぶつかる様な刺突を繰り出す。どうみても必殺の一撃だ。

 その必殺の一撃を無詠唱(テルガン)の【瞬き移動(ブリンク)】で躱す。想定通りの距離まで近づき完全に刺突剣(エストック)の間合いの内側に入る。そしてほんのわずかな硬直の後に僕の左手は中年の男へと伸びた。

発動(ヴァルツ)。【昏倒の掌(パルマ・デボーラ)】」

 高電圧が中年の男を襲う。苦悶の声を上げ気絶するかと思いきや抵抗(レジスト)したのか期待したほどの効果は起らず男は刺突剣(エストック)を落とすと腰の短剣(ダガー)を抜くと引っ込めようとしていた僕の左手を斬りつけた。


「糞っ…………油断した。魔戦士(マギウォーリア)かよ」


 歴戦の傭兵っぽい男は落とした刺突剣(エストック)を拾うような愚は犯さない。短剣(ダガー)を構えつつジリジリと距離を測って移動する。


 対する僕も左手を斬られすぐには使えそうもない。片手半剣(バスタードソード)はそれなりに重く片手でも扱えるが手首にかかる負担も大きくどうしても初動が遅れる。


 互いに決め手に欠けどうしたものかと思っていると中年の男の肩に(フレーシュ)が突き刺さった。


「糞っ、油断した! さっきの森霊族(エルフ)か!」


 その一撃は後ろで大人しく呼吸を整えていたアドリアンの速弓(ファストボウ)が繰り出した一撃であった。


『撤収だ!』


 アドリアンの忠告通りこのわずかな隙に距離を取り踵を返すと走り出す。

『助かったよ』

『お互い様だ』

 礼を言ったらややぶっきらぼうな返事が返ってきた。


 一限(五分)ほど走って追手がない事を確認すると少しペースを落とす。更に歩を進めると小柄な人影が見えて来た。そして漂うむせ返るほどの血の匂い。


『迎えに来た』

 原形を留めていない肉片が飛び散った血だまりの中心にいた瑞穂(みずほ)がいつもの抑揚のない声で出迎えてくれた。

当作品では現実の中世の武器とはやや重量などは異なります。特に両手で取り扱う武器は。攻撃対象が対人ではなく怪物相手の為です。あいつらには重い一撃が必要になるからです。


速弓(ファストボウ)森霊族(エルフ)らが森の中で取り扱う為に工夫された連射重視の短弓(ショートボウ)です。その分だけ射程距離(レンジ)と威力が落ちます。

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