585話 調査してみる⑩
『こんな設備があるなら強気にもなるなぁ…………』
それは巨大な自動工場であった。サイズ的には帝都ドームに匹敵する空間があり次々と出力されていく魔導騎士や魔導輸送騎を見つめる。
だが今の時代の最新鋭騎を大量に生産したとして終末のモノや赤の帝国の太古の騎体や神聖プロレタリア帝国の信者の自爆攻撃に対抗できるかは怪しい所である。
そう思っていると、
『あれ…………中身は別物っすね』
隣に居たハーンがそんな事を呟いた。
『確かに多少形状に違いはあるけど正式採用騎の[ドレッド・バーン]じゃないの?』
眼下並ぶ2サートにもなる巨人たちを眺めつつそう尋ねる。何度か騎乗したし悪い騎体ではない。特長のないのが特徴といった感じの騎体だ。悪い意味ではなくすべてにおいて高性能でバランスがいいという意味でだ。だが指摘さてると確かに形状が一部異なっている。
『背中になんか背負ってますし腰のあたりの装甲がスカート状に大きく変わってるっす。持ち出してバラしたいっすねぇ…………』
ハーンの悪い癖が出始めた。
『で、どうする?』
アドリアンがどうせやるんだろ? と言わんばかりに問いてくる。よく見れば健司も暴れたそうにしていた。
困るんだよなぁ…………。
[時空倉庫の腕輪]は持ってきているので収納する事は可能だ。だが問題はどうやってあんな大きいものを気が付かれづに収納するかだ。
『サンプルとして一騎あれば良いんでしょ?』
『そうなんすよ!』
和花の言に便乗する形でハーンが食い気味に意見を言ってきた。
多数決しても略奪派が四人に対して僕は反対、瑞穂は追従してくれるかな? プリマヴェーラは興味すらなさそうである。
その瑞穂はといえば持ってきた携帯撮影装置で眼下の光景などをきっちり収めていた。僕に見られている事に気が付くと『任せて』とにっこり。
人選を間違えたのだろうか?
取りあえず自動工場区画に行かない事には始まらない。警備状況とかだけでも調べてみるかと移動しようとしたその時だ。
警報が大音量で鳴り響いた。
バレたのか?
慌てて戦闘準備に入る。「侵入者だ!」という声と共に休憩所にも武装した兵士が雪崩れ込んでくる。だが彼らは僕らを見ていない。それどころか素通りしていくのだ。
『チャンスじゃん』
そう呟いたのは誰であったか。それからの僕らの動きは早かった。瑞穂が先陣をきり自動工場区画の入り口と思しき場所へと走り出し遅れじと全員が動く。
瑞穂はまるで地図が頭にあるかのように迷いなく通路を進み程なくして従業員用の片開き扉の前までやってきた。
いつも思うがそのチート過ぎる能力を僕にも分けて欲しい。いや、だからなのか肉体的に弱体化されているのは。それはそれで困るな。
扉は施錠されているようだが、迷わず[透過するもの]を引き抜くと施錠機構のあるあたりを斬りつける。この[魔法の武器]の良いところは指定した物体以外は傷つかない所だ。
すると内部機構のみが破壊される。
『開いた』
何事もなかったかのようにそう報告するので頭を撫でて褒めておく。すると至福そうな表情をするのである。もっと撫でてあげたいが時間が惜しいので自動工場へと侵入を果たす。
外から眺める以上に内部は広く感じる。
ここでも兵士が慌ただしく行きかっているが僕らには気が付かない。
『さて、どれを頂こうか…………』
そう呟いてハーンがウロウロし始める。念のためにアドリアンとプリマヴェーラにハーンに付き添うように頼む。特に反論もなくアドリアンはやれやれと言った感じで、プリマヴェーラは無言でハーンの後ろについた。
ハーンが大物の物色中に僕らもなんかしら行動をしようと自動工場で小物の物色を始める。透明化の安心感からか一限ほど夢中で探し回っていたら気が付いたら健司が居ない事に気が付いた。
『おーい。これ見てくれよ』
魔導輸送騎の陰から[遠話器]越しに僕らを呼ぶ健司を見つける。彼の足元には武装した兵士がひとり倒れていた。
『見つかったの?』
真っ先に和花が咎めるような口調で発し瑞穂が周囲を警戒するが他の兵隊たちは慌ただしく動いており気が付かれてはいない。
『何してるんだよ…………』
バレていない様なのでホッと一息つく。
『悪い。悪い。そこの魔導輸送騎でぶつかりそうになって反射的にぶん殴っちまった』
[妖精の外套]は透明化の恩恵を与えるが派手に動くと透明化の効果が弱くなる。そのため透明化のまま戦闘とかはできない。殴った瞬間は相手に見られた可能性はある。
とは言っても不意打ち同然になるし姿を見られていない可能性も高い。[妖精の長靴]の効果で無詠唱の魔法以外は使えないのでここで記憶を弄る訳にもいかない。
『処理はしたくないなぁ…………』
だがここで事態が変わる。
爆発音と悲鳴が工場内に響きわたり数人の兵士が派手に吹き飛んでいった。
そして姿を現す侵入者たち。
『豚鬼?』
金属鎧で完全武装した豚鬼の集団であった。狩猟民族である豚鬼に鍛冶技術なんてある筈もなく一見すると統一された防具をどうやって用意したのか?
豊満ボディに相応しい重装甲の防具と子供の体重くらいある大型の武器を振るい兵士たちを蹴散らしていく。兵士が振るう室内戦を想定した小剣程度では小動もしない。大して豚鬼の一撃は一撃で致命傷と言って過言ではなく寧ろ即死であれば無駄に苦しまずにすむ。
『樹さん。今のうちにこいつを仕舞って欲しいっす』
惨劇を眺めていた僕らにハーンが声をかけてきた。この混乱に乗じて一騎パクって帰ろう。
『完全に火事場泥棒だよなぁ…………』
そうぼやきつつ[時空倉庫の腕輪]に魔導騎士を一騎収納する。
突然一騎の魔導騎士が消えても誰も気が付ないくらいには自動工場内は混乱していた。
だが幸運もそこまでであった。
「者ども誰か潜んでいるぞ!」
ひと際豪奢な防具に身を包んだ豚鬼の横にいる杖を持ち長衣を纏った豚鬼がそう叫んだ。
彼らが使った言語は公用交易語によく似ていた。いや抑揚がやや異なっていたが同じではないだろうか?
まさかと思っていら長杖を持った豚鬼は高らかに詠唱を始めた。頭上に火球が出現する。
「綴る、八大、第四階梯、攻の位、火炎、灼熱、爆熱、爆裂、炸裂、発動、【火球】」
人型生物が自在に操れる武器の重さは最大で自重の一割弱ほど、動き回れる防具の総重量は体重の四割ほど。
平均して身長0.5サート超え、体重125グローくらいの豊満ボディーの豚鬼さんの場合は両手武器なら12.5グロー前後、防具は67グローくらいになる。
単に振り回すだけならもっと重い武器でも問題なし。




