586話 調査してみる⑪
「綴る、八大、第四階梯、攻の位、火炎、灼熱、爆熱、爆裂、炸裂、発動、【火球】」
「散開!」
豚鬼魔術師の放った【火球】が放たれたのと僕らが散ったのはほぼ同時だった。ここで冒険者としての実戦の差がでる。僅かに遅れた者が居たのだ。
爆風に煽られ運悪く反応が遅れたプリマヴェーラが悲鳴を上げて転がる。
「そこに誰かいるぞ!」
豚鬼魔術師の声に側に控えていた豚鬼らが一斉に動き出す。そこへ襲い掛かる大狼型戦闘獣が更に場を混乱させる。
『樹さん。今のうちに』
「調教師が居るぞ! 探せ!」
そう命じるものの大狼型戦闘獣の動きは素早く豚鬼らを翻弄しつつ前肢の鉤爪で少なからず痛痒を与えていく。
僕らもボケーっとしていたわけでゃなく健司がプリマヴェーラを助け起こしこ肩に担ぐとわきる《コンポーズ》、八大、第四階梯、攻の位、火炎、灼熱、爆熱、爆裂、炸裂、発動、【火球】」
「散開!」
豚鬼魔術師の放った【火球】が放たれたのと僕らが散ったのはほぼ同時だった。ここで冒険者としての実戦の差がでる。僅かに遅れた者が居たのだ。
爆風に煽られ運悪く反応が遅れたプリマヴェーラが悲鳴を上げて転がる。
「そこに誰かいるぞ!」
豚鬼魔術師の声に側に控えていた豚鬼らが一斉に動き出す。そこへ襲い掛かる大狼型戦闘獣が更に場を混乱させる。
『樹さん。今のうちに』
「調教師が居るぞ! 探せ!」
そう命じるものの大狼型戦闘獣の動きは素早く豚鬼らを翻弄しつつ前肢の鉤爪で少なからず痛痒を与えていく。
僕らもボケーっとしていたわけでゃなく健司がプリマヴェーラを助け起こし肩に担ぐのを確認すると先ほど言ってきた箇所へと走り出す。
この大陸の豚鬼であんな装備も統制も整った連中はいなかった。師匠の報告書にあった裏大陸の豚鬼帝国の手の者だろうか?
もうこっちに攻め込んできた?
でもこの秘匿された箇所にいきなり?
僕は混乱していた。だがここで考えていても埒があかない。
瑞穂の先導で侵入に使った部屋に戻り一息つく。
『大丈夫そうだな』
健司がホッと一息つきプリマヴェーラを床に寝かせる。彼女の負傷の度合いは威力と郷里から火傷の浅達性II度くらいだろうか? 皮膚が赤く腫れ、水ぶくれができているはずだ。痛みで苦悶の表情している。かなり痛みがあるだろうが死に至る傷でもないのでリスクを冒してまで治療は出来ない。[妖精の長靴]の効果で僕らは魔法が使えない治癒魔法は時間がかかるし出来ればここを出てから施したい。それにこの世界の解釈なら重傷寄りの軽傷だ。済まないが我慢してもらう。
『すまないが外に出るまで我慢して欲しい』
少なくても森の中でなら治療する時間くらいは捻出できるだろう。
プリマヴェーラが肯首するのを確認したので再び健司が肩に担ぐ。
『とりあえず最低限の目的は果たしたしここを出よう』
そう宣言すると瑞穂が真っ先に登り始める。悪いけど身体の大きい健司と担がれているプリマヴェーラは最後尾だ。僕らが先に出て安全を確保しなければならない。
『異常…………なし』
先行した瑞穂から[遠話器]が届く。侵入した部屋が何時発見されるか分からないので急いで上がり健司が出てくるのを待つ。
狭い竪穴でプリマヴェーラを担ぎつつ壁に擦り付けるくらいキツキツであったがなんとか八半刻後には地上に戻ってきた。
『瑞穂とアドリアンは周辺を警戒』
二人は肯首するとすぐに離れていく。
