581話 調査してみる⑥
前話にてレポートの報告内容に欠落があったので追記しました。
ハーンの持ってきた話は二つあった。
ひとつは発令所からで浮上場所をどのあたりにするかという話だ。亜空間の海を移動しているが最大の問題は地上に浮上した際に衛星からの監視をどう避けるかという話であった。
ウィンダリア王国ほどの大国であれば僕らが保有する[神の視点]を持っていてもおかしくはない。リアルタイムで監視はされていないだろうけどある程度の時間間隔で衛星からの見られていると考えるべきで共同体拠点などはわざわざ偽装倉庫を設けるなどしているがこれから行く場所は何もない。
浮遊式潜望鏡で周囲を確認して最低限の浮上で艦橋上部扉周辺だけ地上部に出すくらいしか対策がない。ただしそれでも最低でも艦橋の面積と同じだけの開けた空間が必要になる。
あとは夜、それも曇りだったりすればこっそり浮上は出来るだろう。
既に目的地の近くまで来ており周辺の索敵を行っているとの事だったが日の出も近く発見されるリスクを避けるなら-夜まで待つかと艦長は考えているらしい。
いまから浮上指示を出しても出撃する面子の支度が終わっていないから間に合わないか…………。諦めよう。
「それは分かった。それでハーンの用件は?」
「実はですね…………。新装備の実働データがとりたくて…………」
「大きなものは出せないよ?」
「まずは実物を見て欲しいっす」
そこまで言われればという事で艦内格納庫へと移動する。
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「これっす」
艦内格納庫で見せられたものは体高0.25サート、体長0.6サートほどの四足獣であった。よく見ると生物ではない。大狼を模した多脚戦車との事であった。魔像ではないのである程度は自立稼働が可能でその分コストがかかっている。
「これは戦闘用?」
大狼型は鋭い牙と爪を持つ。でもこれを連れて移動するデメリットを考えると…………。
「戦闘は出来るっすけど売りはそこじゃないっす。――――」
そう言うと機能について語り始めた。これが長いんだよねぇ…………。
要約すると静穏性に優れほぼ足音がしない。更に【隠匿】の効果で探知系の魔法を無効化し【隠蔽】にて自身の姿をほぼ完全に周囲と同化させてしまう。探知系も【風流探知】、【振動探知】で広範囲を探知可能である。また追跡には【追跡の光跡】が持ちいられ余程隠蔽が得意な相手でなければ追跡可能である。【千里眼】で遠くを見る事が可能で【暗視】にて暗闇でも行動に師匠がない。
他にも規模は小さいが【時空収納】を持ち登録した主人とは【遠話】にてやり取りが可能。脳核ユニットの知能レベルは8歳児程度との事だ。更に【壁面歩行】の効果にて壁面や天井に吸い付いて移動が可能で機能不全に陥ると【爆裂】と同等の自爆攻撃を行う。
「どんだけコスト掛かったの?」
「装甲歩兵をいち単位として、こんだけです」
そう言って指を7本立てる。
「装甲歩兵7体分なら安いじゃん」
「いえ…………その、十倍っす」
装甲歩兵70体分は流石になかなかの高コストだなぁ…………。
「量産はしていないんだよね?」
「流石にコスト高すぎて…………」
「人命には代えられないしもう少し生産しておこうか。ただし最終判断は実働データの結果を見てからってことで」
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昼食が終わった後に周辺状況の整理が出来たので打ち合わせを行う事になった。
浮遊式潜望鏡で周囲を確認して事前に用意してあった地図と照らし合わせたものがテーブルに広げられている。
現在地から半径3サーグに民家などはなし。また街道を含む人工物もなし。南側に2サーグほどの距離に事前に調べていた森が広がっているくらいだろうか。
「どう考えてもこの森が怪しいよな」
アドリアンがそう呟く。これに関しては僕ら全員が同じことを考えていた。怪しいだけど何処がと言われると答えが出てこないのである。
「やっぱ近づいてみるのが一番じゃないっすか?」
そうハーンが口にする。これも皆が考えている事だ。問題はバレずにどうやって近寄るかである。僕らは高度な魔導機器を有しているが相手にだって同等とは言わないが魔導機器はあるだろう。力任せでどうにか出来るとは思っていない。
「あれだ! 海豚でいきましょう。あれなら半径0.4サートほどの空間があれば出入りできるっすよ」
海豚とは海豚級潜航艇の事で全長1.25サートほどの海豚っぽい外観の複座の次元潜航艇である。勿論この艦にも積載している。
ただし大きさ的に行動範囲が狭く機密保持のために最悪の場合は自沈も視野に入れなければならない。
ただそれ以外に穏便に済ませられる方法もちょっと思いつかなかった。
「大狼型戦闘獣はどうする?」
皆の表情がなんだそれってなる。ハーンとの取り決めで名前を決めようとなりポチとなったのだ。一通り機能を説明するとハーンが「それなら海豚の改装が必要っすね」と発言しさっさと艦内格納庫に向かってしまった。彼の中では決定事項のようである。
「取り合えず海豚で出撃してどこか適当な空間を橋頭保にしよう」
行かないと何もわからないし反対意見はなかったので「十一の刻出撃とする」と宣言し解散となった。




