583話 調査してみる⑧
2025-6-19 何度か書きかけては消していた名残か重複していた部分があったので削除。瑞穂が魔法を使う前にひとつ行動を追加。
周辺を探し始めて四半刻ほどが無為に過ぎていった。リアルすぎる幻覚に頭では偽物だろうと疑っているにも関わらずどうしても本物に思えてしまう。
精霊力を感じ取れる和花や瑞穂やアドリアンの方が違和感があるはずなのに誰も手応えを感じない。
「なんで手掛かりが見つからないの…………もう最後の手段に…………」
「ダメだって!」
和花がイラつき物騒な事を言い出したので慌てて止める。
最後の手段とは[呪文貯蓄の指輪]に封入してあるメフィリアさんに施してもらった【完全解除】である。師匠お墨付きのあれなら間違いなく【地形変異】の魔術を破壊してくれるだろうけど隠密の意味がなくなる。
それに【地形変異】の魔術が破壊された挙句、今立っている場所が実は地面がなく中空であれば僕らは落下してしまう。迂闊には使えない。
他の面子も少なからずストレスが溜まっているように思えた時だ。
「樹さん。こいつを」
ハーンが何かを見つけたのか呼んでおり、側にいくと大狼型戦闘獣を操って目を疑うものを見せてきた。
大狼型戦闘獣が地面にめり込んでおりそんな中スイスイと歩いていた。
「いつ気が付いたの?」
最初は指示を出すハーンが木々を避けるように移動をさせていたのだけど、ある時うっかり木にぶつかる指示をしてしまったところ木を透過してしまったとの事。念のため数度検証した結果【地形変異】で間違いないと判断したとの事だ。
そう言えば大狼型戦闘獣は生物ではないから幻覚が効かない。なんで気が付かなかったんだ…………。どっと疲れが出てきた。
仕組みが分かった途端に幻覚の効果が切れて僕の目にも周囲の光景が違ってみるようになる。そこは土瀝青で舗装された下り勾配の道であった。そしてその先には巨大な鎧戸が存在があった。
「この通路を真っすぐとはいかないよね? どこか非常口を探さないと」
そういってプリマヴェーラが上を指す。【地形変異】の効果がなくなった僕らには通路の真上は上空から丸見えである事に気が付く。今は曇っているから恐らく見つからないが念のため別の入り口を探す必要がある。
「あんな大きな鎧戸があるって事はあの周辺は迷宮宝珠を使った範囲じゃないよね?」
「そうだね。仮に何か施設が迷宮宝珠で作られていたとしても鎧戸の奥の空間にある筈」
【地形変異】の影響が消えたので周囲の探索をあらためて始める。そして八半刻ほど探し続けた結果、地面に巧妙に偽装された非常口と思われる開閉扉を瑞穂が発見した。
開閉扉は本業の手練師であるプリマヴェーラに調べてもらった。
「これって恐らく後付けで無理やり取り付けた開閉扉ね」少なくても鎧戸に使われている技術より低いものだわ」
「罠とかの可能性は? 偽装開閉扉とかじゃない?」
「場所的にその可能性は低いと思う。それに…………」
僕の問いにプリマヴェーラが答えつつ開閉扉周囲を調べて回る。
「鍵もかかっていないし特に危険はないわ」
そう回答が返ってきた。なら開けてもらおうとなり隠された取っ手を引き出し上げようとするが、
「ごめん。扉が重いから引き上げられない」
と答えるのであった。
「なら俺の出番だな」
そう言って健司がいとも簡単に扉を引き上げてしまった。
ぽっかり空いた0.25サート四方の竪穴には梯子が埋め込まれており下の方は暗くてよく見えない。
いきなり明るい場所に出るようなことにならなくて良かった。
さて誰から行こうか。
ふと見ると瑞穂が挙手していた。
「瑞穂にお願いするよ。念のため【落下制御】かけておく?」
「大丈夫」
僕の問いに必要ないと答えると自前で使うようで魔法を阻害する[妖精の長靴]を脱ぎ詠唱を始めた。魔法の呪的資源的に瑞穂の分は回復か補助に回したかったが本人のやる気を削ぐのもどうかと思ったので特に止めなかった。
「綴る、八大、第四階梯、付の位、引力、作用、制御、発動。【落下制御】」
静かに的確に呪句を唱え呪印を結び詠唱が完成するとぴょんと飛び込んでしまった。
驚いて竪穴を覗くが既に7.5サートほど先だ。これ以上は成れると[遠話器]の圏外になるので二番手として僕が梯子を下り始める。
[妖精の長靴]の効果で音もなく梯子を下っていると[遠話器]から瑞穂の声が届いた。
「扉が一つだけの真っ暗な部屋。よく分からない材質の壁と床。他には何もない」
その報告を聞いて部屋の中と扉の確認を指示し急いで梯子を下りていく。
部屋の大きさは6スクーナほどとあり床に関してはなんだろうか? 恐らくだが打ちっぱなしの混凝土だろう。
混凝土自体はいまの時代でも一部で採用されているのでそれだけを以って判断は出来ないが扉だけはいまの時代にそぐわないものであった。
金属…………軽銀製の両開き扉であった。
「この時代は自動工場以外で鉄礬土から製錬する技術は確立されていない筈なので扉から向こうは前史文明の遺産の可能性が高いな」
どうしたものか…………。
「開ける?」
「いや、駄目だ。遺跡だとすると開けた途端に管理室に通知がいく場合がある」
「分かった」
瑞穂はそう頷くと[鋭い刃]を抜き混凝土壁に突き刺した。[魔法の武器]の効果は理解しているが混凝土壁を紙を切るように切っているのは脳がバグりそうである。
全員が居りてくる頃には壁、鉄筋コンクリートのたいして厚くもない壁は細かく切り刻まれ20サルト四方の開口が出来ていた。
さて、監視体制とかはどうなっているやら…………。
さすがに毎日投稿は難しいと感じた。