『健司はプリマヴェーラを地面に寝かせてくれ』
『おう』
そう答えて地面に寝かせるのを見つつ和花を呼ぶ。
『なに?』
『悪いけど治療をお願い』
治癒魔法の技量はどちらも同じ程度だが患部に直接魔法を施したほうが効果は高い。緊急性のある戦闘中でもないし同じ女性の和花にお願いする事にしたのだ。
『わかったわ』
そういって和花は側にいた健司をシッシと追い払うように退かすと[妖精の長靴]を脱ぐとプリマヴェーラの[妖精の外套]を捲って患部の確認をする。
「結構酷いわね。もう少し我慢しててね」
そう告げると詠唱を始める。
「綴る、拡大、第五階梯、快の位、克復、快気、治療、修復、発動。【重癒】」
魔法は完成し癒しの淡い光がプリマヴェーラを包み込む。
落ち着いた事でふと気が付いた。
『ハーン。大狼型戦闘獣は?』
『尊い犠牲だったっす』
そう言ってハーンは豚鬼らの足止めを命じつつ損傷が酷くなったので機密保持のために自爆させたと報告したのだった。
『自爆での豚鬼の被害は?』
『推定っすけど3人は!殺れたかと』
大狼型戦闘獣の自爆は爆発ではない。機密保持のために何も残さないために【空間消去】が発動するようになっていた。
空間そのものを消し去る時空魔術の奥義だ。
『なら安心かな』
一安心したので僕は開閉扉を魔法で施錠する事にした。
「綴る、付与、第五階梯、封の位、封印、閉鎖、施錠、吸着、発動。【封扉】」
魔法は完成し開閉扉は魔法を解除しない限り開かなくなった。
『終わったわ』
治癒が終わり[妖精の長靴]を履きながらそう報告してきた。振り返って確認するとプリマヴェーラも起き上がっており身体を動かし状態を確認している。
『すみません。お役に立てないどころか足を引っ張ってしまって』
僕の視線に気が付いたのかそう言って頭を下げる。
『目的は達成できたしこのまま大人しく帰還できれば問題ないよ』
そう軽く言った時だ。
『お客さんだ』
唐突にアドリアンから報告が来た。
一気に警戒レベルが上がり僕らに緊張が走る。今の状態はあまり戦闘向きではない。大狼型戦闘獣も潰してしまったし戦闘になれば真っ先にハーンとプリマヴェーラを逃走させなければならない。
『気が付かれたのか?』
アドリアンは離れているのでまずは状況確認だ。
『まだだ。だが、怪しんでいる』
闇森霊族は隠密活動が得意だ。彼が怪しまれるくらいには気配を察知する能力が高い何かという事か。
『対象は?』
『硬革鎧の…………たぶん男。珍しい装備だ。刺突剣を背負っている。傭兵だろう』
確かに刺突剣の使い手は珍しい。打刀使いの僕としては突き主体の刺突剣とか苦手なんだよね。向こうの方が間合いが広いからね。
『俺が囮をするので今のうちに外縁部まで行け』
僕からの返事がない事にやや焦れた感じでそう告げてきた。これは結構危ない?
『行くんだろ?』
迷っていると健司が当然だろといった感じで近寄ってきた。だが残念だ。
『健司は和花とハーンとプリマヴェーラの護衛だ。外縁部まで頼むね』
『嫌よ!』
かなり強い口調で和花に拒否られてしまった。正直言えば魔法が使えない和花はせいぜい訓練した兵士よりマシといった感じで不安を覚える。もう例の島での二の舞は御免だ。
当作品では刺突剣は全長130cm、重さ1.3kgほどの両手用の戦闘用刺突専用の剣です。
しかし色んな媒体でデータが違いすぎてどれが正しいやらといった感じです。




